「明日は一日、島に停泊する。」

「えっ。」



毎日の日課、エドワードさんとのお茶(エドワードさんはお酒)の時間を満喫していると、意外な話題が振ってきて上を見上げた。

青空をバックに髭の下で笑うエドワードさんは今日も男前だなあ。じゃなくて。



「あたし、陸地初めてです。」

「だろうな。」

「島を遠目に見ることはありましたけど…食糧とかの買い出しですか?」

「ああ。明日はお前も誰か連れて買い物にでも行ってこい。金はナース達に渡してある。」

「へ!?いやいやいやいいですよ!必要なものならナースさん達に分けて頂いてるので!」

「女は物要りだろう。黙って甘えとけ。」

「あああでも…!」

「悪いと思ってるなら、似合いの服でも買ってきて俺を楽しませるんだな。グララララ!!」




というわけで、有無を言わさず明日はお買い物と相成りました。

何だろう…エドワードさんって流石年の功なのか、海賊らしい豪快な男の人なのに細かいことに気が付くと言うか…。まあ、服については見れば分かるかもしれないけど…。

ちなみにあたしがこの船で着ている服は、初めにイゾウさんにお借りした着物と、ナースさんに借りているTシャツ二枚と短パン、スカートを着回ししている。着物は気慣れたからいいのだけれど、ナースさんからお借りしている服がどうにも微妙なのだ。いや、ナースさんのセンスは素敵なんですよ。キュートでセクシー且つワイルド、それがここのスーパーモデルボディなナースさん達だ。

ただですね、それをあたしが着るとね…。Tシャツは胸が余るわ、スカートはマイクロミニに近いわで…うん、服に着られてる上に色々際どいから非常に困っているわけです。

でもなあ、あたしはここに留まるわけではないし、事足りていると言えば充分足りてるのに、本当にいいのかなあ…。しかし人の厚意は有り難く受け取れと、某委員長様の声がする…。

……うん、とりあえずお金を使うか使わないかは後で考えることにして、ナースさん達を誘いに行こう。何が無くとも、久々の陸地には降りたい。船酔いはしないタチだから船の生活に問題はないけど、あたしはやっぱり陸地の人間。地面は恋しくなるものだ。町がどんなものかも見たいし、ナースさん達なら優しく案内して下さるだろう。何だかんだ楽しみだなあ。



「ごめんなさい、トモエ。私達、みんなデートなのよ。」



と内心ウキウキだったから、ナースさん達にそう言われた時のショックったらもう。



「え…み、みんなですか?」

「ええ。船員からお誘いが絶えないのよ。」

「まあ、それは、納得、ですが、」

「トモエ?」

「どうしたの、顔が真っ青。」

「……皆さん、あたしが嫌いで、断る為に、とかじゃ…ないですよね…?」

「まあ、またそんな卑屈なことを考えて。」

「マイナス思考はエースの件から控えるって言ったじゃない。そんなわけないでしょう、トモエったら。」

「す、すみません!でもあたし、ナースさん達に嫌われたら色んな意味で帰るまで生きてられませんよ…!!」

「もう、可愛いことを言うんだから、トモエは。」

「悪い子ね。デートキャンセルしたくなっちゃうじゃない。」

「それはそれでダメですよ!?」

「そうよみんな、隊長さん達と約束したでしょ?」

「ふふ、そうだったわね。」

「あ、デートって隊長さん達となんですね。イゾウさんも誰かお誘いしてました?」

「うふふ…さあ、どうかしら?イゾウさんを取られちゃったら、トモエは寂しい?」

「え?いえ、聞いておいてよかったです。じゃあイゾウさん以外の人を誘いますね。うーん…誰かお手空きの人いるかな…。」

「罪な子…。」

「え?」



…?ナースさん達、結局何が言いたかったんだろう。

よく分からないまま、船長からよ、と見覚えのない形のお金が入った袋を渡されて、それからお金の使い方を簡単に教えてもらった。ここのお金はベリーと言うらしい。万とか千とかは同じだったから、円=ベリーということで考えれば簡単だけど、相場が分からないのでやっぱり明日は誰かに一緒に付いてきてもらう必要がある。ぼったくられたら困るし…。
本当はこういうのはイゾウさんに頼むのが一番なんだけどなあ。まあ、人のデートを邪魔をする気はさらさらないので、今回は諦めて違う人を誘おう。と言うか、ナースさん達、さっき隊長さん達って言ってたから、イゾウさん以外の隊長さんも除外しなきゃな。

そんな感じでお手空きの人を探し歩いて数時間、お相手が見つからないまま日が暮れようとしていた。



「……もう、コックさんの買い出し手伝いでいいかなあ。」

「どうしたんだい、疲れた顔して。」



今日も水平線に沈む夕日が綺麗だなあと現実逃避で黄昏ていると、ふと聞こえた声と同時に横が暗くなる。見上げればそこには、夕暮れの空に美しく映えるシルクハットのシルエットが。



「ビスタさん。」



呼べば、シルエットの下、夕日でオレンジ色に染まった顔がにっと笑う。

エドワードさんとはまた違った形のお髭が立派なこの人は、イゾウさん達と同じ隊長さんの一人、ビスタさん。シルクハットとマント、服装なんかを見る限り、西洋的な紳士な雰囲気が漂うけれど、がたいは非常に大きく、一言で言えばマッチョだ。どちらかと言えばジョズさん的なマッスルかなあ。野性的な体躯とは裏腹に、落ち着いた態度と気さくな性格の方で、あたしは度々助けられている。主に、サッチさんがセクハラをしてきたのを助けてくれたイゾウさんが荒ぶって始まった喧嘩を止めて下さったり、エースさんがツンデレのツンを超えてキレてしまったのを止めて下さったり……。



