「……え、何だよ急に?」

「…あー…うん、充電。」



と、思い切りぶつかった背中と背中の会話。inツナ'sルーム。

いきなりぶつかられたツナはそう驚きはしなかったけど、やっぱり不思議に思って振り返ってるようで、耳元で聞こえる声が心地いい。あー…気付いてはいないんだけど、心配してる声だなあ。変なところで勘がいい。



「なに、具合悪いんだ?」

「ううん、眠い。」

「…部屋戻って寝ろよ。」

「分かってる分かってる。」



けどもうちょっとね、と軽口に聞こえるように言ってはみたものの、頭はひたすら酸素が足りずに後ろの背中に縋るように密着密着密着。

その内流石に重心をかけられ過ぎていることに違和感を感じたのか、ツナが頻繁に振り返る。顔色を窺われないように髪に顔を隠して俯いてはいるけども、生まれてこの方十何年の付き合いはそう簡単に誤魔化せるわけもなく。



「おまっ…もしかして貧血!?」

「おー大正解〜。」

「大正解〜じゃないよ!!早く言えよ!!うわ、顔真っ白だし…!」



と、苦々しい顔でつっこむツナの顔が真正面に見える。まだまだ復活に至らないあたしの体を後ろから抱きかかえるように(半分潰されながらも)、ツナは何とか傍のベッドにあたしを乗せた。いやあわざわざベッドまですみません。



「ていうか充電とかいちいちどうでもいい嘘吐いて誤魔化すなよお前はいっつも!」

「いやなんかとっさに。ほら、流石に貧血がツナに移って治ればいいなあ何て口にできないしさ。」

「貧血は移んないだろ!つーかそんななすりつけるようなこと考えてたんだ!?」

「相変わらずキレの良いツッコミで。」

「そんなん褒められたくないよ!それより、貧血ってどうすれば治るんだっけ?薬?とかだっけ?」

「その内自然と治るけど…できれば何か甘いもの。」

「ん、甘いものな。」



あーできれば起き上がらなくても口に含める物を…と付け足す前に、ツナは稀に見る素早さで部屋から出て行ってしまった。普段の生活もこのくらいキビキビしてるといいんだけど…それにしても、ご丁寧に布団を肩までかけていってくれたのは、ランボ君達が与えた良い影響だなあ。世話慣れしてきたっていうか、うん、きっと彼女ができた時は高ポイントだと思うよ。




「そんな可愛くないことを思わずに、素直に喜べばいいだろう。」

「…………。」





……あれ…あたしいつの間に寝ちゃったんですかね。





「それに気付かない程、体に負担を与えていたんだよ。」

「…そうみたいですね。」



と、夢と現の狭間だからか、体は現実と同じように動かず、でも周りの景色だけが明らかに白くなった夢の中で、さっき部屋を出て行ったばかりのツナの顔があたしを覗く。

いや、厳密には違うところも多々あって、その外国人らしい金の髪だとか肌の色だとか、あたしを見る、慈しむような目、とか。




「無理も意地もやりすぎはよくない。」

「でもお陰様で会えましたし。」

「…そう言われるとお説教できなくて困るよ。」

「頑固は性分なんです。目を瞑って頂けると助かります。」

「だけど、君が無理をするのを見たくはない。私は何もできないし。」

「大丈夫ですよ。昔より大層世話上手になった兄がいますから。」

「世話上手ではなくて、素直になったんだろう。」





『君への気持ちに。』





そんなこと、多分誰に言われても、絶対違いますよと心から返せるのに、この人に言われると信じるしかできないから不思議だ。

同じ顔だからというのもあるけれど、あたしはきっとこの人が好きで、空気のように心地よくて、信じられるんだろう。もうこの世にいないこの人だけれど、こうして曖昧な空間的でしか会えないのだけれど、出会えたことは必然だったと、思えるくらいに。




