並中では、そろそろテストの時期が近づいてきました。

テストと言えば、そう、一応表向きは普通の家庭教師でもあるリボーンの腕の見せどころです。お陰様で、隣のツナの部屋から聞こえてくるのはいつものゲーム音ではなく、かと言って普通に勉強をしているとは到底思えない爆破音が頻繁に聞こえてきます。…あたしも真面目にテスト勉強しよう…。

と思った矢先、学校にワークを忘れていたことに気付いて、慌てて取りに家を出た。
途中、買い物帰りの獄寺君に会い、ツナが今、リボーンと命懸けで勉強している旨を話し、バッティングセンターの横を通ったら、ジャージ姿の山本君を見つけてパック牛乳を一口貰った。…うん、二人ともテスト前だけど大丈夫?

しかし、今は人の心配してる場合じゃない。恐怖の鬼家庭教師の矛先が、ツナからこちらに向く前に、ある程度終わらせておかないと。さあ、出鼻は挫いたものの、今度こそ勉強だ!

と、意気込んで玄関の扉を開けた、そこには、



…牛の子が居た。






【泣き虫ランボ】






「…ツナ、その子どうしたの?」

「ああっ!巴!ナイスタイミング!」



帰ってきて早々、あたしの目の前に居たのは、さっきまでリボーンと爆発テスト勉強をしていた筈のツナ。…と、その足に力一杯しがみつく牛の子が。

…ん?ああよく見たらちっちゃい男の子だ。全身繋ぎの服の模様が牛柄なのか…。見るからに変わった子だなあ。…頭に角生えてるぞ…。



「コイツさ、リボーンを殺しに来たとか何とか言ってるんだけど、全然リボーンに相手にされなくて…。しかも逆にやられて泣いてるんだよ。俺、テスト勉強あるからさ、ちょっとコイツ連れ出してくれない?」

「殺…え、うん?いや、あたしもテスト勉強しなきゃなんたけど。」

「俺より成績いいだろ!巴の方が子どもに好かれるし…ほら!お前あっちならいいから!」

「そんな勝手な…」



面倒事は進んでやるのが友達作りの第一歩なんだよ、と言いかけたところで、チラリとこちらを窺ったその子と目が合ってしまった。あ、すごい、この子の瞳の色、薄い黄緑色…。

思いの外、綺麗なそれに目を奪われて、その場にしゃがみ込んで視線を合わせてみる。
…全身牛柄の服に、もっこもこの黒髪、色白。丸々としたほっぺは少しだけリボーンに似ていて、けど赤ん坊ってくらい小さくは見えないから…多分四、五歳くらいかなあ。



「君、名前は?」

「…ランボ。」

「ランボ君かあ、リボーンと同じでイタリアの子かな?あたしは巴と言います。よろしくね。」

「…巴。」



おっと、こちらにも手を伸ばしてきたぞ。服の裾を掴まれたぞ。…そしてツナの足も放さないぞー。



「ちょっ、俺は放せよ!なんで!?」

「はは、よかったねツナ。珍しく懐かれたよ。」

「いいわけないだろ!あーもう!」

「もう諦めて休憩ついでに散歩でもしようよ。ランボ君、一緒に河川敷でも行こうか。」

「お前達だけで行けって!足!放せー!」











近所の河川敷は、まだ昼前だからか人の姿があまりない。静かで、涼しくて、思わず昼寝に洒落込みたくなる陽気だ。天気もいいしね…山本君が『こんな天気の日に家に籠もってらんないだろ』と言ってた気持ちがよく分かる…。



「無理矢理連れてきといて寝るなよな。」

「ああごめん。」



いけないいけない、本当に寝てしまう前に、横で未だぐずっている牛の子…ランボを泣き止ませなきゃ。

何か気を紛らわせるようなものはないかなーと、当てもなくポケットを探っていると、同じ事を考えていたらしいツナが、同じく探っていたポケットから飴玉を一粒取り出し、そのまま彼に差し出した。



「ほら。」

「……。」



ツナが子どもをあやしてるって不思議な光景だなあ…。そうして暫くの間、コロコロと飴玉を舐める音を聞きながら、泣き止むのを待っていると、ふいにランボ君が口を開く。



「ラ…ランボの夢はボヴィーノファミリーのボスになって…グス…全人類をひざまずかせること…」

「………へえ〜…、そうなんだ〜。」



なかなか物騒な夢をお持ちで…と言うか、ファミリーという言葉を使ったってことは、まさか、この子もどこかのマフィア…?