「いつもお世話になっております…。」

「どういたしまして、お嬢さん。急に改まって、また何かあったかい?」

「いえ、今日は何もないですけど、何度お礼を言っても足りないくらいはお世話になっているので。」

「何もないことはないだろう?そんな顔しちゃ可愛い顔が台無しだ。またエースと喧嘩か?」

「いやー…喧嘩はしてませんよ。」

「ほう、じゃあ何があったのかな。」

「えーっと…。」



ビスタさんはいい人だ。大人で優しい。…のだけれど、何て言うか、あれだ、ジョズさんが黙って傍に居てくれる人なら、ビスタさんは全て吐き出させようとする人だ。大人の飴鞭と巧みな話術で、どうしても言わなきゃいけないような流れを作り出す天才である。その決して表には出さない根本にある強引さは、完全にリボーンを連想させた。

しかもこの方、既に色々分かっていても、相手の口から言わせようとする手厳しいところがある。ていうか今もそうですよね。何となく分かるんですけど。…諦めよう。



「何か…もう知ってると思いますけど、明日島に降りる為についてきてもらう人が決まってなくて…。皆さん忙しいのは分かってますけど、誰かと行けってエドワードさんに言われてるもので…。」

「ふむ、イゾウは?」

「会いましたけど、既にナースさんをお誘いしてたらしいとを聞いたので、誘ってません。」

「イゾウがナースを…?じゃあサッチは。」

「会いましたよ。来た瞬間イゾウさんが般若になって追いかけ回したので、一言も話せませんでしたけど。」

「くくっ、じゃあジョズはどうだい?」

「ジョズさんは一足先に買い出し組のお手伝いを頼まれてたそうです。」

「そうか…なら、マルコ。」

「…正直に言うと、マルコさんとは他の皆さんより話さないので、いきなり長時間二人っていうのは無理がありました。」

「フフフ、マルコも可哀想な奴だ。エースは誘ったか?最近妬けるくらい仲良くなったじゃないか。」

「エースさんは今日は機嫌が悪いようで駄目です。会う度に睨まれてるので頼む前に諦めました。」

「あれは本当に素直じゃない…。」

「というか、エースさんは兎も角、隊長さん達は大体みんなナースさんを誘ってるみたいなので、鼻から誘ってないですよ。」



ないんですが、まさか隊長さん達を抜かして声をかけた船員さん達から全員に断られるとは予想もしていなかったんですよ…流石に心が折れる。

しかも、何故か皆さん逃げるように、慌てて断っていってしまうのだ。さっきナースさんにマイナス思考は止めなさいと言われたばかりだけど、まさかここまできて船員さん全員から嫌われてしまったのではと考えてしまってもおかしくないこの状況…!



「あたし何かしましたか…!」

「いや…強いて言えば、何もしていないから、だな。」

「ああ…やっぱりもう少しお仕事もらったほうがいいですよね…。」

「そうじゃない。んん…トモエは鋭いのか鈍いのか分からんな。」

「すみません…結局、あたしは何をすればよかったんですか?」

「遠慮せずに誘えばよかったのさ。イゾウ達を。」

「は…?」



いやいやいや…だからそれは、ナースさん達の先約があるじゃないですか。寧ろ隊長さん達から誘ってるようだし、あたしだって空気くらい読みますよ?

と、ビスタさんの不思議発言に対して、できる限り分かりやすく簡潔に返したのに、彼は首をすくめて頭を振るばかり。な、何故…。



「ナース達を誘ったって、本人達が言ってたのか?」

「いえ…ナースさん達が、隊長さんと約束したでしょ、って話していたので…。」

「つまり、ナース達にも隊長達にも、事実を訊いちゃいない。そうなんだろう?」

「………あー…そう言われてみれば…。」

「決め付けてはイゾウ達が可哀想だ。ちゃんと自分の口で尋ねて、自分の耳で聞くといい。」

「………。」

「ん?トモエ?」

「あの、ビスタさん。何を隠してるんですか?」



ふと、疑問─いや、ほぼ確信を口にすれば、ビスタさんはピクリと眉を跳ね上げる。あ、やっぱり何か隠していらっしゃった。



「隠す?何をだ?」

「何を隠してるのかは分かりませんけど、あたしにだけ全部言わせて誤魔化すのは無しですよ。」

「……いやはやまったく、トモエは鈍いのか鋭いのか…何故何か隠してると分かったんだい?」

「勘です。」

「フフフ、身も蓋もない。」



そう言う割には顔はいい笑顔ですねえ。兎に角、本当に何を隠してるのか分からないけれど、やっと耳の中に入った水が取れたようなすっきり感。何か話してる間中、違和感があったんだよなあ。

にしても、この話の中で引っかかったってことは…え、何か、あたしに隠してたってことは?あれですか?やっぱりあたしが嫌われてるとか言う?あれ?これもしかして聞かない方がよかった!?



「まあ、訊かれてしまっては仕方ない。実はな、」

「は、はい。」

「…?何故そう身構えるんだ?」

「気にしないで下さい…。」

「?まあ、実はな、オヤジから言われていたんだ。明日、トモエと行動する奴は、トモエが自分から誘った奴にしろとな。」

「………はい?」



ん?絶望的な話ではなかったみたいだけど、どういうことだ?







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