「明日島に停泊すると言ったら、イゾウ達がそれぞれ自分がトモエを連れて行くと言って決まらなかったんだ。遂には昼寝をしているトモエを叩き起こして決めさせようとしたもんだから、ジョズが怒ってしまってな。いやあれは大変だった。見かねたオヤジがそう決めたんだ。トモエにはナースでも野郎共でも、自分で好きな奴を選ばせろと。この事をトモエ本人に話したら、色々と余計な気を揉むかと思って黙ってたんだが、思わぬ方向で気を揉んでたみたいだからな。」

「……何かどこから突っ込んでいいのか分からないんですけど、とりあえず、それでもナースさんにも船員さんにも断られたっていうのはあたしが問題有りなんですか!?」

「んん…ここまで聞いてまず突っ込むところはそこなのか…。」



いや一番大事なとこじゃないですか!?エドワードさんの鶴の一声があった筈なのに断られたって!普通に断られるより俄然ショックが…ショックが…っ!!



「うわあああ」

「トモエ、落ち着け。それは恐らく…いや間違い無く、お前に過保護な隊長達の圧力…もしくは不憫な隊長に対しての部下からの配慮だ。トモエは何も悪くないし、誰もお前を嫌っちゃいないぞ。」

「でも…でも…」

「なんだ、俺を信用しちゃくれないのかい?寂しいことだな…。」

「そ、そうじゃないですよ!ビスタさんは信用してます!」

「俺の話なんか信じないんだろう…?」

「信じます!信じますから!わざとでもそんな悲しそうな顔するの止めて下さいって!!居候の身に堪えます!!」



いつまでもうだうだ言ってるあたしがウザいが故の演技なのは分かりますけど、それならまだ怒られた方がマシですよ!

と、勢い良く続ければビスタさんは、こっちの方が効くと分かっているからな、と言わんばかりにコロリと表情を戻して肩をすくめた。何て確信犯なお茶目さんだ…。

元はと言えば自分が悪いことを棚に上げて呆れていると、ビスタさんは手袋を片方外して、その男の人らしい無骨な指でそっとあたしの頬を撫でた。

…うーん、いつの間にか夜闇に染まっていた空間で、見上げる彼の何と渋いことか。




「お前は愛されているぞ、トモエ。この船の奴らと、寸分変わりなく。」




ああ、流石はエドワードさんの息子さんの一人。流石の包容力。そして包容力と言えば、思い出すのはあの人達。




「……ロマーリオさん達も、心配してないといいけど…。」

「うん?」

「いえちょっと。…じゃあ、もう一回、めげずに誰か誘ってみますね。」

「ああ、誘われた奴は誰であれ、きっと喜ぶことだろうよ。」

「そう思います?」

「勿論。」

「ならビスタさん、明日あたしと一緒に出かけて頂けませんか?」



ここまで言わせてしまっては断り辛いと分かって誘うあたしは、卑怯だと思われても仕方がないよなあ。いやしかし、やっぱりあたしはビスタさんを信じているのだ。この人は、卑屈なあたしと違ってそんな風には思わないだろう。ロマーリオさんに被った人に悪い人はいないことだし。草壁さん然り。

それに、愛されてると言ってくれましたよね。その言葉、あたしはビスタさんにも適用しますよ。



「お手数ですけど、あたしの口からあれこれ言わせたのはビスタさんなんですから、最後まで責任とって下さいね。」

「…俺で良ければ喜んで、お嬢さん。」


ちょっと目を見開いた後、珍しく気の抜けた顔で笑ったビスタさんに、あたしもへにゃりと笑ってしまう。

本当に、何だか知らないけど、来てしまったのがここでよかった。




「そういうわけだ、お前らは大人しく諦めるんだな。」



ほのぼのしている間に、今度はどや顔に変わったビスタさん。え?どこ見て言ってるんですか?ていうか諦めろって…



「巴…巴…何で…何で…俺を誘わなかった……」

「あーあー暫くイゾウが般若から戻らないぞ〜トモエのせいだ〜。」

「…………楽しんで来い…。」

「俺と二人はそんな気まずいかよい…。」

「買い物くらい一人で行けねえのかよ!!」

「各人各々言いたいことはあるようですが、とりあえずエースさんは立ちながらご飯食べないで下さい。」



ビスタさんの視線を辿って、振り返ればそこには見慣れた面々。ていうかさっきビスタさんに訊かれた面々。いや、何してるんですか皆さん。夕食行ってたんじゃないんですか。あと正直イゾウさんは夜闇と相俟って怖すぎるので直視してません。できません。



「オヤジの決めた通りだ。トモエは俺がいいとさ。」

「結局誘導尋問じゃね?」

「まあそうとも言うな。様子を窺っていれば、トモエは待ちの戦法じゃ無理だと分かったからな。」

「えっ。」

「…ビスタはさっきからずっとトモエを見張っていた。」

「えっ。」

「まあ、愛故だ。」

「…おい、イゾウとマルコがピクリとも動かねェ。」

「まあ、それも愛故だな。」

「ここの愛の概念って、あたしがいた所と同じなのか分からなくなってきました。」




と、エドワードさんに話したら、膝に乗せられて、労うように頭を撫でて下さった。…やっぱりエドワードさんの愛が一番いいです…。



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