死ぬ気弾、というものがボンゴレにはあるらしい。
それを額に撃つ(というか撃たれる)と、弾を受けた人間は、死ぬ寸前に後悔したことがある場合、死ぬ気状態になって蘇り、その後悔していた事をそれこそ死ぬ気でやり遂げようとするとか。
そして蘇り時には復活的アクションからか、パンイチ必須という嫌なオプション付き。
それを、最近ツナが撃たれまくってます。
【死ぬ気弾使用不可能】
最近、双子の兄・綱吉の校内知名度がやたらと上がった。
理由はまあ、リボーンがツナをマフィアのボスにする為の特訓(?)に死ぬ気弾を撃ったことにあって、片想いしている笹川京子ちゃんという同級生の可愛い女子を巡って、何とあの絶妙に性格の悪い剣道部主将と戦って勝利したからだ。しかもパンツ一丁で。
勿論死ぬ気弾のお陰なんだけど、まあそういうわけで、結果的にツナの知名度は上がった。何せパンツ一丁で噂にならない筈がない。
「巴、巴!聞いた!?」
「んー?」
「あんたの兄さんがバレー部の助っ人で試合出るんだって!」
「へえ。」
「もー!ちょっとは驚きなよ!」
放課後、久々に少林寺の練習がなくて、教室でのんびりしていたあたしに、クラスの友達がテンション高くやってきた。
ちなみに、あたしとツナのクラスは違う。学校も一緒に行くわけでもないし、お昼なんて当然バラバラ。お互い学校内では一切干渉しなかった。
端から見たら全くの他人…と言うとあれか。やっぱり双子なだけあって顔が似ているから、学年内ではあたしとツナが双子であることは誰でも知っているけど。
で…ええと、何だっけ。あ、ツナがバレー部に助っ人?
「助っ人って…逆じゃない?」
「…何でツナ君にバレー部が助っ人するのよ。」
「…だよねぇ。」
ツナ…もしかしてあの死ぬ気状態の時を買われて誘われたんだろうか…っていうかそれしかないよね。
まあ何にしろ、あたしには関係ない話だから、そろそろ帰宅の準備をしよう。
「あれ、見ていかないの?」
「うん、面倒くさいからいいや。」
というかツナの事だ。どうせビビって逃げ出したに違いない。昔から根性の無い兄と解っているからこそ、もう、呆れることさえなくなってしまった。
友達に手を振ってから出た廊下、誰もいない空間で、知らず知らずため息が零れる。
…やる気云々は、端から言って直るものじゃないから。
ツナが、自分で考えて、変わってくれなくちゃ。
「巴。」
「っ!」
突然、聞き覚えのある声に名を呼ばれ、ハッと後ろを振り返る。
そこに居たのは、まさかと思いつつも予想通りの姿。
「リボーン…!」
「ちゃおっス。」
小さな体に、黒スーツ。日替わりでラインの色が変わる、これまた黒の中折れ帽のツバには、リボーンの相棒ペットだという綺麗な緑のカメレオンのレオン君。
そんないつも通りの出で立ちのリボーンが、事も無げに廊下に佇んでいた。
「学校にまで来てたの?見つかったら危ないって。ツナに用?」
「ツナなら今、体育館だぞ。」
は。
「体育館って…それじゃあ、バレー部の助っ人…」
「請けたぞ。」
さらりと簡潔に応えるリボーンを見つめたまま、あたしの頭を嫌な考えが横切った。…まさかツナ…!
「死ぬ気弾をあてにして、安請け合いしたんじゃないよね…。」
「その通りだ。」
あああやっぱり!!
叫びたくなる喉を必死に堪えて、力無く額を抑える。情けなさ過ぎてどうしようかあのお兄さんは…!!
「…あのバカツナ…っ!」
努力もしないくせに物に頼って活躍しようだなんて何考えてるの!?だからダメツナなんて呼ばれるんだよ!!
