「先週は失敗したけど、今度こそ喧嘩するぞ、砂木沼! 張り切ってこーぜ!」 「その気があるならまず膝からおりろ」 「えっ」 「適切な距離を取らなければ喧嘩する気にもなれん」 「そうか…よし」 口喧嘩がしたい、付き合っている者どうしとして! 円堂がそんなことを言い出したのが先週。それから一週間後の今日、日曜日。円堂はその話を忘れていなかったようだ。先週だってはぐらかしたわけではない。むしろ積極的に協力した。しかし火種が見つからずただの雑談で終わってしまったのだ。砂木沼はゆるく息を吐くと、相手の出方をうかがうように少しだけ身を引いた。 友人やライバルとしてでなく、特別な感情を媒介に付き合うと相手の知らなかったところをたくさん発見できる。ささいな長所や短所をわれわれはどのくらい見つけただろうかとぼんやり考えていると、円堂が勝手にごにょろごにょろと唸りはじめた。 「…どうした」 「いや、あのな、喧嘩のもとを…ていうか砂木沼も一緒に探してくれよ!」 「気乗りせんな」 「治せんせー」 「しかたがない」 先週よりもだらけた雑な言い方に、砂木沼も適当に返す。そして、火種を発見すべく円堂をじっと見つめた。 「お前は、」 「おう」 「顔が丸いな」 「そうだな」 「頬がよくのびる」 「いひゃい」 「こんなにものびる」 「ひゃににゅまひゃめひぇ」 「どうしてこんなにのびるのか、どうしてこんなにのびる必要があるのか」 「…」 「こんなくだらない話はお前以外にしないわけだが、それについてはどう考える」 「ふへひい」 「そうか、同じ気持ちだな」 同じ気持ちになってしまった以上、喧嘩は出来まい。仕方のないことだ。砂木沼は色気のかけらもない理由で赤くなった頬を押さえる円堂を膝の上に引き寄せた。 |