お腹が痛い塔子ちゃん


たまに寄越される視線はどこか遠慮がちで、あたしはひどくむしゃくしゃした。なに勘違いしてるんだ男どもめ。八つ当たりだとはわかっている。それどころか、これは自意識過剰の産物でしかない。ああもうお腹痛い。歯噛みして唸れば、隣でスポーツドリンクを用意していた秋が、お腹しまって寝ないと、なんてお母さんのようなことを言った。
「キャラバンで休んでいた方がいいよ」
そう言いつのる秋を制して、転がるようにベンチに座った。春奈も夏未も、言葉には出さないものの心配そうな目をあたしに向けている。血の気を失った顔を陽光で覆い隠した。大丈夫。少し休んだら、あたし、治ると思う。口の端から漏らした笑いはひょろひょろと覇気がない。お腹、上の方、痛いったらない。
「綱海、行ったぞー!」
フィールドで、円堂に背を預けていればそのほか大勢と一緒くたであっても視界に入れてもらえる。気にかけてもらえる。ベンチにいたって選手として役に立つことができる。でも、今のあたしはなんでもない一介の財前さんちの娘に過ぎない。それってこんなに腹立たしいことだっけ? ボールを抱え、まっすぐに指をさす横顔は、その視線は、矢となってあたしのいるベンチと平行に飛んでいってる。
「サッカー、したいな」
あたしはただの財前さんちの娘。サッカーと円堂が好きなだけの、練習してるみんなと何も変わらない一個の人間。お腹痛いのだって女の子特有のなんちゃらじゃない、ただのはらいた。だからこそ、かつてないほど静かに焦がれた。サッカーしたい。そのあたたかな矢を守りたい。なんなら率先して貫かれちゃっても構わないのに。




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