諸泉尊奈門さん、19歳、天秤座(誕生日近いかも)のA型(納得)。あたしを拾ってくれた黄昏甚兵衛さんのお城、タソガレドキ城の忍者隊?の組頭・雑渡昆奈門さんの部下で、きちっとしていて面倒見がいい、だけど他の忍者さん達から比べると年若いからか、若者っぽい軽さが時々見えるお兄さんだ。…そう言えば19歳ってベルさんと年齢同じくらい…?うわあ、何か頷けるような引っかかるような…。

それもその筈、此処はあたしが生まれた時代から、随分昔の日本らしい。何故こんな時代にタイムスリップしているかって、原因はよく分からない。あたしは確か少林寺の合宿中で、みんなでトレイルランをしていたと思うんだけどなあ。よく考えたらこれって神隠し的なあれ……いやいやいや。

兎に角、雑渡さんに言い渡された通り、諸泉さんの専属女中の仕事をして暫く経った。電気のないこの時代の日常生活に慣れてきた頃から、諸泉さんは非番の日によくあたしを城から連れ出してくれるようになり、今日も貴重なお休みを割いて、偶にはタソガレドキ領地以外も見てみた方がいいだろうと、少し遠い所にある人気のうどん屋さんへのお出かけを提案して下さった。いつもとは違う遠出に、遠足気分を膨らませ、朝の仕事を終えて門に向かうと、何食わぬ顔で雑渡さんもいたのはご愛嬌である。相変わらずお茶目な人だなあ。



「おじさんまでお邪魔してごめんね、巴ちゃん。」

「いえいえ、雑渡さんと一緒に過ごしたことって、今思うとあまりなかったので、楽しみですよ。」

「そう言えばそうだね。諸泉君から報告は聞いてるけど、巴ちゃんがちゃんと此処に慣れたか見てみたかったんだよね。大丈夫?問題とかない?」

「気にかけてもらってありがとうございます。来たばかりの時は分からないことも色々ありましたが、お陰様で今はもうすっかり慣れました。」



まあ…未だに不思議な事はあるけれど。こうやって当たり前に忍者が存在していたり、歴史の授業の内容と大きく違う点があったり。そして何より不思議なのは、



「諸泉君もごめんね。デートの邪魔しちゃって。」

「だからデートじゃないです!!」



何で普通に横文字が飛び交っているんだろう。此処って、室町時代じゃなかったっけ?

こんな疑問で首を傾げるくらい、あたしの生活は非日常ながらまったりと流れている。我ながら、対人運がいいなあとしみじみ思わざるを得ない。


そして今日は、そんな非日常の中での非日常でした。雑渡さんが一緒について来られた時点で、何かおかしいなあとは思っていたけれど、ねえ。

まさかたった一人、忍者の学校にお留守番になるなんて。





【諸泉君の専属女中・番外〜忍術学園の皆さんとのふれあい編〜】





「いいですか。くれぐれも、迷惑をかけないように大人しくしていて下さい。」

「はい。」

「だからと言って、く・れ・ぐ・れ・も!安易に油断しないように。此処と我々は、決して味方同士というわけではないですから。」

「はい。」

「………くれぐれも、貴女が私の専属女中であることを口にしないように。」

「分かりましたから…ほら、早く行かないと雑渡さんに置いて行かれますよ。」

「わ、分かってます!いいですか!兎に角、気を付けて下さいよ!女中とは言え、タソガレドキ城の端くれとして粗相の無いように!」

「はい、迷惑かけずに大人しくして油断せず気を付けて粗相しません。肝に銘じましたから。」

「、っ〜…!」

「?どうしました?」

「ほ、他に言うことはないんですか!」

「え?あ、えーと…行ってらっしゃいませ?お二人とも、お気をつけて。お仕事頑張って下さい。待ってますから。」

「…はい、行ってきます。」

「(正解だったっぽい…?)あ、はい。」

「諸泉君ったらいつまでも新婚さん気分なんだからー。」

「結婚もしてませんしそんな気分も味わってませんから!!ちょっと聞いてるんですか組頭ー!!」



既に結構距離の開いた雑渡さんにツッコミつつ、諸泉さんはようやく門の前から離れて行った。

残されたあたしはと言うと、二人の姿が見えなくなってから、ちらりと後方斜め上に目をやった。そこにあるのは、忍術学園、と墨で力強く書かれた木の看板。柔道や空手の入り口イメージによくある、ああいう感じ。その看板が掛けられているのは、タソガレドキ城よりは小さな門。看板こそないけれど、こういう門は少林寺の道場、つまりあたしの先生の家にもあったから、何となく落ち着くけど…忍術学園って…。これ堂々と掲げていいの?忍者って暗躍するものじゃなかったっけ…。まあ、それは置いておいて…



「すみません、急にお邪魔することになってしまって。ありがとうございます。」

「そう畏まらなくていい。諸泉君の言う通り、我々は味方同士とは言えないが、雑渡君はうちの生徒達と交流もあるしな。」

「あ、ふわっと聞きました。保健委員会の子達、でしたっけ?」

「そうだ。まあ迎えが来るまで、学園を回りながら待つといい。生徒達と歳も近いようだし、息抜きのつもりでな。」



門の中に招きながらそう言ってくれたのは、諸泉さん達の服…所謂、忍装束とは少し色の違う、だけど形は殆ど同じそれを来た、雑渡さんより年上の男の人だった。雑渡さん曰わく、この学園の教師の一人とのことで、此処に着いてから真っ先に紹介された。お名前は、山田伝蔵先生。お顔の形が独特だ…。

