親不孝にも親より先に死んでしまったわけですが、現世の未練をどうにか振り切ってあの世に逝けたはいいけれど、まさか死んでまで双子の身分がネックになるとは思いもよらず。



「え?裁判保留…ですか…?」

「うん、とりあえずここで裁判の半分は終わりになるんだけど、君は双子の片割れとの繋がりが深すぎるから、これ以上の裁判は二人揃わないとできないんだ。」

「え…じゃあ、二人揃わないとってことは…」

「現世に在る貴女の双子の兄が、死んで地獄にやってくるまでは、貴女は裁判保留期間となるということです。」



記憶している限り、死んでから通された五つ目の裁判で、突然そんなことを告げられたあたしはただひたすら固まる。

ていうか、閻魔様すごい巨漢です。今までの裁判される方はみんな普通サイズだったのに、閻魔様だけ桁違いにがたいから違う。流石は閻魔様ってことだろうか。物腰はすごく柔和だけど。

うーん、それにしても隣にいる補佐らしき男の人…男の鬼の人がまた普通のメンズサイズだから尚更視界が混乱するなあ…。

と、現実逃避をしている間に、その男の人が何やら資料を片手にこちらに歩み寄ってきた。センター分けのサラサラ黒髪に誰かさんを思い出す。切れ長の吊り目を見れば、これまた違う誰かさんを思い出した。



「足しで2で割るとこんな感じなのか…。」

「?何がですか。」

「あ、お忙しいのに無駄口すみません。気にせずどうぞ。」

「お気遣いありがとうございます。ではこちらの資料をご覧下さい。特殊輪廻法に該当される方の裁判の流れと、保留期間の滞在について詳しく書かれています。ざっとご説明いたしますのでこちらにどうぞ。」

「はあ…。」



あ、これ、補佐の方直々に説明してくれるんだ。何かすみません、死人なのにお手数おかけしまして…って、この役所を連想させる淡々とした流れに段々本当に死んだのかよく分からなくなってきたんですが…。

しかし今、トクシュリンネホウ、とか言ってたよね…?リンネって…『輪廻』で合ってるなら、詳しくは知らないけど特殊な転生って意味でなんだろうか。双子がそんなに特殊ってこと…?

疑問符を飛ばしながらも、促された小さな部屋に入る。椅子と机と窓だけがあるその部屋は、何だか取調室な雰囲気だ。



「まず、特殊輪廻法についてご説明いたします。これに該当される方は主に、今で言う一卵性双生児の方や、特殊な因果で元々の魂を分散させて現世に生まれ生きた方です。このような方々は、分かれた魂を一つにした時点で漸く、ここから先の裁判を受けて頂くことになります。」

「あれ…あの、それって、二卵性の双子は該当しないんですか?」

「これまでの調査では、二卵性双生児における魂はそれぞれ別物というケースが殆どだという結果が出ています。私も何千年もこちらで勤務していますが、二卵性でこれに引っかかった人はいませんでしたね。」

「じゃあ、あたしはその…特殊な因果っていう理由の方なんですね。」

「いえ、貴女はどちらも該当されます。」

「…はい?」

「貴女は現世の兄と一卵性双生児で、且つ因果が複雑に絡み合っています。非常に珍しいケースですね。」

「…えぇ!?や、でも、あたし達の出生記録だと二卵性で、それに男女の一卵性って何かしら障害?が出るとかって聞いたんですが…!」

「障害ではありませんが、特殊な力は得たでしょう。出生記録の違いについては、あなた方のお父上が関わっているようですが。」

「……。」



これには閉口するしかない。地獄って…本当に何でも知ってるなあ…。死んでから判明することがあるとは…ていうか父さん、何で?

あたしが大人しくなったところで、補佐の方は引き続き分かりやすくつらつらと説明してくれた。

要約すると、兎に角その時が来るまでは地獄に滞在して、善行を積むとよいですよ、とのこと。本来死人は、判決がでるまで地獄にも天国にも在住権がないので、裁判中はそれぞれの控え室で待機することになるらしいけど、あたしの場合いつ裁判が再開されるか分からないので、暫く地獄で生活することを許された。

具体的には、地獄で何かしら差し障りのない仕事に従事して、生活費を支給して頂くらしい。流石に一度死んだ身で餓死はないそうだけれど、この地獄という場所では、死なないだけであらゆる苦痛は生きていた時と同じということだ。ああ…だから何か死んだ実感が湧かないのか…。



「それで、仕事はどうしましょうか。できれば適材適所と思っているので、この中で希望があれば選んで下さい。」

「え〜…っと、ですねえ…。」



まさか就職する前に死んで、地獄で初めて定職に就くことになるとはなあ…いや、裁判再開までだから、どちらかと言えばバイト?

