*唐瓜





「ほ、鬼灯様…おはようございます…。」

「唐瓜さん、茄子さん、おはようございます。」

「あれ?鬼灯様、今日機嫌悪そうですね。」

「おい茄子!!」

「ああ…そうですかね、少し寝不足なもので、そう見えるのかもしれません。」

「なるほどー。ちょっとどころじゃなく声かけ辛い人相してたので、何があったのかと思いました。」

「お前いい加減失礼だって!鬼灯様すみません!お疲れ様です!」

「いえ、お疲れ様です。」






「今日の鬼灯様、変だったなあ。」

「まあ…それは俺も思ってたけど、お前本人の前でストレートに言うなよ。」

「でも何だろう?白澤様にでも会ったのかな?それだったら口に出しそうなのに。」

「鬼灯様はストレスはすぐ外に出して溜めとかないタイプからなあ…。」



でも、あれは間違い無くこれから二、三人殺して来ますって凶相だった…。閻魔大王がいやに黙々と仕事してたから、朝からあの調子なんだろうな。理由は何だか分からないけど、今日は触らぬ鬼神に祟り無しってことで…。

そんな事をこそこそ話しながら、閻魔殿内での仕事を終えた俺達は、昼食を食べに食堂に向かう。勿論、裁きの間は通らないように、少し回り道をして。



「…ん?」

「どうかした、唐瓜。」

「何か、声が聞こえないか?」

「へ?そう?」

「女の子の笑い声みたいな……あ、座敷童子かな。」



俺達が選んだ道は、建物の外に出て、閻魔殿の壁を沿っていくルート。最終的に裏庭を通って行く訳なんだけど…今日はあの二人、裏庭で遊んでるのか。

鬼灯様が現世から連れてきた双子の座敷童子は、今やすっかり閻魔殿に居着いて、自由にのびのび暮らしている。時々なんかよく分からない遊びをしているが、家というには広すぎるこの家と鬼灯様を気に入ったらしく、今のところ出て行く気配は微塵もない。寧ろ尚一層、鬼灯様に似てきている。まあでも…女の子ならまだいいって言うか…将来有望って言うか…。

あ、いや、それは置いといて!今日はなんの遊びをしてるのかなーと、一応建物の影からそっと窺ってみる。すると、



「あははは」

「あははは」

「うわー完全に急所狙い。」

「…………。」

「あ、巴ちゃんだ。」



…や、確かに閻魔殿の裏庭に巴ちゃんが──長期裁判保留中でメッセンジャーとして働いている彼女が、此処にいるのはおかしいけど……それよりもっとおかしいだろこの光景!
具体的に言うと座敷童子二人が拷問用具持って女の子を追いかけ回してるって光景の方がおかしくない!?なに!?新しい地獄設立!?試験運用中!?



「あ、茄子さんに唐瓜さん?」

「巴ちゃんやっほー。何してんの?」

「座敷童子さん達と鬼ごっこを。」

「獄卒ごっこ。」

「当たったら負け。」



ブンブンと金棒やらトゲ付き鉄球やらを振り回しながら、いつも通りの無表情で淡々と説明する二人の姿に、鬼灯様が被る。やっぱり傍目で親子だ…。
それは兎も角、大体に追う方が二人で逃げる方が一人って遊びとしてどうなんだ…。そんなドン引きの俺に対して、巴ちゃんはケロッとしたもんだが。

あ、ちなみに巴ちゃんは、さっきも言った通り、まだ裁判の終わっていない亡者で、裁判再開までこうして地獄で働いているらしい。職業柄あちこち走り回っているのを見かけるから、知り合いというか、顔馴染みというか。もう地獄の住民として違和感が無くて、いつかこの子を呵責する日がくるかもしれないと思うと、ちょっと気が重くなるくらいだ。…まあ、今から考えたって仕方がない事なんだけど。



