「…ただいま。」
「巴!!?」
顔が赤いのをつっこまれたらいやだなあ、とか思いながら玄関を開けると、中からはあたしより数倍顔の赤いツナがバタバタとやってきた。…え?
「良かった!助かった!手伝って!!」
「え、何、どうしたの?」
グイグイと腕を引かれるままにリビングに入る。と、そこには大変な有様が広がっていた。
壁に、机に、冷蔵庫…ありとあらゆる家具が、どうやったのってくらいボッコボコに破壊され、床には気絶した母さんと………え?
「…京子ちゃん?」
呟いた先には、バスタオルをかけられて床に突っ伏す女の子の姿が。寝てるみたいだけど…間違いない、この子はツナの想い人・同級生の笹川京子ちゃんだ。
でも……何故下着姿?
「…まさかと思うけど、ツナ…」
「俺はなんもしてないよ!!!やったのはリボーンだから!」
ええ?リボーン?
言われて近くの椅子に優雅に座っていたリボーンを見ると、彼は事も無げに応える。
「外で京子に会って、助けられてな。家に誘ったんだ。暇だからロシアンルーレットでもしようかと思ったら、間違って死ぬ気弾装填してな。」
「はい!?じゃあまさか京子ちゃん…自分で死ぬ気弾撃っちゃったってこと!?」
「そーいうわけだ。」
「そーいうわけだじゃないよ!!兎に角、巴!京子ちゃんに服着せてあげて!」
ああ…そのせいで顔が赤いのね、ツナ…。死ぬ気弾のあの仕様はどうにかならないものかな…服が脱げるやつ…。
それにしても、ツナ以外に死ぬ気弾を打たれた人を見たのは初めてだ。無事で良かったよ、京子ちゃん…というか。
「とりあえず服は着せるとして…京子ちゃんは何を後悔してたの?」
そうだ、死ぬ気弾を受けて死んでないってことは、今までのツナと同じく、何かしらの後悔があった筈だ。一体どんな後悔がこの破壊に繋がったのか、普段の京子ちゃんからは全く想像がつかない。
「ああ、それはママンが京子をツナの彼女だと勘違いしたのを撤回させようとして…」
「うわー!!!改めて言うなー!!バカー!!」
「ああ…成る程。母さんなら言いそうだね。ほらツナ、泣いてないで京子ちゃんが起きる前に部屋片づけなきゃ。当たり前のことなんだから、ドンマイドンマイ。」
「お前もサラッと酷いこと言うなよ!!!」
そんなこんなで…喚くツナを動かし、何とか部屋も片づいて、目が覚めた京子ちゃんを何事もなかったかのように送り出してから、あたし達はまだうなされている母さんをそっとしておいて夕食を食べた。
未だにツナはウジウジと半泣き状態。そんなに嫌われたくないならちょっとはイイ男になるために努力しろ!と言ってやりたいけれど、今日はもう不憫だから止めておこう。…何か今日、不憫だからという言葉を何度も使ってる気がするなあ。
そう思ったところで、今日の獄寺君の事を思い出した。うーん…参考になるかは分からないけど、同性のツナにも意見を聞いてみよう。
「ねえ、ツナ。女子に呼び捨てで呼んでいいって言われたら、ツナどうする?」
「は?何いきなり…。」
「まあいいからいいから。」
「どうするってそりゃ…呼び捨てで呼ぶけど。」
…だよねぇ。何故獄寺君はあんなに言いにくそうにする?あたしに何か問題があるのかも…
「あ、でも。」
「ん?」
「京子ちゃんに言われたら無理かな…。」
「何で?」
「いやほら…好きな人の名前呼び捨てとか照れるじゃん…。」
「あー…」
「まあツナの場合、呼び捨てとか言ってる場合じゃないよな。」
「うるさいよリボーン!!」
再び泣き出すツナを視界の端に、あたしはぼんやり考える。
ああ、成る程、好きな人には確かに言いにくいね。
うん、成る程ねー…好きな人ねー…。
………んー…?
「で、それがどうかしたのか?」
「……うーん…多分違うと思う。」
「違うって何が?」
「ねえ、まさかねえ。」
「まさかって…何が!?」
「ごちそうさまでした。」
「おい!!何なんだよそれ!」
多分、自分に関係する話だと誤解しているツナをスルーして、あたしは食器を片づけようと立ち上がる。
途端にふわりと服から流れたのは、ほんのり煙草の移り香。今ではすぐに判る、獄寺君の香り。
「…まさかねえ。」
さて、食器を洗いながら、今聞いたことも流してしまうことにしよう、そうしよう。