兎に角、やるからには役に立てる仕事にしたいし、足手まといにならない仕事がいい。渡された紙に連なる、色んな職業の名前を一つ一つを真剣に辿ってから、よし、と気合いを入れて顔を上げた。




「決めました。」

















「閻魔様、おはようございます。」

「あ、おはよう〜巴ちゃん。今日も元気そうだねえ。」

「閻魔様も、今日も穏やかで癒されますね。はいこれ、秦広王様からです。」

「うん、確かに。今日もありがとうね。」

「いいえ、こちらこそ。えっと、補佐官さんは今日は不在ですか?」

「鬼灯君なら彼の仕事場で書類捌いてるよ。」

「あ、そうですか。じゃあ補佐官さん宛てのお手紙はここに、」

「あーダメダメ!!ちゃんと直接持っていってあげて!!」

「え、あ、す、すみません!」

「あっごめんごめん!怒ってるんじゃないよ!ワシは全然構わないんだけど、鬼灯君がね…ホラ、ね?」

「ああ…ですよね。お仕事に関してすごく厳しそうですもんね。」

「いやそうじゃなくて…うん…まあいいや。兎に角、巴ちゃんから手渡ししてあげてよ。」

「?はい、失礼します。」



というわけで、今現在、地獄でイキイキとメッセンジャー業に勤しんでおります。

あの日、補佐官さんから貰った紙に書いてあった職業は、主に地獄で人…鬼不足だったものだそうで、このメッセンジャーの仕事もその一つ。この広大な地獄の中を、端から端まで走り回るのは確かに重労働で、しかも賃金が安いというのが人気の無い理由とのこと。

あたしの場合は特に賃金なんて気にしなくていいし、何よりこの仕事は個人で動き回るから性に合ってる。重要な書類何かはちゃんとした配達機関に任せられるから、あたしが届けるのは伝達やちょっとした荷物なんかだ。それを御用聞きのように足で回って、その辺りで声をかけられたりしたらそれも運ぶ。

毎日この閻魔殿に来るのは、流石は地獄で一番忙しい場所なのか、此処に毎日何かしら配達物があるからだ。あたしに裁判保留を言い渡した閻魔様ともすっかり顔馴染みになって、いつも気にして頂いている。優しい。

そして、あの補佐官さんとも何だかんだ、毎日顔を合わせていて。



「おはようございます、お届け物にあがりました。」

「どうぞ。」



閻魔様がいつもいらっしゃる大きな部屋の奥の扉の先は、こじんまりとした補佐官さんの仕事部屋だ。

返事を頂いて中に入れば、相変わらず書類のタワーがいくつもある大きな机が目に入り、その向こうに見えるは一本角とサラサラな黒髪。うーん、何度見ても羨ましい。



「おはようございます、巴さん。」

「おはようございます、補佐官さん。これ、今日の分です。」

「はい、確かに。私も頼みたいものがあるので、少しお待ち下さい。」

「はい。」



補佐官さんはとてもお忙しい方のようで、よく沢山の手紙なんかをあたしに託す。しかもその届け先が多岐に渡るので、お陰様で地獄の地理に大分詳しくなった。

多分これは、あたしが早く仕事に慣れるように色んな場所へと行くようにしてくれたんじゃないかなあと密かに思っている。自分が関わった件の相手だから、閻魔様同じく気にしてくれてるんだろう。

淡々としてるし仏頂面だからお役所仕事タイプかと思ったけど、そんなことはないらしい。何故なら、毎日どんなに忙しそうな時でも、こうしてやって来ると必ず仕事の手を止めて、いつも二、三世間話をしてくれるからだ。



「仕事には慣れましたか。」

「はい、お陰様で。地理が一番不安でしたけど、地図を見なくても行ける所が増えましたし、地獄の皆さん親切で、よく助けてもらってます。」

「先日不喜処の従業員と話しましたが、あそこの動物達とも仲良しだそうですね。」

「あ、はい。わあ、仲良しって思ってくれてたんですねえ、嬉しいです。地獄は知らない生き物が大勢働いてらっしゃって、ついついガン見しちゃうんですよ。」

「動物はお好きですか。」

「好きですよ。」

「爬虫類や虫なんかは。」

「爬虫類は生前何かと縁があったので好きですね。虫もものによりますけど、特に苦手じゃないですよ。よく山に行ってましたし。」

「それでこそ私の嫁です。」

「え?すみません、今聞こえなか」

「いえ何でもありません。それより私、以前オーストラリアに旅行をして、色んな動物と触れ合ってきたのですが、動物がお好きなら今度その写真を見ませんか。」

「えっ、オーストラリア行ったんですか!?すごいですね!タスマニアデビルとか見ましたか?」

「まさかタスマニアデビルが真っ先に出てくるとは思いませんでしたが、抱っこもしましたよ。」

「え!?抱っこ!?コアラではなく!?」

「コアラも抱っこしました。」

「羨ましいです…!」

「非番の日にお見せしますよ。」

「いいんですか?ありがとうございます。」



はー…厳しいお顔をしている割には、この人も動物がお好きなようで。ギャップで非常に可愛らしく見えてくるけど如何せん、周りの話によれば、この補佐官さんはこの広大で数多くの部署(と言う名の刑場)がある地獄を裏で表で牛耳るとんでもないお方だということなので、あまり馴れ馴れしくして癇に障ったら大変だ。

まあ、個人的には馴染みのある容姿だし、話していても真面目でちょっとお茶目さん、という印象しか受けないけど。とりあえず、今の話は会話のネタの社交辞令と思っておいていいのかな。こういうタイプの人って、表情を変えずに冗談を言うから…




「ちなみに社交辞令ではありませんよ。巴さんの非番はいつですか?合わせます。」





そんな感じで、死んでからも尚対人運は絶好調らしいあたしは、今日も周りの人やら鬼やら鬼神やらに助けられ、呑気に毎日を過ごしています。ので、どうぞ心配しないで下さいね。父さん、母さん。





【魂に還るも楽にはいかぬ】


「大王、今週末有給を頂きます。絶対に頂きます。」

「えっ、ちょ、急過ぎない!?いや別にいいけど…ああ、もしかして巴ちゃん?鬼灯君も意外といじらしいよね。こう、恋愛にちゃんと段階踏むところとか…」

「だまらっしゃい。」

「照れ隠しが痛いっ!!」







「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -