凄まじく大きな海賊船の居候になったあたしは、主にお部屋を間借りさせて頂いているスーパー美女なナースさん達のお世話になっている。

ビアンキさんレベルの女性に囲まれる毎日は、ここが本当は男だらけの船の上ということを忘れてしまいそうだった。





「掃除、洗濯、ベットメイク、水差し…うん、よし。」



今日も今日とて華やかでいい香りのする女部屋のメンテナンスを終えて、あたしは甲板へと上がる。

結局、あたしに与えられた仕事は船のナースさん達のお手伝いだった。イゾウさんの言っていた『女もいる』の女とは、船員さん達の花園、アニマル柄のニーハイ姿がなんともセクシーなナースさん達のことだったらしい。

彼女達の中に有無を言わさず放り込まれたあたしは、その学校の乙女さんとは一味違う美女がわんさといる環境にたじたじしながらも、迷惑にならない程度のお仕事を頂き、仲良くもしてもらっている。

さて、仕事と言うにはあまりに簡単な仕事をお昼前に終わらせてしまうと、エドワードさんの言った通り好きに過ごすことになる。大抵はどこかの街かと思うくらい大きな海賊船の探検に費やしていて、そこ此処で出会う船員さん達に何か手伝うように頼まれたら手伝う、というのがここ暫くのあたしの日常だ。



「あらトモエ、お疲れ様。これからまた探検?」

「はい、行ってきます。」

「気をつけて行ってらっしゃい。その辺でお昼寝しちゃダメよ。誰かさんに襲われても知らないからね。」



フフ、と悩ましく微笑まれる皆さんのような美女さん達がいる限り、そんなことは起こり得ないと思いますよ…。

そんな風にナースさん達と時々すれ違い、声をかけて頂きながら甲板に出る。相変わらず船とは思えないそこには青い空と白い雲が広がっていた。

うーん、今日もいい天気だなあ…と、思った次の瞬間には大荒れになったりするから油断できないけど。海ってこんなに激しく天候が変わるもんなんだと初めて知りました。そうイゾウさんに言えば、ここは特別な航路だからこうなんだと教えて頂いた。春島夏島秋島冬島…と、わざわざ図解付き。つくづくイゾウさんって世話焼きだったんだなあと思…じゃなくて、つくづくファンタジーだなあと思いました。結局これって夢なのか現実なのか…。

考え出すと暗い思考に陥ってしまいそうなので、今はあたしを元の場所に帰そうとしてくれているエドワードさんに全て任せて、そのことは考えないようにしている。その為の探検だ。

まあ、ここの皆さん優しいから、誰かしらが必ず構ってくれるので、例え何もしていなくても、考える時間は無いに等しいのだけど。



「今日はどこに行こうかな…。」

「トモエー。仕事終わったか?」

「あ、サッチさん。」



おはようございます、と会釈と一緒に挨拶すると、おはようさん、と返すのは、まるで待ち伏せていたかのように甲板の出入り口の傍に立っていたサッチさん。今日も立派なリーゼントですね。草壁さんで見慣れていたから、黒髪以外のリーゼントは未だに違和感を感じるけれど。

それにしても、早速今日も構い倒される予感満載だ。何せ初っ端からサッチさん。…サッチさんかあ…。



「おいおい、何だ人の顔見て辺り見渡して。」

「いえ…イゾウさんがいたらまずいなって…。」

「何で?」

「サッチさんと一緒に遊んでると何故か後で怒られるんです。」

「ああ、成る程。だから最近イゾウが俺に冷たいのか。ていうか辛辣なのか。」

「え、怒る理由分かります?あたし分からなくて、仕方ないから直接聞いてみるんですけど、自分の胸に聞けって言われるだけで、さっぱり…。」

「うんうん、理由言わない奴に従うこたないぞ。アイツはなあ、今母性に溢れてるだけだから。さあ心配せずにサッチさんと遊ぼう!」

「ナースさん達からサッチさんが隊長さんだって聞いたんですけど、仕事大丈夫ですか。」

「よーし遊ぼう!」

「海賊って自由ですね。」



盛大に現実逃避をかますサッチさんに腕を引かれながら、これ後で仕事妨害したってあたしが怒られないだろうかと考える。寧ろこれでイゾウさんから怒られてるんじゃないだろうか。イゾウさんも隊長さんだと言うことだし。

しかしあたしの不安なんて何のその。遊ぶ気満々のサッチさんはあたしの手を引いて楽しそうだ。何せ彼は、この構いだかり溢れる船の上でフゥ太君がランキングをしたら、構いたがりランキング三位内には必ずランクインしていると確信できる御方だ(多分一位はイゾウさん)。イゾウさん、ナースさんに続いて、あたしに親しくしてくれた人だから、誘って頂くと非常に断り辛い。というわけでもういいや、流れに身を任せよう。



「今日は何しようなあ!船はいいとこ回れたか?」

「まだ端から端には辿り着けてませんねえ。途中で声かけて頂いたり、ご飯の時間になったりって言うのもありますけど…本当にこの船ってどれだけ大きいんですか?外から全体を見たことがないので、想像がつかないです。」

「よし、じゃあ見るか。」

「え?」

「こっちこっち。」


え、見るって、え?外から?いやここ見渡す限り海だし…あ、ボートか何かを出してくれるってこと?え、わざわざ?