…はあ…ケンカはしたくないけど、これはもう久々に口出すしかないか…と、無言で決意を固めている内に、リボーンが歩き出す靴音が聞こえて顔を上げる。
「心配すんな、巴。まだ死ぬ気弾は撃ってない。」
「…え…。」
リボーンの背中が語る意外な言葉に慌てて後を追うと、リボーンは更に続けた。
「前も言ったが、死ぬ気弾ってのは後悔してなきゃただ死ぬだけだ。今調子こいてるツナには後悔はないからな。ツナにもさっきそう言った。」
「…じゃあ、ツナはどうしたの?」
「それはお前の目で確かめるんだな。」
そう言ってリボーンは外に出ると、体育館の方に向かってさっさと行ってしまう。
「ちょっ…待ってリボーン!」
スタスタ進む姿を上履きのまま追いかければ、リボーンは外にある非常階段から体育館のギャラリーに入ろうとしていた。
あたしもその後に続いて、リボーンの後ろから体育館を覗く。そこには。
「……、」
わあわあと興奮した観客の声。膨らんでいく試合特有の熱気。
その中心となるバレーコートの中には、一際小さい、見間違えようがない髪型の人物が在った。
「ツナ。」
これはビックリ。逃げ出してなかった。死ぬ気弾が使えないって知った後でも、ちゃんとこの場にいた。
しかも。
「…あんなツナの顔、久しぶりに見た…。」
ダメだけど、出来る限り頑張ろうって決めたこの表情、
最後に見たのはいつだっけ。
「わかればよし。」
「へ?」
ちょっとした感動に浸っていると、いつの間にかリボーンの手には立派な狙撃銃。経口は勿論、ツナに向いていて。
「ちょっ…リボ」
「くらえ。」
制止の言葉を皆まで聞かず、リボーンの銃が二度、音を立てた。
「、っ!」
寸分違わず、弾はツナの両腿にヒット。あっ凄い、流石殺し屋。結構距離あるのにな。
…ってそんなことに関心してる場合じゃなくて!
「リボーン!何して…」
「まあ見てろ。」
咎めようとするあたしに、リボーンは試合に視線を促すように階下を指をさした。…あれ、ツナ立ってる。そしてパンイチじゃない。
何?じゃあ今の…
もう一度リボーンを振り返り、問おうとした、その時。
「ツナ!ブロック!」
「オッケー!」
センターに位置していたツナが、ヤケクソ気味に豪快なジャンプした。
うん、冗談抜きで、ネットを飛び越えんばかりの跳躍ぶりで───
「ジャンプ弾〜!!?」
帰宅後、ツナの部屋。
ベッドに腰掛けたツナは、大げさに驚愕の声を上げた。気持ちは分かるけど近所迷惑だよ。
「死ぬ気弾ってのは、ボンゴレファミリーに伝わる特殊弾が脳天に被弾した時の俗称にすぎない。この特殊弾は被弾した体の部位によって、名称も効果も変化するんだ。」
「へえ…。」
ツナの横の床に座っていたあたしは、イスにちょこんと座って話すリボーンに相槌を打つ。
はー…だから足を撃たれたツナは脚力アップでさっきの試合みたいな感じになったのか。不思議な弾があるもんだな。
あ、ちなみにあの後、試合はうまく事が運び、ツナはちゃんとチームに貢献できました。いやーホント何より。
「なんでそんなスゲーもん隠してたんだよ?死ぬ気弾しか教えてくれなかったじゃないか。」
「ツナが弾をあてにすると思ったから言わなかった。」
ツナの言葉に、リボーンはさらりと応えを紡ぐ。
ああ…やっぱり、そうだったんだね。口には出さないけれど、自然と緩む顔は隠せない。
その後リボーンは、『撃ってないと腕がなまるんだ。これでガンガン撃てるぜ』と物凄くイイ顔で言っていたけど、やっぱりちょっとはツナの事を考えていてくれたんだと思う。家庭教師だもんね。
「ツナ。」
リボーンの説明も終わったし、自分の部屋に帰る前に、ツナに声をかけてみた。
「なに。」
「かっこよかったですよ。今日。」
言えば、ツナは驚いたような顔をしてから、苦々しく視線を逸らす。
「…どうせ死ぬ気弾のお陰だけどね…。」
「いや、その時じゃなくて、その寸前ね。」
顔を上げたツナを見据えて、あたしは続ける。
今日ツナに言うのが、文句から褒め言葉に変わって、本当によかった。
「やるだけやってやろうって、思ってたでしょ。あの時。」
今度は、意外です、と言わんばかりに丸くなったツナの目に、少し吹き出してしまった。
あのね、何年双子やってると思ってるんですかお兄さん。
考えてることくらい、解るんだよ。
「かっこよかった。」
と改めて言うと、ツナの頬はみるみるうちに赤くなる。正直者だねぇ、お兄さん。
「別に…妹に褒められても嬉しくないけど。」
「京子ちゃんもびっくりしてたよ。」
「ホント!?」
それでいて、単純。
あたしの好きな、双子の兄だ。
「リボーン。」
「なんだ。」
夕食の席、ツナがいないのを見計らってリボーンに囁く。
「ありがと。」
「何がだ?」
「仕事でも、ツナの事考えてくれて。」
「まーな。」
やっぱりいつもと変わらぬ表情で、リボーンは言う。
あ、でも、ちょっと解ってきたかも。リボーンの微妙な表情の変化。今、満足そうにニヤッとしたよね。
「何笑ってんだ?巴?」
席に戻ってきたツナが不思議そうにあたしの顔をのぞき込むから、内緒、と笑って応えると、ツナもつられて少し笑った。
何だか妙に幸せな、一日。