「何で、俺と、寝ねえんだあ!!!」
「…プレイが一方的過ぎそうだからじゃないかしら?」
「てめえには聞いてねえぞお変態オカマがあ!!」
「まっひどーい!ていうか私達だって、仲間のそんな気まずいプライベート事情なんて聞きたくなかったわよぉ。ねえベルちゃん?」
「下手だからじゃね。」
「だからてめえらには聞いてねえ゛ぇ!!それに、そっちの寝るじゃねえ!!」
「…え?なあにじゃあ、添い寝から断られてるの?」
「盛ってるからじゃね。」
「相っ…当斬られたいらしいなあてめえらあ゛あぁあっっ!!!」
「いやーん、八つ当たりだわあ。」
「しししっ、たかがガキ一人に部屋から閉め出されてやんの。惚れた弱味ってやつ?意外とアイツには甘いよなキモ。」
「だれかあんなクソガキに甘くするかあ!!!」
「そのガキに惚れたロリコンはどこのどいつだよ。」
「それが悲しいかな、スペルビさん家のスクアーロなのよねえ。」
「他人事だと思っててめえらはあ゛ぁ!!!」
「んもー親身になってあげたらなってあげたで五月蝿がるくせにぃ。」
「う゛お゛ぉい!!ガキ!!寝てんのかてめえ!!ここ開けろおぉ!!!」
「まあまあ、何か飲んでちょっとクールダウンしましょ。あらやだ、飲み物みんなぶちまけちゃったわねえ。」
「ボスのウイスキーなら無事だけど。」
「後で怒られるかしら?まあもう部屋自体スクアーロが暴れて荒れ放題だし、いいわよね。ほら、ちょっと一杯飲んで落ち着きなさいよお兄ちゃん。」
「お兄ちゃんって言うなっつってんだろうがあ…!」
「で、本題だけど。何であのコそんなに頑なに一緒に寝ないの?アナタ達一応そういう仲でしょう?」
「それが分からねえから今こんなんなってんだろお!!」
「威張って言うことじゃなくね。」
「本当に心当たりないのぉ?そりゃあのコも変わってるし頑固だけど、怒らせるとしたら原因は大体スクアーロでしょ。」
「何で断言すんだあ!あ゛あ!!?」
「傲慢だからかしら?」
「う゛おぉい!!!」
「ていうか普通に嫌なんじゃねーの。冷めたとか飽きたとか愛想尽きたとか。」
「………。」
「あら…意外と止まったわ。こっちは心当たりがあるわけね。」
「………。」
「………。」
「………。」
「……な、何だその目はぁ…!」
「いいのよスクアーロ、大人しく捨てられても。あのコは一人じゃ危なっかしいコだから心配かもしれないけど、私が代わりに支えてあげるわあ。」
「変に大人しいと思ったらそういうことかてめえぇえ!!!!」
「大体なんでスクアーロなのか分かんなかったもんな。」
「そんなんアイツに聞けえ!!」
「でも本当に愛想尽きたのかしらね?ああ、そういえばスクアーロったら仕事中毒だしワガママだし嫉妬深いし独占欲強いし怒鳴ってばっかりだし。」
「偶に一緒にいるとこ見ても、大体喧嘩してるし。はなっから相性悪いんだろあれ。」
「てめえら言わせておけばあぁっ!!!」
「ねえ、いい加減出てこないと、アナタがスクアーロのことキライってことで話進めちゃうわよお?」
と、ひとしきりカス共と戦闘を交えた口論をし、再度斬りかかろうかと立ち上がった俺を無視して、オカマの奴が何か言った。
話が噛み合ってねえ。思って一瞬動きを止めると、そのサングラス越しの視線が送られていたのは、俺を通り抜けてもっと後ろ。
それは、さっき俺が閉め出されてから、どんなに暴れようが怒鳴ろうが、頑なに沈黙を守っていた、あのガキの部屋の、扉。
「…毎度お騒がせしました。」
「っ!!っでえ!!?う゛おぉい!髪引っ張んなあ!!!」
「本当よぉ〜自分のモノくらい自分でちゃんと躾て欲しいわあ。」
「モノって俺のことかあ!!あ゛ぁ!?」
「煩いから早く連れてけよその白髪。」
「はい。」
「せめて白髪を否定しろお!!」
巴!!!