こんな小さい子が?と、一瞬頭をよぎったけれど、もっと小さい子であるリボーンが既にマフィアで殺し屋だから…ねえ…。



「でもそーなるには、超一流のヒットマン・リボーンを倒せってボスにいわれた…」

「あ、やっぱりリボーンって一流なんだね。」

「そーいやお前、本当にリボーンと会ったことあんのか?」

「ある!はじめてボスにバーにつれていってもらった時、あいつがカウンターにすわってたんだ。ランボは大好物のブドウを食べながら…リボーンは鼻でガムをふくらませてた。」



思わずツナと目を合わせて、どちらともなく一つ頷く。うん、それは寝てますね。

何だかんだ言っても、リボーンまだ赤ちゃんだから、しょっちゅうその辺で寝るしなあ…。そういえば、先日いつの間にかあたしの部屋で寝てたのには驚いた。リボーン、目開けたまんま寝るし…。

まあとりあえず、ランボ君は泣き止んだようだ。さっさと帰りたいらしいツナが、そそくさと立ち上がり、あたしとランボ君はそれを目で追う。



「さ…さーって、泣き止んだし、俺帰るわ。もーメシだし…い!?」

「あ、ランボ君またしがみついた。」

「あ、じゃないよ!!はなせってー!!」



賢くも置いて行かれると悟ったのか、再びツナの足に全身でしがみついたランボ君は、もさもさの髪を引っ張られようが微動だにしない。と言うか髪を引っ張っちゃ駄目でしょ、ツナ。折角好かれてるのに。



「おいで、ランボ君。うちでお昼ご飯食べてから帰ればいいよ。」

「なんで勝手に昼飯一緒に食うことになってんの!?」

「いや、お昼時でお腹空いてるだろうし。ただリボーンも一緒だからね、ちょっかい出すと多分返り討ちだよ。大人しくしてようね。」



脅すつもりはなかったけれど、一瞬にして顔が強張ったランボ君。リボーン…この無垢なちびっ子に一体何をしたの…。ああ、リボーンの方がちびっ子だった。ややこしいな。









「いいじゃない、大勢の方が賑やかで。」

「……。」

「……。」

「……。」



明るい母さんの声に対して、不服そうなツナ、強張るランボ君、多分平常心のリボーンの、三人の無言が囲む昼食の席は不安しかない。ちなみにお昼はパスタでした。あたしの分は、連れて帰った責任を持って、ランボ君に回されてます。ご飯食べると眠たくなるし、丁度いいや。

と言うわけで、母さんもいるからまあいいかと、とりあえず玄関に投げっ放しだったワークを拾って二階に上がる。なんかドッと疲れたなあ…。



「…それにしても…。」



さっきランボ君の話が本当なら、リボーン然り、あんな小さい頃から、マフィアなんて言う物騒な関わりがあるなんてなあ…一体どういう経緯で…やっぱり血筋とか家業的なものなんだろうか。そう言えば、獄寺君もなんでマフィアになったんだろう?いずれ聞かなきゃいけないことだとは思うけど、まだそんな深い所に突っ込めるような仲じゃないし…。

無意識に溜め息を一つ、今後益々マフィアについて掘り下げていかなきゃいけない予感をひしひしと感じながら、とりあえず今はテストのことだけ考えようと、現実逃避気味に気持ちを切り替えた、その時。



「う、わ?」



足裏に伝わる振動が早いか、耳に飛び込む爆発音が早いか。

兎に角、普通の一軒家では有り得ない何かが、一階で起こったらしい。家の中に篭もるような揺れの余波を、部屋に干していた洗濯物で感じながら、下に戻りたくないなあ…と、薄情なことを考える。

