家庭教師エイリアンデザーム


銀縁の眼鏡のつるを軽く抑える指先を、すがるように円堂は見ていた。シンプルなフレームがわずかばかり上下する。
「なぜ」
「…はい」
「得点源である基礎計算問題で間違えるのか」
「…はい」
「今回のテストでは一番の難易度だった問4はあっていたのに」
「サッカーの話だったから、わかりやすかったんだ!」
ぱっと顔を綻ばせる少年の頭を撫でながら、家庭教師、砂木沼は全ての問題がサッカー関連ではない、と当たり前のことを諭した。それはそうだけど、と口を尖らせる円堂を見遣り、問4を丸々覆うように大輪が咲いている解答用紙をつらつら眺めた。
「途中までは解けている問題が多い、最後まで集中したら解答を導き出せるはずだ」
「が、んばり…たい…?」
「問3は、式は合っている。考え方は…正答とずれてはいるがまあ大丈夫だろう」
「じゃああともうちょっと?」
「ああ。」
「そっかー…砂木沼先生、俺、今度はがんばる」
「そうだな」
隅の方に、平均点までもうちょっと!!! とやるせない激励が記されている。しかし平均点などはたいした問題ではない。今日間違えた箇所を、明日正しく答えられるかどうかだ。砂木沼は宿題と睨み合い始めた円堂の横で静かに茶を啜った。
「ん? あれ? あー!」
「きちんと喋らんか」
「砂木沼先生、できた! ここ! 見て!」
自分でも信じられないという顔だ。ノートを見る。確かに合っている。赤ボールペンで問題番号に小さな花丸をつけた。
「おおー」
「…お前がやったんだろう」
「なんか嬉しくて」
「そうか」

しばらくののち、円堂が時計を気にしだした。予習用ドリルの上辺を落ち着きのない視線がひらひら滑っていく。
「何か分からないところがあるのか」
「…したいなあって思って。砂木沼先生と」
「な」
「早くしたい、おれもう我慢できない…」
男子中学生の台詞に、元からあまり変わらない表情が凍りつく男子大学生。
「せんせい…テストも終わったことだし、」
すっ、と円堂が立ち上がる。瞳の奥がきらきらと燃えている。開いた口が塞がらない砂木沼の手をとって、少年は満面の笑みを咲かせた。

「砂木沼先生とサッカーしたい!」


課題の追加を言い渡し、半泣きになる円堂を置いて部屋を出た。ドアを背に座り込む。一瞬でもけしからんなにかを想像した自分がけしからん。




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