※数年後。
風丸一郎太の分裂




大学に入って一人暮らしを始めた。案の定幼なじみが週に何度かは心配して見にきてくれた。そんなこんなで冬を迎えた。
今日は冷えるな。円堂。長年幼なじみをやっていると、ドアの覗き窓越しだって相手が何を言ってるのか分かる。というのは嘘だ。真っ赤な嘘だ。俺は首をひねった。今のは部屋にいる風丸が発したものであり、ドアの向こうの風丸が発したものではない。ただ、二人の姿が全く同じであるためにどちらがどちらかという境界線がちらほら舞う雪に邪魔されて俺の頭の中で人ひとりの区別がねじれてこんがらがってきた。このままでは二人の風丸が一人の風丸になってしまうぞ、と思い、こたつでぬくぬくだらだらしている方の風丸に相談してみた。長い青の髪がつるつるしたこたつ机にざらりと流れている。
最近風丸は俺の家に来ると髪をほどいていることが多くなった。口数は減り、じっとこちらを赤銅色の目で見つめている。少し息苦しいけれど、なぜか追及する気にはなれなかった。
「円堂、放っておけばいい。今は俺といる時間だろ?」
「や、でもさ、外のも風丸なんだよ」
「偽物じゃないのか」「うーん…すっげえ風丸っぽい、なんとなく」
「でも俺はここにいるんだ」
「うん」
「俺がいるんだから」
風丸たちは俺とドアを挟んで向き合っているようだった。外は本当に寒そうだ。結んだ髪の根本は冷えて痛みそうだ、と思った。意を決してドアを開けた。
「消えるのはお前だよ」
どちらかの風丸が小さく呟いた。





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