買い出しに行った次の日から、毎晩の食事にデザートが付くようになった。何故かプリンの頻度が高い。

とは言え、流石は仕事仕事と連呼しているだけある。同じプリンではあるが、幾度も手を変え品を変え、味も食感も、時には形をも違うそれを添え続けた。チョコ、紅茶、ミルク、キャラメル、フルーツ…どれも甘いが、俺に合わせてそれなりに控えてはいるらしい。ほろ苦く焦がしたキャラメルのプリンはなかなかのものだった。

デザートだけでなく、日々の食事も美味い。食料が偏っていると言っていた理由がよく分かった。基本的にはワインに合う料理を作らせていたが、最近の朝…昼の食事は、まるでワノ国を思わせる素朴で変わった料理を作る。
これもまあ、美味いには美味いのだが、一度味が薄いと漏らした時には、せめて朝はバランス良く食べて下さいときっぱり跳ねられた。

何だかんだと、あれ以来海に出ていない。出る用が無いと言えばそれまでだが、此処に居て退屈しないのが何より理由か。

日々くるくる働く少女は、毎日何かしら新しいことをしでかしていた。城の何処かから古い調度品を見つけて飾ったり、屋根に鳥の巣を見つけて眺めている内に、柵が崩れベランダにぶら下がっていたり、遂に狒狒達に完璧な御手玉を仕込みきって披露してみたり、プリンを作りながら鼻歌を歌っているところを目撃されて落ち込んでみたり。

しかし、相変わらず年相応の表情は見えない。愛想がないわけではなく、恐らくは無意識の無表情だ。薄く笑みはするが、あくまでその程度。それを見たのも、狒狒達と戯れている時である。見目が特別良いわけでもないのだから、せめて笑えば年頃なりに可愛らしく見えるものを。



「…ジュラキュールさん。」

「何だ。」

「何であたしは最近ジュラキュールさんに観察されてるんですかね。」

「自惚れか。」

「いや自意識過剰かとはちゃんと考えましたけど!もう疑う余地もなく一日 中後ろにいるじゃないですか!掃除してるとこ見て楽しいこともないでしょうに…!」



別に楽しくはないが、つまらなくはない。言い返すなら、掃除をしているところを見られたくらいで、困ることもないだろう。

気になるんですよ、と未だぶつぶつ言いながら、少女はモップとバケツを持って次の部屋に行こうと、軽く会釈をして俺の横を通り過ぎようとする。が。



「、った!?」



すれ違い様に顎を掴み取られて、少女は声を上げて立ち止まった。ついでに首が鈍く音も立てた気もするが、気にしないことにする。相当痛かったのか、少女は抵抗するより先に涙目で俺を睨み付けた。



「痛いんですけども…!」

「首を鍛えろ。」

「いきなり何の無茶ぶりですか…放して下さい。…ジュラキュールさん?」

「貴様、何故俺の前では笑わない。」

「……はい?」



全く話が掴めません、と表情だけで饒舌に語りかけてくる少女を、顎を掴んだまま黙って見下ろす。そのままの形でたっぷり数十秒。返ってきた言葉は間の抜けたもの。



「え?笑ってますよね?」

「狒狒の前の話だろう。」

「それは分かりませんけど…そんな無愛想にしてるつもりはなかったです、すみません。あ、何か見たとこお国が違うようだから、表情が読めないだけかも…。」

「……。」

「ええ…納得してくれないと放してくれないパターンですかこれ…。えーっと……ああ。」



呟きと共に、困惑顔だった眉がふっと持ち上がる。何か思い当たったらしい。行き場が無さそうに逸らしてた視線をぎこちなくこちらに戻して、少女は薄い唇をそっと開く。



「ジュラキュールさんが、あたしのことを、」



そこまで言って、またふっと目が逸れた。それは気まずさからくる素振りではなく、何か気配を探る様に。遅れて俺も気が付く。…島の端に、いくつもの気配。これは。



「あれ?何か…誰か来ました?」

「酒の用意をしろ。」

「あ、気のせいですか…」

「二人分だ。」

「二人分?」



鸚鵡返しに繰り返す少女に構わず、剣を立てかけていたソファーに戻り、腰を下ろす。

間もなく此所にやって来るだろう、一人の男を迎える為に。





:海より来たるは



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