「う、うえ、」
「何で泣くんだ。目をこするな。」
「ち、いさいって、不便、だ、」
ジャンニーニが持ってきた何度目かの失敗作十年バズーカを、また巴が喰らった。
今度は体がチビで、中身は変わっていないらしい。見上げもせず、抱かれもせずに真っ直ぐ合う目線に違和感を感じながら、癇癪にしては静かに泣き出した巴を宥める。
中身は変わらなくとも、幼くなった体は素直に反応するらしい。妙なところ順応が良い巴らしいと言えば、巴らしいのか。
「急にどうした。」
「体が上手く動かないんだよ…。」
「あたりめーだろ。」
「ランボ君がよく階段から転げ落ちるのがよく分かった…。」
「そんなことで泣いてたのか。」
「……。」
問いに答えないまま、懲りずに目を擦ろうとする手を掴む。自身の手のひら一つで包み込めるそれは、当たり前だがいつもよりずっと小さい。儚くて、脆くて、柔らかい。…柔らかいと言えば…
「この姿じゃ、みんなに迷惑ばっかりかける。何もできないし、誰も守れない。」
無意識に目をやっていた頬に、また涙が滴る。えぐえぐと嗚咽を殺そうとする姿は、子どもらしくない。言ってることも子どもらしくねーしな。
小さいその身で不安を募らせて、役に立たないと巴は言う。当たりめーだ。お前は俺とは違う。チビの頃から鍛え抜いたイーピンとも違う。ましてやランボでもない。
巴は巴だ。だが、迷惑をかけないよう無駄に器用に立ち回り、他人を助けて、誰かを守ることが、巴である条件でも、巴の価値でも、ない。
「泣くな、巴。お前が小さかろうが大きかろうが、俺はお前を迷惑とも役立たずとも思わねーぞ。」
「…役には立ってないよ。」
「普段もそう変わんねーだろ。」
「…そう、だよね…。」
「泣くなっつってるだろ。邪魔だ。」
「邪魔…。」
「お前じゃねー。そのだーだー流してる涙だ。」
「…?何で邪魔なの?」
「眼球ごと舐めて止められたいなら泣いててもいいぞ。」
「可愛い顔で何恐ろしいこと言ってるの!?」
その言葉をそっくりそのまま返すぞ。チビガキのくせに辛気くせー顔しやがって。どうせジャンニーニの改悪品の効果なんて長くは効かないんだ。いつかは戻るなら、今くらいは、目線の合う今くらいは、無力な子どもに徹していたってバチは当たんねーだろ。
ツッコミを入れて気が紛れたのか、ぴたりと泣き止んだ巴の頬をハンカチで押さえるように拭う。涙のせいで益々しっとりとする子どもの肌に手を添えれば、不思議そうな巴の瞳と視線が絡まった。
「リボーン?」
「頬の柔らかさは変わんねーな。」
ついでに唇も寄せると、微かに涙の味がした。ちらりと巴の表情を窺えば、散々泣いて赤くなっていた鼻と同じくらいに顔全体を染め上げている。
「充分だ。」
俺達は、最初から論点がずれていたのだ。
自分の存在の確立に気を揉んで終いに泣き出す巴に対して、俺とって重要なことは、ただ此処に巴が居ることだけなのだから。
【君に満足しているよ。】