「…でも、正直に言えば、あまりいい気持ちじゃない。」

「え?何がですか?」

「…妬ける…。」




と、呟くように言った途端、温度の無い手のひらの感触が、頬を滑って首まで撫ぜる。

夢の中でも感覚というものはあるもので、それにぞわりと背中が粟立てば、反射的に空気を吸い込む前に口を塞がれた。


……何に、とは、言いたく、ない、です。はい。






「彼の代わりに私が兄に生まれたかった。」

「いや、今の行動は兄として許されるものじゃない気がしますが。」

「私が嬉しくて君が嬉しければ、許されるか否かは大したもんだいじゃない。」

「いやでも、兄の顔と言うか自分の顔でこういうことをされるのはちょっと、」

「嬉しいだろう?」

「………。」



ああ駄目だ。結局遠くとも親族な訳だから、この訳の分からない強引さに父さんの面影を垣間見るのは当たり前なわけだ。


つくづく、この人には敵わないんだなあ。





「巴は私が好きだろう。」

「はい。」

「言葉にしてほしい。」

「……好きです、よ。」

「は?」

「…………。」





…やられた。してやられた。

現実から夢に入る境が分からなかったならその逆も然り。今瞬間、夢から現実に戻っていたことに気付かなかった。

お陰様で部屋に戻ってきたツナを目の前にして、あたしはとんでもなくストレートに口走り、恐らくは寝言だと思っているツナは、素っ頓狂な声を出す。



「…寝言、だよ、な?」

「そうだね寝言だねすみません。」



うわあ…今何言ったって聞き返されなかったところをみると、間違いなくばっちり聞かれた…!消えてしまいたい駄目なら部屋に戻りたい…!!

しかしながら体は相変わらず貧血の倦怠感に侵されていて動きたくとも動けない。どんな羞恥プレイですかこれ。そんなあたしの心中を知ってか知らずか、耳元でクスクス笑いが聞こえる気がするのはあたしの気のせいですかねえ…!!ほんとあの人は…!!



「ん。」

「、っ!何っ…って、あ……こへ、ひょこれーほ(これ、チョコレート)?」

「うん。これなら寝たまま食えるだろ。」



おお、流石以心伝心。言わなくても考えることは一緒というのは助かるなあと思いながら、さっきの一言は流してくれるらしいツナに甘えて、口の中でチョコを溶かすことだけに集中する。

甘さがじんわり広がるにつれて、体のだるさが薄れていく体の反応の良さに、身体の神秘だなあ、何て思っていれば、パキリと隣で小気味良い音。あ、これ板チョコだったんだ。どうりで形が歪だと。



「ん。」

「ひや、まらたべへる(いや、まだ食べてる)。」

「早く飲み込めよ。溶けるじゃん。」

「ひょっとまっへ(ちょっと待って)……ん、はい。」

「ん。…って、うわ。指噛むなって!」

「へ、ごめん噛んだ?」

「ちょっと。」

「あー…ごへん(ごめん)。」

「別にいいけど。」



と、ツッコミを入れてきた割には本当にどうでも良さそうな顔で、ツナはあたしが噛みかけたらしい人差し指を何となく眺めて、おもむろにそれを自分の口に入れた。入れ…………は……え?




「ちょ、ツナ。」

「ん?」

「何でそこで噛まれた指をくわえるの。」

「チョコ溶けて指についたから。」

「…だからって舐めますか…!ティッシュで拭くとか洗うとかあるじゃん!」

「別にいいじゃんか。…そんなの俺の好きだし。」

「っ……!!」






意味は全く違うと頭で理解していても、さっきあたしが口にした単語がツナの口からも紡がれては、あたしはもう目を瞑って現実逃避をするしかない。

何ですか、今日は一体何の日ですか…!羞恥プレイの日なんですか!何であたしだけこんな目に…!!



「巴、ほら次。」

「いやもういいです充分食べました…。」

「まだ動けないんなら食べとけよ。ほら。」

「んむっ!?ちょっ…無理矢理突っ込むとか!いいから!そこまでしなくていいから!大丈夫だから!」

「食って動いてもらわないと俺がベッド使えないだろ!」

「分かった!動く!動くか、ら…!」

「あーもう!だからそういう無理するの止めろって言ってるじゃん!!」



ちょっともう放っておいてほしいのに、まだまだチョコを与えようとするツナに居たたまれなくなって、多少軽くなった体を無理矢理起こした瞬間、襲う目眩。

それを見逃さなかったツナに(不覚にも)ベッドに押し返されて、あたしは反射的にムッと眉をしかめたけれど、瞬きの後そんなことはすっかり忘れて目を見開いた。


押し返すのに肩を掴んだ手をそのままに、あたしを覗く見慣れた姿。癖っ毛の極みのような硬い茶の髪に、焼けてはいないけど黄色人種らしい日本人の肌の色、自分と同じ顔。

それは確かに、毎日見慣れている兄の顔、なんだけれど、も、







「ちょっとは大人しく頼ればいいだろ!………『俺は』、何かできるんだから…。」









ぽつりと意味深なことを呟いたツナのその目が、あの人とまるで同じ気持ちを宿してたなんて、あたしの都合の良い考えですよね。ですね。そうですよね間違いなく。お願いですから誰かそう言って下さい。








「誠意に応えて、巴も素直になることだ。」











二対一は卑怯だとか思わないんですか、お二人さん。







【逆チョコの襲撃】





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