「巴が世話になったようだな。」
「あー右目の旦那、それ上杉も言ってたわ。巴ちゃんには保護者が多いねえ。」
「今のてめえも、充分保護者に見えるがな、猿飛。奥州にいた時はあれだけ警戒していた癖に、どういう心変わりだ。」
「俺様ね、どうやら巴ちゃんに幸せになってもらいたかったみたい。」
「……どういう意味だ。」
「や、そのまんまの意味。忍みたいなことしてないで、ちゃんと普通の一般人みたいに幸せになってほしかったんだよ。折角、普通なんだから。」
「……。」
「俺達みたいな、異質な人間に憧れる暇があったら、早めに現状を諦めて、それなりの幸せを掴んで欲しかった。」
「…それは、自分じゃ掴めないものだからか。」
「あ、そういう野暮ったいこと聞くの無しね。ま、結局思い通りになるような子じゃなかったんだけどさー。竜の旦那も趣味が悪い。」
「政宗様を侮辱するんじゃねえ。そもそも、てめえが言えた義理か。」
「俺様は別にそういうんじゃないよ?相互補助だよね。取引相手って言うか。」
「それを取引と呼ぶなら、詮索するのはそれこそ野暮だろうな。」
「そこは聞くとこでしょ!右目の旦那達に会った後だか前だか知らないけど、実際馬鹿みたいな取引してたんだからねあの子!保護者面するなら、ちゃんと最後までやってほしいんだけど!?」
「何をキレてやがる。文句があるなら言いにくればいいものを、わざわざ自分が背負いに行ったんだ。主君の影に成るのが生業の、猿飛、テメエがな。なら、満足してるんだろう、その結果に。」
「まーねー。そうなんだけどさあ。」
「それより、真田はどうなんだ。」
「どうって?」
「分かりきってることをいちいち聞き返すな。」
「はいはい、すみませんでしたよっと。でも、あー、うん、どうなんだろ。」
「あぁ?」
「や、実のところ、俺様も分かんないんだよね。」
「……Be cool…改めて訊くが、真田。巴をどう思ってそう呼び出した。女の足が見えただけで、破廉恥言い出す破廉恥野郎のテメエがだぞ。」
「そっその言い様では、まるで某が破廉恥者のように聞こえまする!!」
「似たようなもんだろ。」
「似ておりませぬ!!決して!!」
「ahー…ややこしくなるからnuanceは置いておけ。質問に答えろ。」
「…その、某は、彼女を、特別に思っておりました。」
「…はあ!!?」
「お館様や、謙信公や、政宗殿と同じ様に、たゆまぬ意志と、人を導く力を持った、特別な人物だと思っておりました。」
「紛らわしい言い方すんじゃねえよ…。」
「某が目を反らしても、手を離しても、…忘れてしまっても、変わらず力強く生きていると、疑いもしなかったのでござる。しかし、それは某の思い込みでござった。」
「……。」
「彼女は、特別ではございませぬ。佐助に敵意を向けられた時は苦しみ、謙信公やかすが殿の庇護には素直に身を預け、彼女を見守る慶次殿との別れは辛く、風魔殿の傍には穏やかに立っておりました。彼女は、当たり前で、普通で、彼女の周りの者もまた、己の素直な感情を、彼女に向けている。」
「…ああ。」
「だが、己には…己にだけは、厳しいのでござるな。自身の弱さを解っているからこそ、自律を重んじ、多くのものを捨て、歩いている。佐助は、己が身を以て、それらを補おうと決めたのでござる。」
「はっ…猿らしいっちゃ猿らしい発想だな。」
「そうでござるな…。佐助は、器用ゆえ。」
「テメエは不器用だから、名を呼ぶくらいしかできないってか?」
「お恥ずかしながら、その通りでござる。某は未熟者ゆえ、政宗殿や片倉殿のように、懐深く受け入れることはできませぬ。佐助のように、目を利かせ気を利かせることは勿論、慶次殿のように、彼女の気持ちを察し、守ることも、できませぬ。しかし、恐らく、…恐らくは、きっと、巴は、それで良いと言うに違いない。」
「女心を理解する以前の問題のお前が、随分言い切るじゃねえか。」
「それはそうでござる。当人が、そう言っておりました。向かい合った相手が、自分に見せたいと思った、その一部分が欲しいと。たとえそれが、嘘であっても。」
「…That's just like her.」
