*果たし合いに臨む道士郎と高校生と鬼ごっこに臨む巴と解説する健助殿



「果たし合いってなんですか桐生道士郎さん。」

「いや女子中学生じゃん!!」

「健助殿、子どもと侮るなかれ。この見目でも実力は確か。」

「どういう経緯か誰か説明して!」

「オイ、ちょっとこっち…。」

「あっ、エリタン。」

「何かあの中坊に世話になったけど、気取られずに礼をしたいんだってよ。」

「…普通にお礼じゃダメなのかな?」

「それで良ければこんなことになるかよ。」

「理由は分かりませんけど、具体的にどう果たし合うんですか?」

「君、順応力高いね!?」

「方法は単純じゃ。これから拙者は、この公園内に身を隠す。拙者を探し出せばそちらの勝ち、探し出す前に、拙者が気付かれずその背に触れれば、こちらの勝ち。」 

「要するに隠れ鬼ですね。」

「高校生と中学生で鬼ごっこって…。」

「思ったより穏便な勝負でよかったじゃん。」

「エリタン…女子中学生心配して来てたんだ。優しい…。」

「……。」

「あたしが鬼ですよね。何秒数えればいいですか。」

「二十で充分じゃろう。」

「分かりました。あの…お友達さんも一緒に?」

「ア、イヤイヤ僕らは見届け人っていうか、見張りっていうか。」

「そうですか、お疲れ様です。」

「(あの女子中学生とは解り合える気がする)」





なんて思っている内に、名前も知らない女子中学生は、その場で目を閉じ、数を数える。いち、にい、さん。対する道士郎は、精悍な笑顔でこちらを見ると、謎の頷きを一つ。いや、コクリじゃないから。どういう意味よ。

兎に角、道士郎は一つ頷いた後、動いた。本当に動いたのかと思うくらい、音もなく。自分がもし女子中学生の立場で、今、こうして目を瞑っていたら、道士郎が何故動かないのかと不安になるだろう。意味が分からないくらい何の音もしないことに、ゾッとした。あの桁外れの腕っぷしの強さと比べたら、物凄く地味なんだけど、地味な分、よりヤバさが光る。チート過ぎる。

のに、女子中学生はきっちり二十数えきると、目を開いてすぐに歩き出した。その迷いのなさ足るや、道士郎を置いて帰るのかと思ったくらいだ。
その手があったかと、正直ちょっと感心したのはここだけの話。それはそれとして、彼女は真っ直ぐ進む。一見、人気も人影もない茂みに向かって。

随分核心的な歩みだったけど、道士郎が向かった方向とは真逆だ。もしかして、普通に当てずっぽうだったのかな?と思った瞬間、正に瞬間の出来事、道士郎の姿が現れた。なんと、彼女が向かった先の、木の上から。

いやお前真逆にいたじゃん!どうやって移動していつの間に木に登った!なんてツッコミを入れる暇は勿論なく、彼女が茂みを覗こうとするその背後、ほんの微かな着地音がする前に、道士郎は彼女に向かって手を伸ば、



「捕まえました。」



したが、触れる直前に固まって、勝利を宣言したのは女子中学生の方だった。……何が起こった!?



「…!」

「え?あの、これって、あたしから触るのは問題なかったですよね?」



どうやら彼女は、触れられるより早く、道士郎の手首を掴んで振り返ったらしい。瞬発力が凄すぎる。道士郎本人ですら驚いて固まってるところを見ると、この感想は正しいのだろう。隣のエリタンをチラ見すると、ドン引きの表情で二人を見ていた。分かる、分かるよエリタン…!だってこれほんとに、ほんの一瞬の出来事だったんだよ!



「まさかここまでとは…拙者もまだ修練が足りんのう…。」

「あのー…それで、果たし合いはもういいですか?」

「ああ、この道士郎、確かに敗けを認めよう。これを。」

「え、なんですかこれ。」

「ささやかな勝者への景品じゃ。気にせず受け取れ。」

「(成る程、どっちにしても回りくどく礼を渡すつもりだったのか)」

「はあ…なんか随分ちゃんとしてますけど……櫛?」

『櫛?』

「ああ、お前はいつも寝癖が酷い。年頃の娘なら、もう少し身なりに気を使った方がと思ってな。」

「…これは癖毛ですよ!!」

「ハハハ、そうだったか。まあどっちにしろ必要な物だろう。」

「ちょっと道ちゃん…それは…」

「お前スッゲー失礼だぞ。」

「?」

「これは結構です帰ります失礼します。」

「!?」

「…武士って、女心は分かんないんだな。」

「そもそも何で櫛にしたのかが気になる…。」



彼女の地雷云々もそうではあるけど、敢えてそれを選んだことが、どうも違う方向で意味深じゃないかと思うのは、俺だけなんだろうか。どうなんだろうか。……微妙なとこだ。





*帰宅後の道士郎と、兄上と母上


「なんだ道士郎、自分の手首見ながらニヤニヤして。」

「おお、兄上。」

「今日はなんか良いことでもあったの?」

「いや、どちらかと言えば色々と反省の多い一日だった。」

「(それでニヤニヤしてんのか…相変わらず分からん奴)ふーん。」

「ごめんね、道士郎。ママったら、女の子にあげるちゃんとしたプレゼントっていうから、あんなアドバイスしちゃって。」

「え!?女の子にプレゼント!?道士郎が!?」

「突き返されてしまったがのう。しかし母上の案は的確だったのじゃ。これは拙者の渡し方が悪かった。」

「イヤイヤそれより誰に渡したんだ?ちゃんとしたプレゼントって言うからには、それなりの相手ってこと…」

「近所の女子中学生じゃ。」

「…ジョシチュウガクセー…。」

「大丈夫よ〜歳で言えば数歳しか違わないし。」

「いやママそれ大丈夫かなあ!?」

「?大丈夫とは?」





おわり



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