「こんにちは、巴ちゃん。今日はお休み?っていうか、座敷童子と知り合いだったんだ。」

「はい、先日から友達になりまして。許可を貰って時々遊びに来てます。」

「そっか。良かったな二人とも、女の子の友達できて。」

「うん。」

「子どもと遊ぶの久し振り。」

「座敷童子判定だと巴ちゃんって子どもなんだなー。」

「地獄基準だと賽の河原行きじゃないから、子どもじゃないんだろうけどな。」

「巴、お腹空いた。」

「もう昼餉の時間。」

「あ、もうそんな時間でしたか。唐瓜さん達もこれからお昼休みです?」

「うん、そうだよ。」

「じゃあ途中まで一緒に行ってもいいですか?」

「途中まで?巴ちゃんは一緒に食べないの?」

「あたしが頂いた許可は一緒に遊ぶ事だけだったので。あと、今日は別件もあって来たんです。」

「?」



曖昧に笑った巴ちゃんは、ごく自然に座敷童子二人を片腕ずつ抱き上げて、行きましょうか、と歩き出す。

…なんて言うか…仕事としてる時以外の巴ちゃんに会ったのって今日が初めてだけど…この子は座敷童子よりも俺達よりもかなり年下なんだけど、



「超お母さんっぽい。」

「だよな。賽の河原行きにならなかった理由がちょっと分かった気がする…。」

「おかーさーん。」

「ママン。」

「凄い懐かしい!え!?なんでその単語知ってるんですか!?」






「巴ちゃん、中入らないの?」

「いやー部外者ですし、ここで大丈夫です。一子さん、二子さん、ごゆっくり。」

「うん。」

「またね。」



律儀にも食堂の中には入らず、入口で立ち止まった巴ちゃんを置いていくのは忍びなかったけど、本人がやんわり断るのだから仕方がない。

お膳をとって席に着き、ちらっと入り口に目を向ければ、彼女はまだそこにいるようだった。結局、別件って何なんだろ。誰かを待っているんだろうか。



「鬼灯様かな、管轄みたいだし。」

「じゃあ、今日鬼灯様の機嫌が悪かったのって、巴ちゃんのせい?」

「巴ちゃんがそんな事するように見えるか?鬼灯様を怒らせといて閻魔殿内で遊ぶってどんな度胸の持ち主だよ…。」

「見えないけどさ、無自覚の方が苛つかせることだってあるじゃん。」

「それお前が言うか…。」

「あ、ハゲィさんだ。」

「ん?ああ、ほんとだ。」



入り口の方を正面に座っていた茄子の目線につられて振り返れば、確かにそこには書記課主任のハゲィさんこと葉鶏頭さんの姿があった。やたら良い姿勢に真顔で話す様子は、いつも通りの真面目そのもの……って、あれ?



「ハゲィさんが話してるのって、巴ちゃん?」

「あ、ほんとだ。待ってたのってハゲィさんかー。」

「巴ちゃん、ハゲィさんと知り合いだったんだな。」



まあ、一獄卒の俺達ですら顔も名前も覚えてるんだし、主任となれば文の用事も多いだろうから知り合って当然だよな。

思いながら、そのまま様子を窺っていると、二人は何か二、三言かわし、やっぱりハゲィさんだけ食堂に入ってくる。が、巴ちゃんはまだ入り口に立ったままだ。あれ?今話したので用事が済んだわけじゃないのか。



「ハゲィさん、弁当頼んでるや。」

「弁当?またカマーさんに持ってってあげるのかな。…あ、もしかして、巴ちゃんに届けてもらう為に?」

「あー成る程。運べる物なら大体何でもいけるって言ってたもんな。」



一応、職種としてはメッセンジャー扱いだけど、色々手広くやってるとこだって言ってたな。…若干ブラックな香りがするのは気のせいか…や、でも、一応閻魔庁からの斡旋だし、うん、大丈夫な筈。…多分。

不穏な想像を追い払う為に、弁当を受け取ったハゲィさんに集中する。ハゲィさんは予想通り真っ直ぐ巴ちゃんの元に戻った。弁当を手渡された巴ちゃんはと言うと、すげー嬉しそうに何度も何度もお辞儀をしている。荷物を預かるにしちゃ恐縮し過ぎなくらいに。

よく見ると、ハゲィさんの方もちょっと違和感があった。巴ちゃんのとこの荷受けって普通、荷物を手渡したあとサインをして終わりなんだけど、話が長いというか…そして度々食堂の中を振り返る様子が、巴ちゃんを中に促してるように見えるのは俺だけ?

と、疑問に思ったとほぼ同時に、突然二人の周りが暗く陰った。あ、この陰り方。



「あれ?葉鶏頭君に巴ちゃん、何してるの?」

「閻魔大王、お疲れ様です。」

「あっ、入り口塞いじゃってすみません。どうぞどうぞ。」

「巴ちゃんもお弁当持ってこれからご飯?良かったら一緒に食べようよ。」

「ほら、閻魔大王もいいと仰っている。」

「えええ、いや、あたし部外者ですよ?まずくないですか?」

「大丈夫だよ、元々巴ちゃんは閻魔庁から派遣に出したようなものだしね。…っていうか、本当に都合が悪くなければ切実に一緒に食べて欲しいんだけど…駄目かな…。」

「い、いえ、閻魔庁さえ良ければ大丈夫です、けど…な、何故また…?」

「うん…これから分かるかもしれないし分からないかもしれない…。」

「???」

「あっ、別に巴ちゃんは気にしなくて大丈夫だからさ!ま、まあほら中に入った入った!」

「??お、お邪魔します…?」



二人分の陰を余裕で作る巨漢は閻魔大王くらいだよな。と思っている内に、二人の間に入った大王は、巴ちゃんの背中を押しながら食堂に入って来た。それに続いたハゲィさん合わせて三人は、座敷童子の座っていたテーブル─つまり俺達のいたテーブルに腰を下ろす。



「巴ちゃんおかえり〜。」

「おかえり。」

「おかえり。」

「すみません、結局お邪魔することになりました。」

「閻魔大王、ハゲィさん、お疲れ様です。」

「お疲れ様、お邪魔するね〜。」

「お疲れ。巴さん、食事をとって来るので、すまないが席をとっておいて下さい。」

「はい、分かりました。」

「俺達が席とっておくから、巴ちゃんも行ってきなよ。」

「あたしは大丈夫なんですよ。葉鶏頭さんにお弁当頂いたので。」

「え?じゃあその弁当って、カマーさんのじゃなくて巴ちゃんのだったの?」

「カマーさん?あーもしかして届け物だと思いましたか?」

「うん。」



茄子と話しながら弁当を広げる巴ちゃんは、詰めてもらったばかりのそれににっこり笑顔だ。カマーさんのじゃないってことは、これはハゲィさんから巴ちゃんに…ってこと、なんだよな?なんでまた…





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