「よう、鬼灯様。と、ワンコ。」

「あっ、春一さん!こんにちは!」

「突然すみませんでした。ご協力ありがとうございます。」

「いいよう。んで、早速だけど、探し人ってどんな奴?」

「メッセンジャーです。栗色の髪をした少女の亡者で、この位の身長の…」

「あー、やっぱり。」

「え?やっぱりって?」

「それって、巴って子だろう?その子なら、丁度さっき、そこでウロウロしてたの見つけて、温蔵庫に避難させといたよう。」

「本当!?鬼灯様、巴ちゃん居るって!良かったね!」

「ええ。すみませんが、そこに案内してもらえますか。」

「うん、こっちこっち。」

「それにしても、よく助けましたね。刑を受けている亡者と間違えませんでしたか。」

「いんや、僕、こないだ彼女が来た時に届け物してもらったから。」

「八寒に来たのは今回が初めてじゃないということですね…。」



あっ…折角ホッとしたのに、また鬼灯様の顔が険しくなっちゃった。て言うか、前に一回来たってことは、一度はちゃんと戻ってきてたんだ。やっぱり巴ちゃんって丈夫だなあ。

暫く真っ白な道を進んで行くと、でっかい冷蔵庫の建物に着いた。これが温蔵庫らしい。中に休憩所とか食堂があるんだって。いい匂いがする!



「おーう、巴ちゃん、迎えが来たよう。」

「巴ちゃん!いるー!?」

「へ?迎えって…え!?シロ君!?鬼灯さん!?」



温蔵庫と言うだけあって、あったかい室内に凍った鼻も溶けて、沢山入ってくる匂いの中に、覚えのある匂いを見つけて嬉しくなった。部屋の奥、囲炉裏の前でちょこんと座ってるのは、間違いなく。



「巴ちゃん!巴ちゃん!!」

「シロさん、落ち着きなさい。」

「アンタ、鬼灯様の知り合いだったんだな。」

「え、あ、はい。え?な、何で八寒に二人が…?」

「先程、貴女の職場に行ってきました。八大の鬼でもキツい八寒に、亡者である貴女が配達に行っていると聞いて、遭難しているのではないかと思いまして。」

「それで探しに来て下さったんですか!?す、すみません!ご心配をおかけしました…!」

「思ったより元気そうでよかったです。」

「あ、はい。体感的には全く問題なかったんですけど、ちょっと迷子になってまして。そこに春一さんが通りかかって、助かりました。」

「八寒でちょっと迷子って死活問題だよね?」

「シロさんの言う通りです。体感の問題じゃないのは、見れば分かることでしょう。」

「亡者ですから、最悪死ぬことはないですよ。」

「ちなみに僕が来た時、片足凍ってたよう。」

「それ氷付け寸前じゃない!?」

「ほんとすみません…。甘く見てました…。今後気をつけます。春一さんも、ご迷惑おかけしました。」



ほとんど土下座の勢いで頭を下げる巴ちゃんの前で、鬼灯様が一瞬、無言になった。いつもの鬼灯様なら、どんな相手でも言い伏せる淡々とした言葉で、ビシッとお説教するんだけど、何となく、言い淀んでるみたいだ。

その横で、春一さんは物珍しそうに二人の様子を見比べてる。そうだよね、俺も正直、雪でも降るんじゃないかってくらい珍しいと思ってるよ!あ、もう降ってた!



「え〜と、お二人はどういったご関係で?」

「…長期裁判待ちの亡者と、その管理者です。」

「あ、思ったより事務的だったよう。何かこう、もっと色っぽい関係な」

「違います違います違います違います。」

「全力否定だね!」

「いや流石に失礼極まりないからね!!」

「…別にそんな冗談くらいは気にしませんが。」

「まあいいや。兎に角、泊まらないんなら、早いとこ帰った方がいいよう。これから天気崩れる予報だから。」

「そうですか。それなら急いで帰りましょう。」

「巴ちゃん、さっき足凍ってたんでしょ?大丈夫?」

「うん、大分元通りになったので大丈夫ですよ。歩けます。」

「健常でも歩きにくい雪道ですよ。おぶっていきましょうか。」

「や、雪道で人を背負って歩く方が危ないですよ。」

「お〜い、クマー。」

「え?」

「何だよ春一。」

「あっ、シロクマだ!」

「春一さんの友達の、ポラリスさんですよ。ここまで運んでくれたんです。さっきはありがとうございました。」

「ああ、迎えが来たのか。良かったな。」

「んで、今から帰るから、もっかい乗っけてってくれよう。」

「おう。」

「いや!歩きますよ!大丈夫ですから!」

「また雪溝に嵌って動けなくなるぞ。アンタ亡者なんだから、しがみついてれば湯たんぽ代わりにもなるだろ。」

「ポラリスさんってイケメンシロクマなんだね!」

「心底そう思います…。」

「これ以上の怪我をされても困りますし、大人しく運んで頂きましょう。よろしくお願いします。ついでに巴さんは、シロさんを抱っこしていて下さい。来がけに鼻が凍っていたので。」

「はい…ごめんねシロ君、鼻はもう大丈夫?」

「大丈夫だよ!それより巴ちゃん撫でて!」

「シロ君も充分イケメンだと思うよね…!」



俺がイケメン!?照れる!でもってやっぱり巴ちゃんのマッサージなでなでが超気持ちいい!ツボを心得てるよね!

