*映画“ガーディアンズ 伝説の勇者たち”より。
「うわっ、え?誰ですか貴方。」
「…見えるのか、私が。」
「見えますよ。すみません、変質者ですか?叫んでいいやつですか?」
「…何故見える。何故だ。」
「あ、叫びますね。」
「いや、待て、叫ぶな。いや…叫んだところで、困るのは君だけだ。気が触れたとね。」
「はあ…兎に角、ベッドの下から出てきてもらえません?お名前は?」
「…私はブギーマン。」
「え?鼻たれ男?」
「ブギーマンだ!!ブギーマン・ピッチ=ブラック!」
「結局どれが名前ですか…。」
「貴様…私を知らないのか?私はブギーマンだぞ!子ども達が恐れるブギーマン!」
「すみません、知りません。」
「何故だ!」
「えーっと…今、ベッドの下からぬるっと出てきたのを見ると、もしかして幽霊の類ですか?」
「何故だ…何故私だけ忘れられる…何故私ばかり…!!」
「何かすみません。あー…あの、あたし日本人なので、単純に貴方のことを知らないだけかと。」
「はっ…?」
「つまり、貴方は子どもを怖がらせるお化けなんですよね?合ってます?」
「…そうだ。」
「へー。」
「その反応の薄さ…どうせ貴様も私を怖くないなどと言うのだろう…どうせ…。」
「いや、割と怖いですよ。変質者的な意味で。」
「違う!そうじゃない…!」
「よく分からないですけど、なんでそんなに卑屈なんですか…。」
「そんなことはどうでもいい!何故貴様は私が見えるのだ。ブギーマンを知らない、対した恐怖の匂いもしない。それなのに何故、私が見える!」
「あの、あたし眠いのでお引き取り頂いても?ここ、知り合いのお家なので、あんまりブツブツ言ってると気味悪がられて…」
「話を聞け!」
「いやだから知りませんよ…。幽霊は時々見えるので、その部類なんじゃないですか?」
「はあ!?ゆ、幽霊だと?私はかつて暗黒時代を…!」
「すみません、眠い。」
「っ…ふん、いいだろう、存分に眠るといい。その夢を悪夢に染め、きっと私の存在を認めさせてやる…。」
「うわーこの人タチ悪い。て言うか、貴方は結局、何がしたいんですか?」
「私は…私の望みは、ただ一つ。人々がみな恐怖し、私の存在を信じること。そうしなければ、私はいつまでも存在を無視され続ける…!」
「……構ってちゃん的な…。」
「っ〜…!!ふざけるな!!」
「まあとりあえず、今日のところはあたしが信じるのでお帰り下さい。」
「私を信じる…!?貴様が?私を?私を何一つ知らぬくせに!怖がりもしないくせに!!」
「変質者的な意味ではちゃんと怖いので、とりあえずそれで我慢して下さい。貴方については、今教えてもらったので知ってます。ちゃんと話もしました。貴方は、ベッドの下から現れて、子どもを怖がらせるブギーマン=ピッチ・ブラックさんです。忘れませんから。大丈夫です。」
「……。」
「ベッドからぬるっと出て来たインパクトがすごかったので、忘れられませんから。」
「……。」
「聞いてます?兎に角、大丈夫ですからね。おやすみなさい。できれば嫌な夢は勘弁して下さいね。それでは。」
その夜は、変わった夢を見た。
寂しげな林にぽつんと佇む、古ぼけたベッドに腰掛けたブギーマンさんが、霧のように霞んで跳ねる、黒く小さなユニコーンを眺めている夢だった。少し離れた所には、キラキラと金色に輝いて浮かぶ、太陽みたいな子どももいて、怪訝そうに彼を見張っているようだった。
金色の子どもとふと目が合うと、その子は表情を和らげて、ふわりと手を翳す。それに操られるように、手のひらから現れた金の砂が、空中で文字を描いた。“sandman”と。
サンドマン。そう読み上げると、猫背のブギーマンさんは、恨めしそうにこちらに目を向けて、口をへの字に曲げる。結構いいお歳のおじさんに見えるのに、所作が子どもっぽいなあ。
『忘れてませんってば。ちゃんと信じてますから。』
そう言えば、彼らは二人してキョトンと目を丸くした。いや、信じてほしいって言ってたのは、ブギーマンさんじゃないですか。
「ふうん、変わった子どもだなあ。」
唐突に、後ろの方から少年みたいな声がして、振り返ったところで目が覚める。
現実でも振り返っていたらしく、変な体勢で起こしていた体を元に戻して、ぼんやりと見慣れない窓を眺めた。…ここ、何処だろう。……ああそうだ。ディーノさん家に、みんなで泊まりに来てたんだっけ。まだ夜が明けてないや。暗いなあ。
…というか、なんでカーテンが開いてるんだろう。ちゃんと閉めて寝た筈なんだけど、おかしいな。まだ起き出すには早いだろうし、閉めておこうかとベッドを出れば、ひんやり冷たい空気に身が竦む。うわー寒い。霜が下りてそう。ほら、やっぱり窓に霜が…
「んん?」
中途半端に開いたカーテンの隙間から見える窓は、見るからに寒そうに曇って、小さな霜もつけていた。それ自体はよくある、なんてことない冬の窓。
けど、手のひら型についた霜なんて、初めて見た。
「……海外って、妖精が身近だなあ。」
すごいですね、と、二度寝後の朝食の席でディーノさんに感想を述べてみると、いやいやそんな身近じゃないぞ!?との返事が返ってきたのは、まあご愛嬌。
fairy night
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