それは誘拐です エロガーさんが人でない


月をはらんだ窓を背に立つエドガーの髪がゆったりとそよいでいた。円堂は目覚めきっていない目でその青いラインを追う。エドガーが口を開いた。この宿舎の防犯は、実になっていませんね。じいん、と、泣きたいような懐かしいような帰りたいような甘い香り。知らず知らず、円堂はエドガーに近づいていった。すいと口角が上がる。声を上げて笑いたい。堪えるというのはこんなに大変だったろうか。茫洋とした瞳でエドガーを見上げる円堂の額に口づけた。額にかかる髪をはらい、二度三度。甘い香りは強くなっていく。

幸せなことにエドガーは美しい男だった。だが不幸せなことに想いを寄せる者と違う種族だった。しかし想いを遂げるすべを持っていたから、やはり彼は幸せな男なのだろう。そうでなければこのような笑みは浮かべまい。細められた瞳からは、この先なにが起ころうと腕の中に囲った円堂を手放すまいとする、この世で最も凄惨な種類の幸せがとろけでていた。

君は私を受け入れてくれますか、と、眠りに落ちた円堂に問いかける。横抱きにして、窓枠に手をかけた。袖からずるずると太い蔦がはい出てきて、宿舎の壁に絡み付いた。窓の取っ手にもしっかり巻きついたことを確認した後、エドガーは蔦をつかんで軽やかに飛び降りる。円堂は眠ったままだ。質問の答えをいつ聞こうか。イギリスエリアまでの道を行きながら、エドガーは糸のような月を見上げた。


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