「何かおかしいと思ったら、巴ちゃんもなかなかやるねえ。」

「??はい?」

「あ、悪い意味じゃなくて褒めてるんだよ。ちょっと不思議なコだなあとは思ってたけど、スゴイスゴイ。」

「???」

「これでやっと閻魔大王の望み通り、そこの鬼神も丸くなるんじゃない?いやーよかったよかった。」

「……。」

「まあ、成就しなかったらしなかったで見物だから、巴ちゃん、嫌なら嫌って言うんだよ?コイツ腐っても官吏だし、無理矢理な事は出来ない筈だから…ってオイがぼぼ!!?」

「下戸は下戸らしく潰れてろ。」

「!?ぎゃー!!二日酔い相手に日本酒強制一気!?」

「あばばばば」

「しかもそのまま大回転!?補佐官さん!!白澤さん死んじゃいますよー!!?」

「これに人間の生死観は通じませんからご心配なく。さあ、さっさと戻りますよ。」

「そしてそのまま放置!?えっ?本気で放置ですか!?」



手近にあった酒瓶を取り上げ、白澤様の口に直に注いで、スイカ割りの如く肩を掴んでその場でグルグル回した鬼灯さんは、顔を土気色に染めた相手なんてもう目もくれず、俺と同じくツッコミにツッコミまくっていた巴さんの手を引き歩き出す。

おおおいマジで放置!?や、このまま居られても白澤様が引き続きいびられるだけだけど!

今日も今日とて当たりがキツいな…っていうか、この悪化しまくった二日酔いを看病するのは結局俺なわけで…。仕方無い、もはや鬼灯さんの人災も二日酔いダウンもいつものことなんだし、ここは俺が割り切って……ん?



「……あ゛〜…くくくっ…ザマーミロ…オェ…」

「あれ、まだ意識ありました?ここで吐かないで下さいよ。起きてるなら厠まで…」

「見た?桃タロー君、アイツの動揺した顔さァ、ぅえっぷ…」

「ああもう無理に余裕こいて喋らないで下さい!後で聞きますから!」

「えー…桃タロー君だって気になってたじゃん。あれの挙動がおかしかったの。」

「それはまあ…そうですけど。」

「やっぱ解ってなかった?じゃあヒント。」



あれ、と指を差した白澤様は殺人事件の被害者の如く、ばったりと床に伏したままピクリとも動かなくなった。…寝ゲロしませんように…。

それにしても、何だって?鬼灯さんの挙動がおかしかった理由のヒント?結局俺には何一つ訳の分からないまま、彼は現れて去っていったわけだけど、…考えてみれば、あの傍若無人な態度はいつも通りっちゃいつも通りなんだよな。イレギュラーなのは巴さんが居たことだけであって……巴さん?




「それが、巴ちゃん。」




白澤様の指が差す先には、たった今、鬼灯さんに無理矢理煽らされて空になった日本酒の瓶があった。

後ろ向きになっていたそれを、そっと持ち上げてくるりと回す。こちらを向いたラベルの正面には、これでもかと言わんばかりの力強さで書かれた銘柄が。その名も、鬼ごろし。



「………。」



最初に頭に浮かんだのは、あの温厚な巴さんが刀を構えて笑顔満面で鬼達を追いかける姿──…いや無い。これは絶対無い。そんな事になってたら、裁判が終わってない彼女が自由に動き回れる筈がないし、何より有り得ないのは、彼女の性格的に絶対無いって事。寧ろ逆ならまだ分かる。鬼をも和ます良い意味でのマイペースさは、時々街中で見かける限り、色んな鬼達と自然な感じで仲良くしていたから。

まあそういう意味で言えばあれか、鬼ごろしだよなあ。この間見かけた時はメッチャ強面の何か目がいっぱいある鬼と超和やかに会話してたし…って、あれ?え?鬼ごろし…鬼ごろし、って。



「………ええええ!?ええ!?いや無い!無いだろそれは!!」

「う〜…桃タロー君うるさ、……頭に響く〜…。」

「いやちょっ…待って下さいよマジで!!有り得ないでしょ!!だってあの鬼灯さんですよ!?あの鬼灯さんが、巴さんに、ほ、惚っ…」

「っ…オエエェ…」

「ぎゃあっ!?コラ!結局ここで吐くんかい!!」





─ああでも、そういえば、巴さんを引っ張って去っていった鬼灯さんの大きい手は、確かに彼女の小さな手を、妙にぎこちなく包んでいたいたかもしれない。


……次、鬼灯さんに会う時、どんな顔して向かい合えばいいんだ、俺。










「ええと、補佐官さん。」

「はい、何ですか。」

「白澤さんの無事は桃太郎さんに任せるとして置いておきますが…補佐官さん、天国にもお知り合いがいらっしゃったんですね。」

「ええ、裁判で地獄行きか天国行きかを決めるので。しかも管轄外だというのにあれこれ面倒事が舞い込んで来ますし…。」

「あー…お疲れ様です。」

「ありがとうございます。巴さんこそ、休みはきちんと休んだ方がいいですよ。誘い出した私が言えることではないですが。」

「いえいえ、楽しみがあると仕事にやる気出ますから、ありがたかったです。」

「…それは、こちらこそ。」

「それにあたし、休みって言っても寝てるだけなので、お仕事残ってると気になるんですよねえ。ちゃんと終わらせればいい話なんですが。」

「まあ、それは私もしょっちゅうですよ。仕事に出てる方が多いですし。」

「補佐官さんは端から見ても激務なので、きっちり休んだ方がいいと思いますが…。迎えに来させた自分が言えないですけど。」

「それはもう気にしないで下さい。私が好きで来たんです。」

「ありがとうございます。えー…それでですね、」

「はい?」

「手は離して貰った方がいいですよね?周りからすごい見られてますが…。」

「…他人の目というのは、時々潰して回りたくなるくらい鬱陶しいものですね。」

「さっき白澤さんに目潰し未遂しましたよね!?冗談ですよね!?」






【よもや克く在る与太話】





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