「……あれ、え?」
「どしたのツナ。変な声出して。」
「今って何月だっけ?」
「三月。もう終わるけど。」
「だよな。…ってじゃあなんでまだお雛様飾られてんの?」
「え?今更?」
「え?なにお前は気付いてたの?」
「そりゃとっくに。一応あれあたしのお雛様だから。」
「なら片付けろよ!とっくに時期過ぎてんじゃん!二月から飾ってたから違和感無さ過ぎたけど!!」
「まだ三月だからシーズンとしてはまだいけるでしょ。」
「そりゃ大きく言えばそうだけど…雛人形って、雛祭り終わったらすぐ片付けないと何か良くないみたいなジンクスなかったっけ…。」
「ああ、それは覚えてるんだ。」
「へ?『それは』?」
「ううん、別に何でも。心配しなくても四月入ったら五月人形出すから、そのタイミングで片付けるでしょ。母さん的にその方が手間少なくていいからいいんじゃない。」
「あ、成る程…。」
「じゃあ、あたしもう練習行くから。」
「え?もう?今日始まるの遅いんじゃなかったっけ。」
「行ってきます。」
「話聞けよ!え、ちょっ…なんで急に怒ってんだよ!?」
「怒ってないよ。先行って掃除しなきゃだから。」
「そ、そう…。」
「じゃあねバカツナ。」
「やっぱ怒ってるんじゃん!!!」
「ツナーお雛様片付けて五月人形出すから手伝ってー。」
「どうせ手伝わせるなら別に三日終わってからすぐ片付けてもいいじゃん結局…。」
「なにぶつぶつ言ってるの?ホラホラ、手動かす!」
「母さん、何で今年は雛人形出しっぱなしだったの?」
「え?うちは毎年そうじゃない。」
「え?そうだっけ?」
「そうよ、それこそ小さい頃からずーっと。やだツナ、覚えてないのね。」
「い、一年に一回だし忘れるよ!」
「それもそうだけど、お雛様をずっと飾っておいてって最初に言い出したのはツナなのよ?」
「は…?」
「お雛様は雛祭りが終わったらすぐに片付けないと、お嫁さんに行けないとか婚期が遅れるって言い伝え、覚えてない?」
「それは…覚えてるけど…。」
「それを教えたらツナ、『モエちゃんがお嫁さんに行ったらやだ!』ってゴネちゃったから、うちはずっと五月人形と入れ替えなのよ?」
「なっ…!いっ言ってないよそんなこと!!!」
「言・っ・た・の!そしたら父さんもそうだそうだって言い出すから。巴が結婚できなかったら二人の責任よ?」
「お、覚えてないし…全然…。本当に最初に言ったの俺?父さんじゃなくて?」
「巴が帰ってきたら聞いてみれば?多分あの子なら覚えてるでしょ。」
「……。」
「それに巴、駄々こねるツナにこう言ったのよ。」
「ただいま。」
「…おかえり。」
「………。」
「………。」
「え?何この不思議な組合せ…五月人形とお雛様とか、比率が合ってなくてなんか見にくい…。」
「つっこむとこそこかよ!!」
「そこを含めてつっこむよ。何これ?片付けてる最中?」
「…これで完成。」
「母さん…何でまた。」
「…お前が言ったんじゃん。」
「は?」
「お前が言ったんだろ。『それじゃあ、あたし、ツっ君のお嫁さんになるね。』って。」
「……。」
「…なら、これが一番適当だろ。」
「………変なの。」
「変って…!!」
「…でもありがとう。」
「……。」
「変だけど、ありがとね、ツナ。」
「……うん。」
ガラスケースの中の五月人形に、お内裏様のいないお雛様。
誰がどう見たって不格好で、吊り合わなくて、一緒に並べるわけがない二つの人形。
それでも無理矢理並べて満足してる俺達は、ただの子どものワガママなのかな。
ちっちゃい時に癇癪起こして駄々をこねたみたいに、理不尽な願望なのかな。
お互いに大勢の人に出会ってきて、これからも出会って、古い迷信なんかアテにならなずに、あっと言う間に雛人形は正しい場所に収まるんだろうけど。
まだ今は、
「雛アラレはもうないから、甘酒と柏餅?」
「間とって桜餅でいいじゃん。」
「そうだねえ。」
ごっこ遊びみたいに二人、並んでいても、いいじゃないか。
【恋人などとは呼べぬとも】