「あ、おはようございます。」

「………。」

「…もしかして低血圧っぽいですか?」

「…知らん。」



いつものように昼過ぎに目覚めてキッチンに向かうと、まるで今まで毎日使っていたかのように小綺麗に整えられた棚、磨き上げられた食器や台に少なからず驚いた。

思った以上に働く少女らしい。確かに金額分働くとは言っていたが、自分を縛る首輪ももはや無いというのに、ここまで自主的に働くとは上出来だ。が、しかし。



「朝からワイン飲む人、初めて見ました。お茶とかにしませんか。」

「…服はどうした。」

「服?」

「買ってやった服を、何故着ない。」



そう、今少女が着ているのは、昨日俺が買って帰った服ではなく、どう見ても男物の服。形やくすみを見ると、この城に眠っていた服のようだが、折角買ってきてやった服を着ずに何故それを着る。



「いや、買って頂いたのはありがたく思ってるんですけど、掃除するのには向いていなかったので。」

「……。」

「…って、言ったら、他の
人が貸して下さったので、遠慮無く…何かすみません…。」

「…人?」

「あ、違います違います。あたしが貸してくれって無理に頼んだので、その人は仕方なくですね…!」

「誰が居た。」

「そ、その方にとばっちりがあったら嫌なので言いません。」

「違う。」



論点がずれている。噛み合わない会話に制止をかければ、少女はキョトンとこちらを見上げた。

侵入者と言うのならまだ理解もしよう。だが、その言い方はまるで。



「此処には俺とお前以外、人間はいない。」



いるのは外の狒狒だけだ、お前も見ただろう。と、言い終わらない内に、少女は俺の言いたいことを察したらしく目を見開いた。そして、不意に反らされる視線。その表情は明らかに動揺しているが、何かしら心当たりがあるようで、俺に何か聞き返そうとはしない。



「………お昼過ぎましたけど、ご飯食べられますか?」

「……。」

「……。」

「……。」

「……こんなに使用人の方も大勢いるのに、何であたしまで雇ったのかな〜…って、不思議だったんですよね…。」

「…用意しろ。」

「…はい。」




変わった少女を手に入れたと思った、一日目。





:暗く湿った城の中、
鷹の瞳とその他大勢



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