さて、どうしてあたしが忍術学園に預けられたかと言うと、よく分かりません。…なんかさっきも同じ事言ったような…。

いや、流石に経緯は分かってるんだ。甘味処に向かっていた途中で、お仕事中の高坂さんが現れて、急遽仕事が入ってしまった雑渡さんと諸泉さんに、城に戻っている時間はないし、一人で帰らせるわけには行かないと(帰れますけど…)、最も近くて安全な知り合いの所に──この忍術学園に連れてこられたわけなんだけど…。それにしたって諸泉さん、味方同士じゃない所に置いていくのはどうかと…まあ、雑渡さんが決めたことだから仕方がないし、だからこそあんなに念を押していたのは解る。でも、どちらかと言えば一人で引き返した方が、断然面倒がない筈なのに。

と言うことは、最初からイレギュラーだった雑渡さんの何かしらの思惑ってことでいいんだろうか…?まさか忍者になれってわけじゃあないよね…まさかね…。



「今日は学園長が不在でな。とりあえずは、うちの生徒に顔を見せてもらうか。途中まで案内しよう。」

「はい。お忙しいところすみません。ありがとうございます。」

「…ところで君は、諸泉君とどういう関係なんだ?」

「関係?ですか。雑渡さんの話通り、女中と城仕えの忍者さんですよ。」

「そうなのか?君は随分と彼に従順なようだし、先程の諸泉君の反応を見るとなあ…。」

「いやいやいやいや、ないですないです。あと、それは諸泉さんに言わないで頂けると…。ただでさえ、雑渡さんにからかわれてますから。」

「ふむ…若さ、だな…。」



…何だか誤解が解けていない気がするんですが…しみじみ遠い目をしないで下さいませんかね…。

と、突っ込みたくても、初対面でしかも転がり込むようにお世話になっている身では憚られる。

…うん、よし、忘れよう。突っ込みたい衝動は忘れるに限る。やましいことは全くないけれど、うっかり諸泉さんとの約束の一つ、専属女中は内緒の件を漏らしてしまいかねないし。そうか、諸泉さんが何でそれを言うなと念を押したか今更解った。こういう勘違いをされるかもしれないからってことだったのか…。



「着いたぞ、ここが一年は組だ。」

「あ、はい。」



あー…教室だ、うん。木造校舎の雰囲気そのままだけど、久し振りのこの感じ…!無性に落ち着く…!!

妙な感動を味わっている内に、はたと気付く。そう言えば、ここって小学校でも中学校でもないんだよね?あたしと同じくらいの年齢の子がいるって言ってたけど…



「山田先生、こちらって、何歳の子達が何学年まで通ってるんですか?」

「学年は一年から六年までだ。年齢は基本的に十歳からだが、途中入学もあるからな、四年に十五歳が居たり、様々だ。」

「へええ。」



成る程、十歳からってやけに中途半端だと思ったけど、忍者の技能を勉強をするわけだから、どちらかと言えば専門学校に近いのか。だから年齢的な例外もあり、と。



「私はここの実技担任だ。今は座学担任の土井先生が授業をしている。そっと覗いてみるといい。」

「はい。…おお。」



音を立てずにスライドさせた戸の隙間から、言われた通りそっと中を覗くと、水色のちんまい姿が一、二、三、……か、可愛い…。普段お城の中で働く人しか見てないから、癒されるなあ…!もしかして雑渡さん、これを狙って連れてきてくれたんだろうか…。雑渡さん自身もよく遊びに来てるらしいしなあ。

ほわほわ癒されている内に、山田先生が土井先生と呼んだ教師の方と目が合った。あれ、土井?土井さんって、前に諸泉さんと出かけた時に会ってないっけ。ええと、確か名前が…



「土井は…三助さん?」

「半助です!じゃなくて、うん?君、以前、諸泉君と一緒にいた…何で此処に?」

「誰と話してるんですか?土井先生。」

「ああ、みんな、少し待っていてくれるか。」

「あっ、大丈夫です、授業終わってからで…!」

「いや丁度いい、中に入ってくれ。」

「え!?」



思わぬ人物に会ったと思ったら、まさかの入室!?見学だけじゃなかったんですか!?あああ!すごいざわつき始めた!



「山田先生、その子はどうしたんですか?」

「タソガレドキ城の女中の巴君だ。雑渡君と諸泉君と出かけていたそうだが、二人に急な仕事が入ったらしく、迎えが来るまで身を預かることになった。」

『タソガレドキ城の女中さん!?雑渡昆奈門さんと諸泉尊奈門さんと知り合いなんですか!?』

「そ、そうですよー。あと、“しょせんそんなもん”じゃなくて、もろいずみさんですよー。」

「諸泉君達は、今日中には戻って来れそうなんですか?」

「ああ、話を聞いたところでは大事にはならなそうだが、後で説明しよう。みんな、親切にしてやるんだぞ。」

『はーい!!』

「あ、ありがとうございます…。」



な、何と言うか…一致団結したクラスだ…!そして皆さん、結構柔軟に対応して下さる。忍者って言うくらいだから、色々警戒されるかと思ったんだけど…。

…そういえば、最初の頃の諸泉さんは、あたしの事を全く信用してなかったなあ。今や懐かしく思えるほどに柔らかくなったのは、日々の慣れか、それだけ仲良くなれたという証拠なのか。どちらにしろ、いい事だなあ。



『巴さんは諸泉さんの彼女さんですかー?』

「…違いまーす。」




微妙に誤解を与えるのが、難点だけども。





次回、委員会と戯れます。



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