*へなちょこをこじらせたまま跳ね馬に進化する前段階くらいの複雑な気弱さを兼ね備えたネオニート・ディーノさんがいます。







「ああ、思い出した。」

「ん?」

「ネオニートだ。」

「マグニート?」

「ネオニートです。」

「なんだそれ?カッコイイな。」

「ニートであるのに謎の収入源を得て生活しているニート、つまりディーノさんのことですね。」

「……謎の収入源って…。」

「ニートは否定しないんですか。」



ちなみに謎の収入源っていうのは株やら何やらが一般的ですよ。ディーノさんの場合、セレブニートにも近いと思いましたけど定義としてはこっちの方が当てはまるので…

と、話し続けるあたしの言葉を力無く遮ったディーノさん。その表情はもはや見慣れた複雑なもの。いつだってディーノさんは、ニートと言われて否定しない割に、例外なく心底傷付いてしまうのだ。



「…あんまりさ、ニートニート言ってくれるなよ。」

「事実ですし。」

「……まあ、うん…。」

「と言うかお仕事はしてますから、厳密にはニートではないんですよね。」

「そうだろ!」

「生活ぶりは完全にニートですけど。」

「……。」



ディーノさん、黙るくらい自覚があるなら改めようとは思わないんですか。

何を改めるかと言えば、今言った通り、彼の人とは違う生活ぶりだ。マフィアを改めろって?いやいや違う、この際マフィアであることはどうでもいいとして、その職種を逆手に取って、マフィアのボスという職業に就いている筈のディーノさんをニートと言わしめるこの生活を作り出した手腕を、である。

ここ数年でどんどん勢力を増したらしいキャバッローネファミリー。それは偏にリボーンに育てられ、一人前になったディーノさんのお陰だと彼の部下の皆さんは言うが、それに比例してボスがどんどん引きこもるなんて誰が思っていただろうか。

彼は統率のとれた頼もしいファミリーと、自身の指示力を生かして、部下を動かすことでどんどんどんどん引きこもりと化して行ったらしい。部下の皆さんは彼の右腕左腕、と言えば聞こえはいいが、それを最大限利用して自分は一切外に出ないっていうのは褒められたことじゃない。

リボーンがツナの元に来てからはそれに拍車がかかり、屋敷から全く出なくなってしまったとのことだ。仕事をしていない時のディーノさんの様子を聞けば、それはもう立派な立派な修行僧もといニート。だから彼はネオニートだとあたしは思う。引きこもりって言うには、ディーノさんは大人過ぎる気がするし。



「せめてまたうちに遊びに来て下さいよ。代わりにあたしを呼び出すのは止めて。」

「…巴を呼んだのはあいつらだ。」

「そうですか、じゃああたしロマーリオさん達のとこ行ってきますね。」

「待て!!」



立ち上がりかけたところで腰にしがみつかれてそれ以上前に進めなくなる。ニートの癖にこの筋力…いや敷地が異様に広いから関係ないか…。体を動かすのが嫌いなわけじゃないんだよなあ、この人。



「何ですか、ディーノさん。」

「………。」

「…無言でお腹を締めないで下さい…。」

「わ、悪い。」

「で、何ですか。」

「……。」

「…何で背中から離れてくれないんですか。」

「…何で振り向こうとするんだ。」

「顔を見て話すのは基本ですよ。」

「……。」

「ディーノさん。」



この人がネオニート化した理由を、あたしははっきり聞いていない。聞いていないけど、何故かロマーリオさん達はあたしやツナがディーノさんに何かしらいい影響を与えてくれるだろうと見たらしく、ちょくちょくこうしてディーノさんの家にお招き頂いている。

しかしディーノさんはあたしに何も話さないし、あたしも滞在中はただただディーノさんと同じ空間に居て、話をしたりお茶をしたり、ニートニートとつついてみたり、外に出ようと促すだけだ。聞き入れてくれたのはお庭の散歩くらいだったけど。

正直、ディーノさんが話そうとしないこと、突っ込まれたくないことに口出しはできない。あたしと彼は対等じゃないから、言えないこともきっとある。そしてディーノさんは、あたしに何をして欲しいのか、まだ分からないから。



「あたしは、あたしが思っていることしか言えません。ディーノさんが欲しい言葉はあげられません。」



本当はあげられればいいと思っているけど、とても無理だ。あたしはまだまだ明るい未来を目指して走るうら若き少女なもので、社会に─しかも特殊な環境に揉まれる成人男性に、何をアドバイスできる筈もない。



「…俺だって、本当は、カッコ悪いって思ってる。」

「そうでしょうね。年下にあれこれ言われるのは不快でしょう。」

「巴は何も言わないじゃないか。」

「色々言ってますよ。」

「怒らねえし、どうしろって命令もしない。お前は、自分がこうして欲しいからこうしてくれませんか、って頼むだけだ。それで…俺が動かなくても、離れていかない。甘やかしてる。」

「厳しくされて離れて行かれたいんですか。」

「………嫌だ。」

「ですよね。あたしだって厳しくする気も離れる気もありません。だってディーノさん、充分社会で厳しくされてるじゃないですか。あたしは部下でも上司でもないので、ディーノさんに命令なんてしません。」

「……。」

「世界中、厳しくなくて、ディーノさんみたいにみんな優しくなれたらいいんですけど、それじゃあ世界は回らないなんて、この世は理不尽ですよねえ。」



それを誰よりも解ってるディーノさんが、引きこもる必要なんて無いのに。

そうは言わずに何とか体の向きを変え、金髪が美しい頭をぎゅうと抱き締めれば、ディーノさんは苦しそうに唸る。嗚咽に聞こえたのは気のせいだ。



「ディーノさん。」

「……。」

「ディーノさん、マグニートって何でしたっけ。」

「…アメコミの奴。」

「あー居ましたね、そんな人。ウエルカムトゥダーイの人。」

「ああ。」

「アメコミって英語読めないと全然分からないですね。漫画だから大筋分かるかなーと思って借りていったんですけど、話が壮大過ぎて最終的にリボーンに翻訳してもらって」

「巴。」

「結局英語の勉強会に…って、はい?」

「巴が嫁になってくれたらニート脱却できる気がする。」

「旦那がニートはちょっと。」

「……。」

「マグニートならまあセーフです。」

「……。」

「でも、ディーノさんがいくら自分を卑下しても、あたしはディーノさんのことかっこいいと思ってますからね。それはもうすっごく。」

「…飴と鞭。」

「ディーノさんが鞭であたしが飴ですね。丁度いいじゃないですか。」

「……今に見てろよ。」

「外行きます?」

「………………まだ嫌だ…。」






うーん、せめてニート脱却できる“気”、じゃなくて、ニート脱却する、と言ってくれたなら、冗談に対しての冗談なりに、Volentieri!と笑顔で答えて差し上げられたのになあ。残念。






【無職<人柄】






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