「いやいやいいですいいです。そんなことでボート出してもらわなくても…。」

「いやいや、ボートじゃなくて。ほら、後ろ後ろ。」

「?うし…うわあ。」



思わず妙な声が出てしまった。後ろ、というのは船の後方、サッチさんが足を進めていた進行方向で、船の端から乗り出すように目をやれば、そこにはさながらアヒルの親子のように船についてくる小さな船が。

…いや、小さくない。小さくないぞ。この船が大きすぎるだけで、あの船もかなりの大きさだ。そして不思議な形。こう…甲板の前に黒い足場…?のようなものが付いている。あのゾーンは一体何の為に…?



「あれはうちの艦隊の一つでな、他にも何隻かこの辺りをついて来てるんだぞ。」

「…この船以外にもエドワードさんの息子さんがいるってことですか。」

「その通り。」

「大家族…!!」



大海賊の名は伊達じゃないですね…!!下手したら白ひげ海賊団だけで一つの町くらい作れそうな気がしてきた。この大人数を率いるエドワードさんの器のでかさを改めて知りましたよ…。

船から船に移動する、というよりは、隣の町内に移動する感覚だ。船を脇につけて頂いて、改めて上から見下ろしながら、スケールのでかさにぼんやりと思う。



「よし、じゃあ掴まれ。」

「ぎゃあ!!ちょっと何で急に抱きかかえるんですか!?」

「おま…逃げるの巧いな。既にイゾウに抱っこされてんだろ。」

「されてません。それ以前にされてますので。」

「誰だそれ。破廉恥な奴だなあ。」

「サッチさんはどことなくその人に似てますけどね!」



急な接触とかどさくさに紛れてお尻触ったりするとことか自分の事は棚に上げるとことかね!!歳は多分シャマルさんの方が上な気がするけども!

で、何ですか。何で急に抱っこなんですか。



「何だよー飛び降りるのが怖いかと思ってエスコートしてやろうかと思っただけだよー。」

「ああ、そういうことですか、すみません。でも多分ここからなら飛べます。」

「あ、そう?」



サッチさんは意外そうに目を丸くするけど、降りて降りれなくはない高さだ。ちょっと船との幅があって、並盛山の崖よりはマシなくらいだけど、うん。リボーンならさらっと蹴り落とすレベルだ。



「まあ、落ちても下、海ですし。」

「トモエみたいな美味しそうなコが落ちたら、海獣達が黙っちゃいないぞ〜?海王類もきちゃうかもよ〜?」

「怪獣?かいおうるいって何ですか?」

「知らんの?海の獣とー、海の化け物?」

「えっ。」

「じゃあ俺先に行ってるから、ちゃんと俺の腕に飛び込んで来いよ?」

「飛び込みません。」



冗談が本気か知らない説明に動揺したけど、次に出た冗談にはつっこみ属性が反射で出た。真顔で出た。

それが気に入らなかったのか、子どもの様に口を尖らせたサッチさんは、その表情にそぐわない軽い身のこなしでひらりと隣の船に飛び降りる。がたいが良いのに身が軽いとか、ヴァリアーの皆さんのようだ。



「じゃ、次行きまーす。」



少し声を上げて、助走をつける為に後ろに下がる。サッチさんは助走もつけずに脚力だけでその場から飛んだけど、あたしにそれはちょっと不安だ。まさか船を飛び越えることはないだろうから、思い切り行こう。今日の服はナースさん達から借りたものだけど、ミニスカートじゃなくて本当によかった。

周りから人が横切ってこないことを確認してから、足を踏み出し一気に加速をつける。柵の数歩手前で踏み切って、行儀は悪いけど柵に足をかけて空中に飛び出す──うん、これなら海に落ちることはないと─




『ギャオオォオ!!!』

「、─」




思ったんだけどなあ。

驚きを通り越し、呆然をも通り越して、何だか呑気に思いながら、突然真横に─まさかのこの高さにまで立ち上がった水柱を眺める。すごい、水の音が大きすぎて自分の声も聞こえないとか。

水柱の正体は、下から勢い良く押し上げられた海の水だった。それが徐々に海へと戻っていく様は、まるでエンツィオ君が池に落ちて巨大化した時のように豪快だ。

異様にゆっくり流れる一瞬でそこまで考えると、水のベールを振り切るように何かが飛び出してくる。予想はしてたけど大きい、何だこれ、いや、え?



「エンツィオ君?」



ぽろりと口を突いたその瞬間、目の前が赤一色になった。あ、これでっかい口だ。食べられる。



「…、っ!!」



そこで漸く我に返ったあたしは、反射的にその口の下顎だと思われる場所に掴まって、落下する体の勢いを振り子の原理で上へと方向転換する。体を空に放り投げるように顎から手を離すと間一髪、がちん、と真下で口を閉じたにしてはあまりに凶暴な音が響いた。



「え、あ、エンツィオ君じゃない!?」



いや当たり前だけど!!と自分の脳内とノリツッコミをかましている間に、体はその巨大化したエンツィオ君と間違える程大きい亀の頭に着地していた。こんな巨大な亀なんてエンツィオ君以外心当たりがないけれど、空中にいた時に見た甲羅の模様や顔が違う。多分これは、さっきサッチさんが言っていた海獣、もしくは海王類だ。

あ、そういえばサッチさん…



「わあああ!!!ストップ!!ストップ!!!攻撃しないで下さいー!!!」



はっと気付いて挟まれるように並ぶ両方の船を見ると、どっちからも尋常じゃない殺気を感じて思わず叫んだ。たとえエンツィオ君じゃないにしても、似た感じのそっくりさん…そっくり亀が目の前で殺されるのは嫌ですよ!!

後で気付いたことだけど、普通にあたしの常識で考えれば、こんな巨大な亀に人間が太刀打ちできる筈ないのだけれど、絶対この亀殺されるよこれ!と断言するほどに、その殺気は凄まじいものだったのだ。特に母船の方からの。






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