「某が人の真似事をしても、彼女は首を傾げるばかりでござろう。某が出来ることは、名を呼び、同じ方向を見続けることのみ。巴が挫折し、惑う時は、目指すべきものを思い出させることができるよう。深い暗闇の中であっても、確かに燃えうるその美しい炎を、忘れぬよう。」
「…ま、テメエにしちゃあniceな判断だな。」
「長々と申してしまいましたが、これはただの、某の勝手な親近感やもしれませぬ。彼女と某は、髪の色が似てござろう?妹がいたならば、この様な感じなのだろうと思うと、他人とも思えぬゆえ。」
「妹、か…。I see.そういう見方なら、俺がいちゃもんをつけるのはお門違いだな。…巴がまたこっちに来た時は、よろしく頼むぜ。」
「無論でござる!」
「あ、二人とも落ち着きました?」
「Hey,巴。廚はもういいのか。」
「お二人が見境なく勝負し始めてたら止めようと思いまして、休憩頂きました。」
「巴は些か心配が過ぎる。某も政宗殿も、店に迷惑になるような勝負はしないでござる!」
「いやいやいや。…まあそれは置いておいて、何の話してたの?」
「うむ、掻い摘んで言うと、某は始め、巴の事を政宗殿と同じようだと思っていたが、今は、政宗殿が巴を思うのと同じように思っている、という話をしていた。」
「へえー…?何かややこしい話してたんだね。」
「ん?そんな事はないでござるが。」
「オイ…ちょっと待て……テメェ…それはつまり…」
「…!?藤次郎さん…!?静電気が漏れてますが…!?あれ!?落ち着いた筈じゃ…!?」
「?政宗殿、如何なさった?」
「Shut up!!!油断させやがって真田テメエェエ!!!」
「やはり勝負でござるか!?」
「幸村君はウキウキしない!!全く状況読めませんが、兎に角藤次郎さんは帯電止めてくだ、さっ!いたっ、肌が痛い!!」
「…って感じだから、俺様もよく分かんない。多分、本人も分かってない。」
「だろうな…。」
「なんつーか、大変だね、竜の旦那。」
「てめえもな。」
「……。」
「……。」
「…止めるか。」
「えー、毎回めんどくさ…。」
「とっとと働け。」
「巴ちゃーん、右目の旦那が俺様のことこき使うよー。えーん。」
「気持ち悪いですよ猿飛さん。」
「ひでえ。」
「巴!ぷりん大福を五つ頼むでござる!」
「この流れから急に!?」
「腹が減っては戦はできぬからな!」
「本業の方が言うと物騒なんですが!」
「また敬語でござる!」
「これは接客対応です!あああもうキリがない…口開けて下さい!はい!あーん!」
「!?もがが、むぐう」
「はい、よーく噛んで落ち着いて下さい。元気があるのはいいけど、もういい大人なんだから落ち着きも大事だよ。」
「いい大人は、はいあーんとかされないけどね。」
「猿飛さんは静粛に。で、藤次郎さんもです。いつものクールガイが台無し…何で口を開けてるんですか。」
「真田にやって俺にやらねえとは言わせないぜ。食わせろ。」
「嫌です。……片倉さんが痛切の表情してますよ…。」
「政宗様…。」
「Ha!断られる理由がねえな!」
「断るもわらないも、そもそも前にやりました。指ごと食べられたので二度とごめんです。」
「ゆっ!?はっ、破廉恥なああ!!やはり政宗殿こそが破廉恥者ではござりませぬかあぁあ!!」
「何とでも言いやがれ。こっちは名前を呼んで満足してるようなlecherとは違うんでな!」
「あーあ、火に油注いでどうすんのさ。巴ちゃん。」
「ん!?今のはあたし悪くないですよね!?」
「それよりこっちおいで。どこかじられたって?ちょっとお兄さんに見せなさい。」
「は?いやそれは大分前の話…いたたたた!?指が!抜ける!!かっ…片倉さああんんん!!」
「……てめぇら全員そこに直れ!!!」
そして
日々は続く
リクエスト「戦国BASARA」、神尋様より「BASARA・戦国時代に生きる巴」
長丁場になってしまいましたが、いずれ書いてみたいと思っていた戦国BASARA、完結できて良かったです。西の話もその内に。リクエスト有難うございました。
そして以前、リボーン短編【黒い男赤い女】にご感想頂きましたお客様、ジャンル違いで時も経ち、ご覧頂けている可能性は限りなく0に等しく、完全な自己満足ではございますが、こちらの話で、頂戴いたしました質問への回答とさせて頂きました。お伝えしたかったことが、僅かでも伝わっていれば幸いに思います。有難うございました。