ガラス越しのキスとか多分まじ無理な南雲


「お前馬鹿なんじゃねえの?」
「うぐ」
頬には大きなばんそうこう。ふくらはぎもひどく擦りむいたという。何をやったのかと聞けば、体育で野球をして、スライディングしたら滑りすぎ、接触を避けるために体を捻ったらうっかり弾みがついてまあるい頬で着地したらしい。馬鹿じゃね、こいつってほんと馬鹿、いや、まあ、知ってたけど。顔の四分の一ばんそうこうってそうそうねえぞ。
保健室の引き戸にはめ込まれている磨りガラスに左の掌を当てたまま、円堂がぼやいた。そんな何回も言わなくても。馬鹿、何回言っても足りねえし。
雪の中のようにぼやける指の形、掌の色。職員室で受け取った資料を左手に持ちかえる。そろり、と重ね合わせた。こいつは正真正銘の馬鹿者だから気づくことはないだろう。
「派手に顔傷つけてんじゃねえよ、サッカー以外で」
「心配してくれてありがとうな」
「ちげーし、士気に関わるだけだ」
「誰のだよ」
「知るかばーか」
こいつは正真正銘の馬鹿者だから気づくことはないだろう。いつかはっきり言わなくてはならないだろうか。厚く積もった雪を挟んで重ねているのに、掌が焼け焦げそうなこの自分が。




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