シロクマの背中の上ってことも忘れて、撫でられること十数分。あっという間に八寒と八大を繋ぐ扉に戻ってきた。いや〜巴ちゃんが無事に帰れてよかったよかった!何か忘れてる気がするけど!



「んじゃ、礼はさっき話してたアレでいいよう。あの…あれな、ゆるふわ?パンケーキとかいうやつ。」

「とろふわですね。はい、近々必ず。ありがとうございました。」

「何それ美味しそう!」

「動物用に作れたらシロ君とポラリスさんにも作りますね。」

「ありがとうございました、春一さん、ポラリスさん。また八大に遊びに来られた時は、八大案内します。」

「オウ、お二人さんも仲良くなー。」



春一さんて変わってる人だけど、基本いい人だよね!さてと、ルリオと柿助は何処に行ったんだっけ?………あ。



「では巴さん。」

「は、はい。」

「貴女は先に、シロさんと閻魔殿に行って下さい。荷物は私が貴女の会社に預けてきます。」

「…えっ?いや、あたしも行きま」

「先に行っていて下さい。」

「…は、はい…。」



…闇鬼神再びだよおぉ〜…。そっか…忘れてたけど、まだ一つ残ってるんだった、元凶を叩く仕事が…。

巴ちゃんも、鬼灯様のただならぬ様子に生存本能が働いたみたいで、素直に肩掛け鞄を手渡す。それでも、そこは真面目な巴ちゃん。荷物から手を離す前に、果敢にも荒ぶる鬼灯様に物申した。



「あの、鬼灯さん。」

「はい。」

「色々、尻拭いさせてしまって、すみません。ただ、今回のことは、あたしが安請け合いしたせいで、多方面に迷惑をおかけしてしまったので、一緒に謝りに行かせて頂けませんでしょう、かっ!?」



巴ちゃんの言葉が終わると同時に、遂に鬼灯様の手が出た。しかも両手。ばちん!といい音を立てて、鬼灯様の両手は巴ちゃんのほっぺたを挟み込んで引っ張る。

勿論、手加減してたのは判ってたけど、鬼灯様が手加減アリでも女の子に手を上げたのは初めて見た…。かも。



「!?…いっ、いひゃいいひゃいれす!」

「それは良かった。貴女、現世でも幽霊期間が長かったせいで、感覚を無くす方法をしっかり会得してるでしょう。でなきゃ、八寒から無事に戻って来るなんて無理でしたよ。それを解って、貴女が会社の無茶ぶりに応じたのは分かってます。社畜としては優秀ですが、あまり褒められたことではありません。…という話は、充分理解の上、反省しているでしょうからいいのですが、もう一つ反省して下さい。」

「……?」

「貴女が過度な危険に晒されて、シロさん達や春一さん達は心配しました。私はとても不安でした。死んだからといって、そういう風に自分を思いやる相手がいなくなったと思わないで下さい。それは迷惑以上に失礼なことです。あと、尻拭いは責任者の仕事なので気にしないで下さい。今回の斡旋先がこういう体制だったのは、私の調査不足です。この機会に注意を入れられるので寧ろ助かりました。ありがとうございます。」



…鬼灯様、最後の台詞の前半と後半は、分けてよかったと思うんだけどな。巴ちゃん、話に追い付けなくてキョトンとしてるよ?いいの?大事な話だったのに。

でも俺としては、鬼灯様が言っていた、心配と不安の違い、ちょっとだけ解った気がする。さっきお説教しにくそうにしてたわけも。


鬼灯様は、叱るよりも先に、ホッとして、ものすごくホッとして、本っっ当にホッとして、上司としての注意とか、ちょっとどうでもよくなっちゃったんだろうなあ。



「…すみません、鬼灯さん。」

「謝罪は充分聞いたのでもう要りません。」

「…いや、その……すみません、歯が折れたので、吐き出したいです…。」

「…すみません。」



それでもって、ホッとし過ぎて、手加減するのも忘れてたみたい…。

でも、鬼神の怒りが歯の一本で済んだなら、不幸中の幸いだよね!……って思っちゃうあたり、地獄に毒されてるよね!俺!






【心知らずは罪なりと】




「そう言えば、あの後、巴さんの会社の人達はどうなったんだ?」

「鬼灯様が戻って来て、俺達はすぐ帰されたから…結局、どうなったのかは分かんないままなんだよな。」

「かえって色々想像しちゃって怖いね〜。」

「何を想像しているか知りませんが、普通に注意で済ませましたよ。」

「あっ、鬼灯様!」

「先日はありがとうございました。」

「鬼灯様、巴さんはまだ仕事復帰してないんですか?外で見かけませんけど。」

「先日の締め日に退職しました。」

『えっ!?』

「間違えました。退職させました。」

「や、やっぱり潰しちゃったの…?」

「やっぱりって何ですか。潰してませんよ。普通に、契約外の労働を課した事と、管理体制の整備不十分を理由に辞めさせました。彼女は閻魔庁からの正式な派遣扱いですし、世間体もありますからね。」

「…ちなみに、本当のところは?」

「危なっかしいので、目の届く範囲にいてもらいます。」

「ですよね!」

「それって囲…」

「巴さんなら食堂で待ってますよ。例のパンケーキでしょう。」

「わーい!とろふわパンケーキー!!」

「あっ、コラ!閻魔殿内で走るな!!」

「あいつさっきまで散々仕事で骨かじってたくせに!」

「ごゆっくり。」






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