*ヴァンパイアガール巴2
「えっ、うわっ、え?えぇー…?」
反射的に口元を押さえた手の隙間から、真っ赤な鮮血が溢れ出した。押さえきれずに零れた雫は、ぼたりぼたりと膝に落ちる。あ、
「勿体無い。」
ですよねー、ってそうじゃなくて!
「いや、誰の血ですかこれ!」
手のひらに出来た血溜まりに、浸されるように転がるのは、一口大のかじりかけのチョコ。かじったのは勿論自分だけれど、この血は別に吐血したわけじゃない。これはあれです、まるでブランデーチョコの如く、チョコの中に入ってました。つまり血入りのチョコ。うへえ、趣味の悪い…。
「吸血鬼の君に言われたくないな。」
「これを人間がやるのが、趣味悪いって言ってるんですよ。」
いつものように、何の用事か分からないまま呼び出された応接室で、珍しく茶菓子が差し出されたと思えばこれである。迂闊だった…毎度のことながら、雲雀さんのやることは先が読めないなあ。
そもそも、どうやってチョコの中に血を詰めたんですか?と聞けば、君の家の居候の一人にね、とのお返事。それはまさかビア…いや、聞かなかったことにしようそうしよう。それよりも大事な疑問がもう一つ残ってる。
「それで、結局誰の血なんですか。」
「さあ。」
「人に食べさせといてそれはないですよ。」
「さっさと食べなよ。空気に触れるだけ鮮度が落ちるんじゃないかい。」
「気の遣いどころが違う気が…。」
「意外だな。」
「はい?」
「もっと飢えているのかと思ってたよ。産地を気にする余裕があるんだね、血を吸う度胸のない吸血鬼が。」
「流石に誰でもいいわけじゃないです。寧ろそこにはうるさいものらしいですよ、吸血鬼って。」
「へえ。」
よくゲームやら映画やらにあるじゃないですか。美女しか襲わない吸血鬼とか。男性は割と面食いが多い傾向ですよね。
そう応えれば、雲雀さんは何故か呆れた顔をした。自分の種族をフィクションで喩えるってどうなんだい、と言われれば、それはまあ確かに、とは思うけれど、実際にリアルで会ったことのある同族よりも、フィクションの方が数もバリエーションも豊富だから仕方がない。
「でも、ツナも割と面食い傾向ですから、一概に間違った情報ではないかと。」
「それで、君は?」
「面食い…かどうかは、自分じゃ判断しかねますけど、とりあえず、全く知らない人の血はちょっと。」
「ふうん。知らない方が気楽そうだけど。」
「そりゃあ、罪悪感は少ないでしょうけど…でも、やっぱり本能ですよ。血の味そのものの好みより、気持ち的に好きな人間の血を飲みたいと思うのは。」
まあ、これは勿体無いので食べますけどね…。
さて、これは一体どこの可哀想な人の血だろうか。せめて美味しく頂こう。しかし手のひらから直接啜るのは、なかなかに行儀が悪いので、半身を回して、雲雀さんから顔を背ける。
改めて味わうブラッディーチョコは、まろやかな甘さと、少し乾いた血の味がした。やっぱり鮮度は落ちてるなあ。けど、これは空気に触れ過ぎたからじゃなくて、そもそも人の体から出てしまった時点で、吸血鬼的には劣化してしまっているんだ。
だから、あたし達は人に噛みつく。直接血管に歯を立てて、まるで、その人と同じ血を共有するみたいに。
いやーでも、劣化した割に、これはやけに美味しく感じるなあ。流石は久しぶりの血液摂取だからか、良質なチョコのおかげか…それとも、
「それ、僕の血だって言ったら、どう思う?」
膝に落ちた血を指で拭って、舐めるか舐めないか迷っていたところに、そんな問いかけかなんなのか分からない言葉が投下されたものだから、もうね。
ちなみに、我らが風紀委員長様は、冗談を言わないようで言うし、冗談みたいなことを本気で言うお人だったりする。
「あー……もしそうだったら、なんか…丈夫になりそうですよね。ハイ。」
「どういう意味。」
「さ、さあ…。」
とりあえず、指は舐めずにティッシュで拭いておくことにしよう。念の為。
啜るは、
2017Valentine