これが学校でなら、ほぼ間違い無く獄寺君のダイナマイトが火を噴いた結果なので、慌てて(対先生フォローの為に)駆けつけるだろうけど、家でこういう音がした場合は、リボーンの教育的指導の一貫だから、口出ししたところで無駄なんだよね…。さっき冒頭でツナの部屋から聞こえてきた爆発音の方が激しかったし…ああでも駄目だ、今はランボ君もいるんだった。気は乗らないけど、行くかあ。

んー…?あれ、待てよ。よく考えたら、リボーンはご飯中はいつも静かにしてるよね?とすると、まさか今の…ランボ君だったり…?いや、あり得ないとは思うけど、話を聞く分には一応リボーン殺しが目的らしいし、自称マフィアだし、何かちょっかいでも出しちゃったんだろうか?にしてもこの音…少なくともおもちゃの音じゃないよね。

結局のところは、行ってみなくちゃ分からないかと、腹を括って階段を降りる。で、この時点で既に、ツナの取り乱したツッコミが聞こえてきてるんだなあ、これが。元気そうで何よりだよ。



「なっ!ありえねーっ!!」

「死ねリボーン!!電撃角!!!」



そして白熱しているなあ。最後の一段を降りたくなくなりました。でもまあ、ここまで来たなら行くしか……、ん?



「!」

「うわぁああ!!!」

「っ、えっ!?」



意を決して動かした最後の一歩は、床を踏みしめることなく宙を舞う。ついでに体も一瞬浮いた。何故かって、すごいタイミングで胴体ごと持っていかられたからです。リビングから飛び出してきた、誰かによって。

勢い余って壁まで押し潰されるかと思いきや、こっちの足が滑って見事背中から床に着地。うぐっ…受け身取り切れなかった、…っていうか上に乗っかられてて重い!!胸が圧迫されて息が…!!



「ちょ…ツナ!?どいて…」



体格からして絶対にリボーンやランボ君ではないから、間違いなくツナだと思って投げかけた文句は、視界の端に入った黒い癖っ毛を見て止まる。

…………おや?



「…巴さん…?」



見知らぬ声が自分の名前を呼んで、首の辺りにうずまっていた頭が持ち上がった。
そうして身動きが取れるようになってようやく、自分の上にのしかかっている人物と目が合う。

癖毛の黒髪に、アンニュイに垂れた眉。何故か涙を湛えている瞳は、透明度の高い黄緑色で…総合して言えば(体勢の都合で顔しか見えないけど)、何と言うか…伊達なお兄さんだ。ピントが合わない程に近いけど、纏う雰囲気がイケメンであることをはっきりと物語っている。
いやいや、それどころじゃない。何でそんなイケメンの知らないお兄さんがあたしにぶつかってきてるんでしょうか。それ以前に、いつの間に家の中に?



「あの…どちら様で…?」



何とも言えない体勢で、どうすることも出来ずに、見つめ合ったまま訊ねてみると、目の前の名前も知らない伊達兄さんは、突然くしゃっと顔を歪めた。えっ。



「う…っうわぁああ!巴さんーっ!!」

「えぇええ!!?」



やっと半身の自由が戻った!と喜んだのもほんの束の間。こともあろうか伊達兄さん、いきなり泣き出したかと思いきや、なんと力いっぱい抱きついてきた。おかげであたしは再び床に背中を打つ。

ええええ何この状況ほんとに貴方は一体誰なんですかっていうかこんなイケメンさんに抱きつかれるとか流石に平常心たもっていられないんですけどうわ何かすごい素敵な香りがするしええええ!!?

パニックになる自分をどうにか落ち着けようと、一人脳内で奮闘する最中も、伊達兄さんは泣き続けている。これが一向に泣き止まない。イケメンの大号泣というのは、なかなか異様なものがあったけど、驚きを通り越して余程清々しく思えてきたぞ…。



「あの…」



…何だかまるでランボ君みたいだ。そう思ってしまったせいか、二の句を続けるより先に、あたしは彼の黒い髪に手を伸ばしていた。

同じ癖っ毛でも、あたしやツナとは違う艶々サラサラのこの髪よ…。羨ましいなあ…。異様な状況を忘れてそんなことを考えていると、不意に伊達兄さんの泣き声が止まる。






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