と、その名前を叫んだと同時に、バタンと扉の閉まる音。
今まで篭城を決め込んでいたガキは、現れた途端俺の髪を無遠慮に引っ張ったかと思うと、また部屋に引き返し、そのまま何も言わず奥のベッドまでやってきた…っつーか痛ぇぞお!!どんだけ遠慮無しで引っ張ってやがんだあ!!
「座って下さい。」
「クソっ…!力いっぱい引っ張りやがって…!!」
「座って下さい。」
「話聞けてめえぇ!!」
「話をしたいから座って下さい。」
「……。」
相変わらず涼しい顔で、しかし有無を言わさぬ声色で繰り返すガキに、埒があかねえと大人しく折れてやる。
ガキ一人が使うには明らかにでかすぎるベッドの中央に胡座をかけば、ガキはそこそこ距離をおいて、同じようにベッドの上で向かい合うように正座をする。何で正座だ、堅っ苦しい。
と、頭の中で突っ込んでふと疑問が浮かんだ。話って、何の話だ。
途端、さっきのアドバイスなのか愚痴なのかよく分からない会話が浮かぶ。
冷めた飽きた愛想尽きた相性悪い。
そんな他人の適当な言葉を、真に受けた、わけじゃあない、が。
「スクアーロさん。」
「待て。」
…いや、何で止めた。…俺は何で止めたんだあぁ!!さっきみてえに説明もしないで「一人で寝たいんです」と一方的に部屋から放り出した奴が説明しようとしてんだから、俺は寛容に聞いてやりゃあいいんだろうが!!!それで、話は、解決して…!!
「もう話していいですか。」
「……。」
「何で黙るんです。」
「……。」
「…もしかして、別れ話とかだと思ってますか。」
「…もしそうなら斬り殺してやる。」
「何であたしが部屋から出てきたか分からないんですか。」
「……。」
何で出てきたかって…ルッスーリアが呼んだからだろ。俺じゃなく。っていうかコイツ俺の呼びかけじゃなくオカマの呼びかけに応じたんだよなこのガキ…!!
「てめぇ…さっき散々俺が呼んでも開けなかったくせに、何でオカマには素直に開けてやがんだ!」
「…ああもういいです。兎に角、説明しないといつまでも暴れてそうで迷惑がかかるのですごく言いたくないけど説明しますから聞いて下さいいいですね。」
「……。」
どうやら最悪のパターンの話ではないようだが、そこまで口にしたくない話って何だと、密かに身構え目を睨む。
出会った時から今も変わらず、コイツは自分のことを話すことを極端に嫌がる。そのくせ他人のことは見透かすように口にするのに、自分のことは、頑なに隠して。
こういういざこざが起こるのは大抵このせいだ。何も言わねえから分からねえ。俺はてめえらみたいな厄介な血は引いていない。だから聞くのに、それを拒む。それが癇に障る。そして喧嘩勃発がいつもの流れだ。
その流れを珍しく向こうから止めた。こんなことは滅多にないから、逆に不安でらしくもなく体が強張る。
ああ、腹が立つ。たった一人のせいで俺は、ここまで、情けなく。
「怖いんですよ。」
「……あ゛ぁ?」
「二人で寝ることに慣れるのは、怖いんですよ。」
「………。」
肩透かしを喰らった。と、同時に、その答えの意味が解らずに、黙る。
怖い?怖いって、何が怖いってんだ。ただ二人で寝るのが怖いっつーなら、百歩譲って俺にも過失があったかもしれねえ…が、二人で寝ることに『慣れる』のが怖い、だと?
いつも意味が分かり難いことばっかり言う奴だが、今日も今日とて意味が解らん。そう見つめ合ったままの目で訴えれば、だから言いたくなかったんですけど、と言わんばかりの小さな溜め息が返る。
「…他の人はどうか知りませんけど、二人で眠って目が覚めた時、隣に姿がないのって、相当辛いんですよ。」
「……。」
「しかも慣れてしまえば、こんなだだっ広いベッドで一人で寝るなんてかなり寂しいと思います。」
「……。」
「……以上です。」
…なんつー下らねえ理由だ。
そう初めに思ったが、口にするのは止めた。
話と理由を飲み込んで、改めてまじまじとよく見たガキは、気がつけばいつその気丈な糸が切れるか分からない顔をしていて、下手な切り方をすれば再び閉め出し─更には暫く話もしねえだろうと見て取れる。それだけは御免だ。
折角今、触れられる距離と理由を手に入れたのに。
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