「じょ、ジョズさーん…?」
「……。」
「あらら、拗ねちまったよい。」
「………。」
からかうようなマルコさんの言葉に、ジョズさんはふいっと横を向いてしまった。その表情が曇って見えたのはやっぱり見間違いではなく、いつも少ない口数が、今は完全に沈黙してしまっていた。わ、え、何で急に!?
「じょ、ジョズさんジョズさん!あたし何かしましたか!?」
「……。」
「あっ…もしかして、あたしがマルコさんを、」
「、」
「あたしがマルコさんを引き止めたのが悪かったですか!?ごめんなさい、お仕事を邪魔する気はなかったんです…!」
「………。」
「トモエ…お前さんはちょっとお鈍さんだよい。」
「それは偶に言われますすみません!理由は分かりませんが謝るので嫌いにならないで下さいジョズさん!!」
ギャップという意味でだけど、数少ない癒やし要員であるジョズさんに嫌われてしまったら日々の生活の潤いが…!!
しかしやっぱりジョズさんはそっぽを向いたまま、また顔からじわじわとダイヤモンド化し始める。話も聞いてやらないということですか!?何でなんですかジョズさーん!!!
「ジョズのこれがダイヤモンドだってのは知ってるんだろ?元々硬い性質のダイヤモンドに、ジョズのスピードど技量が相俟って、攻守共にジョズは鉄壁だよい。」
「え、すごい…って今は説明を受けてる場合じゃないような…!」
「まあほら、触ってみるといいよい。」
呑気にあたしの肩を押すマルコさんに促されて、ちょっと手を伸ばせばジョズさんに触れられる位置まで戻ってきたけど如何せん、怒ってる人に触るとか逆効果なんじゃないだろうか。しかしマルコさんは何故かニヤニヤしながらあたしを見下ろすだけである。えええ…。
…でも、言われてみれば今までジョズさんのこの状態に触れたことはない。だったら通常時のジョズさんには触ってるのかと言われれば触ってないけど。日本人はね、スキンシップが下手なんですよ…。さっきマルコさんに触ったのは鳥の姿だったからだし…。
まあ、正直に言えばこの状態のジョズさんに触ってみたくはある。ダイヤモンドというだけあって、物凄くキラッキラで綺麗なのだこれが。その上、ジョズさんの体が大きいので、見たことのないような巨大なダイヤモンド状態。うん、触ってみたい。…でも尚更怒られたらなぁ…。
うんうん悩みながら暫く突っ立ったままでいると、ダイヤモンド化したままのジョズさんの目が、ちらりと横目でこちらを見た。気がした。
ら、次の瞬間には触ってたっていうあたしの図々しさよ!
「お、おぉ…!!硬い…!!ダイヤモンドなんて初めて触りました…!」
「、…!!」
「あ…や、やっぱり嫌でしたかね…?」
「いいからいいから。」
何故マルコさんが許可を出すんだろう。しかしジョズさんとマルコさんは傍目から見ても仲良しなので、多分信用してもいい…筈。
ええいもう触ってしまったんだし開き直ってしまえ!と自分に気合いを入れて、触れていた手を片手から両手に変える。ジョズさんの両頬を包むようにした手を思い切ってぐるりとこちらに回転させれば、意外と普通に回った。パキッとか言わなくて良かった…。
「ジョズさん。」
「……。」
「察しが悪くてごめんなさい。本当に申し訳ないですけど、ご面倒おかけしますけど、あたしに悪い所があったなら、ちゃんと教えて下さいませんか。何も分からないでジョズさんに嫌われるなんて、絶対に嫌です。」
カットされたダイヤモンドと同じく、面がいくつもあるその表面に、自分の姿が映って落ち着かない。でも、ちゃんとジョズさんにこの顔が見えてるといい。あたしはジョズさんみたいに素敵な気遣いもできないし、無一文だからお礼もできない。
誠心誠意を伝えるには、真正面から向かい合うしかないのだ。
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
「と、」
「と?」
「トモエが、謝ることは、何もない。」
また気を遣って下さったのかな、と一瞬頭を掠めたけれど、パキリパキリと元に戻っていく顔が異様に朱に染まっていたので、疑う気持ちはそれ以上膨らまずに萎む。
…ジョズさん、どうしましたか。顔、あっついです。ああ、ダイヤモンド化してる時は熱も色も分からないから…。そうか、さっきマルコさんが言った照れ隠しってこういうことか。え、じゃあ今まで急にダイヤモンド化してたのもそういうこと?
そこまで考えが至って、こちらまでぶわっと顔が赤くなる。うおう…何だこの気まずさ…そして手を離すタイミングを見失った…。
「……ありがとうございます。」
とりあえず、目を見ていられる間にお礼を言っておこうと、変に緩んだ口を開いて言葉を紡げば何てこったい。一つ瞬きの後に、目の前には銅像ならぬ立派なダイヤ像が据えられていた。そうです、今度は頭から爪先までダイヤモンド化したジョズさんその人です。
「…えと……。」
「…………。」
「……マルコさん、あたしは一体どうすれば…。」
「とりあえず、その可愛いほっぺたの熱を下げないとだな、うん。」
じゃないといつまで経ってもジョズがまともに機能しないよい。と、あたしの頬を後ろから覆うマルコさんの両手は半分青い炎を纏っていて、不思議な感覚の中で熱が冷めていった。
その日の夕食、ほんのり穏やかな顔つきでデザートを分けて下さったジョズさんに、あたしは心密かに謝罪する。
ごめんなさいジョズさん、もう癒やし要員が足りないなんて、欠片も思いませんからね。
「あの二人は本当に…無性に癒されるよい…。」
「ジョズが可愛く見える日が来ようとは…。」
「あのアンバランス感、絶妙だな…。」
「何でイゾウはジョズとトモエが一緒でも怒らないの?俺だと怒るのにジョズだけ狡くない?」
「てめえと違って下心丸出しじゃねえからだ。」
「そういやさっきマルコがトモエに抱きつかれてた。」
「……マルコォ…。」
「鳥の姿を気に入ってだよい。」
「あと後ろから包み込むようにほっぺを優しく触ってた。」
「マルコォ!!!」
「事実だけどサッチが言うと途端に卑猥になるから不思議だよい。」
「イゾウさん、今日は何が原因で荒ぶってるんですか?」