「巴さん…。」



涙に濡れた瞳と再び視線がかち合って、ふと気付く。ああ、そう言えば、ランボ君の目の色も黄緑だった、ような…。

そう思った瞬間、唐突にボフン!という音がしたかと思うと、目の前が真っ白になった。……うん!?煙!?



「、っ…!」

「うわああぁあぁ!」

「!?」



煙を吸い込まないように、反射的に口を抑えてみたけれど、本当に押さえるべきは耳だったらしい。

白い煙を吹き飛ばさんばかりの泣き声が響いて、うっすら見えてきたのは、なんとランボ君。その時にはもう、背中に回っていた腕も感覚も、のしかかられていた胸の圧迫も、いつの間にやらなくなっていて、あるのはお腹の上にちょこんとまたがるランボ君の、ほんのささやかな体重のみ。

い…一体今、何が…。まさかさっきの伊達お兄さんは錯覚?実はあたし、倒れた時に頭打ってた?え?あれ?

何故か泣きわめいているランボ君に抱きつかれたまま、ステータス混乱状態になること数十秒、ガチャ、と玄関を開ける音がして、ハッと振り返れば、そこには──いつもと変わらぬ母さんの姿が。…な、なんか脱力…。



「あら!ツナったら、またケンカさせちゃったの?」

「母さん…今、誰か出ていかなかった?」

「え?誰もいなかったけど?もう、こら、ツナ!!仲裁に入ってって言ったでしょ。」



…やっぱり錯覚だったんだろうか…。とりあえず母さんにランボ君をパスしてから、改めて状況を考えてみる。後頭部にたんこぶは出来てないようだけど…服に香水の残り香があるんだよね、これが。なんか…海外系の爽やか甘いイケメン香水っぽい香りが…。



「これが幻覚ならぬ幻臭…?いやでも…わっ!?」



またまた唐突に聞こえてきた爆発音に、思わず肩が跳ね上がる。いくら慣れたと言っても、流石に至近距離は心臓に悪いなあ…!本日何度目かも分からない物騒な音に、リビングの扉をそっと開けると、何食わぬ顔で昼食を食べるリボーンに、何か見なかった振りをしている母さん、窓辺に視線をやって青ざめているツナが…ああ、ツナ無事だったのか。



「…ねえツナ。」

「あ、巴…。そ、そういやさっき階段で凄い音したけど、どうしたんだ?」

「凄い音って…今の爆発音の方が凄いと思うよ…。」

「うん…だよな…。」

「それより今、黒髪の男の人いなかった?さっき階段の辺りでぶつかったんだけど、いきなり泣き出して…急に消えたかと思ったら、ランボ君がいて…。」

「あー…それ、十年後のランボらしい…。」

「は?」

「あいつ、十年バズーカとかいうの持っててさ、何かそれに撃たれると、五分間だけ十年後の自分と入れ代われる、って…。」

「え?十年後?さっきの伊達兄さんが?十年後のランボ君?え?」

「本人にはそう説明されたけど…」

「ほ、ほお…。」



微妙な顔で説明をするツナに、あたしもまた微妙な相槌を打つ。普通なら、そんなの有り得ない話だと一蹴する様な内容なんだけれど、実際に実物を見てしまっているし、何よりリボーンと死ぬ気弾を目の当たりにした後だと…もうね。どんなに不思議な出来事も、有り得ない話じゃないのだ。

そして正直そこよりも、人は十年であれだけ変わるのか、ということの方に驚いている。ぬいぐるみのようなあのランボ君が、あのイケメンに…人の成長の方が余程摩訶不思議じゃないか。



「うわああぁあぁ!」

「また来たよアイツ…。」



疲れたげなツナの視線を追って振り返れば、そこには母さんに連れられてリビングに入っていった筈のランボ君が、ミディアム手前まで焦げかけてそこにいた。…ああ、さっきの爆発はこれか。戻ってくる辺り、めげないなあランボ君。

例の如くこちらに向かって一直線、今度はあたしの足にしがみついてきた彼を、とりあえず抱き上げてまじまじと見つめた。うん、思ったより怪我はしてなさそう。



「……うーん…。」



十年バズーカか…まだ信じきれないところはあるけれど、確かにあのイケメン兄さんとランボ君、似ているところは多いような気がする。質感は変われど癖の強い黒髪とか、泣き方とか、泣き出し方とか。十年経って容姿がガラリと変わっても、どうやら泣き虫なところは変わらないらしい。後は、涙に濡れるその綺麗な瞳の黄緑色も。



ふと思いつき、先程のイケメン兄さんにしたのと同じく、そのフワフワの頭を数度撫でてみる。すると、驚くことにというか、やっぱりというか、


ランボ君は、先程の伊達兄さんと同じように、ぴたりと泣き止んでしまうから、ちょっと笑ってしまった。







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