恋は盲目、と言うけれど、それ以前に獄寺君は、人の印象に対して割と盲目的だ。

それはまず、ツナに対する敬愛具合を筆頭に、年上の男の人が全員敵だったり、何だり。


というわけで、今日はいっちょ気合いを入れて、彼の目を覚まさせたいと思います。





「とまあ、この通り髪もごわごわですし、」

「いや、そんな、」

「プリンばっかり食べてるから顔も丸いんだよ。ほら、このほっぺたの肉。」

「いや、そんな。」

「の割に肩とか女の子らしい柔らかさが全くなくてね。肩凝りでがちがちで。」

「いや、そんな、」

「胴も長いし足も短いし。」

「いや、そんな、」

「融通も利かないし、頑固だし、可愛げもないし、」

「いや、そんな!」

「獄寺君より大切な人がいるような奴だよ。」

「………。」





完全に否定をされないように、髪、頬、肩と、無理矢理手を引っ張って、最終的にその両手を緩く握って目を見据える。

それ以外あたしを傷付けない相槌が見つからなかったらしく、同じ言葉を繰り返していた獄寺君だけども、流石に最後の一言にはその言葉を使えなかったようだ。複雑そうに眉を顰めた後、目を逸らす彼に、ああ悪いことをしたなあと自分も目を離す。

でも言っておかなきゃなあ。あたしが獄寺君を好きで、獄寺君があたしを好きと言ってくれる中で、白黒つけなきゃいけない問題。




獄寺君、獄寺君。



あたしは貴方が想い描くほど、きれいな人じゃないんです。







「俺、は、」





暫く無言が続いてぽつり、意を決したような獄寺君の声がした。

顔ごと逸らしていた目を上げて、もう一度彼を見る。







「巴さんが気にするほど、髪の硬さなんて気にならないし、」

「うん。」

「顔なんて丸くないです。寧ろ柔らかくて、お、女らしい、と。」

「うん。」

「修練で鍛えたりとか、チビガキ共の相手してやってる肩は立派だと思うし、凝ってるなら俺が肩もみしますし。」

「うん。」

「別に胴も長くないし、足も短くないです。」

「うん。」

「信念を持ってそれを突き通すことを、融通が利かないとも、頑固だとも言いません。誰が何と言おうと、巴さんは、か、可愛い、んです。」

「うん。」

「…それに、俺が巴さんでも、同じように、自分以外に大切な人がいると、言います。」

「…うん。」

「巴さん。」

「はい。」

「巴さんは、巴さんが思うほど、きれいじゃなくないですよ。」








うん、本当にごめんね、獄寺君。

ただあたしは、あたしが怖かっただけなんです。

感情的で盲目的で、でも理論的な獄寺君が、ちゃんとあたしを見ていてくれてるなんて、ずっと知ってたのになあ。








「あたしでいいですか。」

「巴さんがいいです。」








だからもう一回触って、抱き締めていいですか。と、顔を真っ赤にして、の割に珍しく切迫した声でそう言った獄寺君を見て、ようやく気付く。



すみません、そういえばちょっとダイレクトにスキンシップさせ過ぎた気がしますね。



というわけで。










「あたしでよければ、好きにして下さい。」








【差し上げます。】

(あれ、獄寺君…え?倒れた?)





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