「ということがあった。」

「…え!?ここで終わりなのか!?何なんだよ結局その原因は!」

「さあ。」

「さあ、って…!!」

「実話にオチを求められても困るよ。」



怪奇現象なんて、原因が分からないから怪奇なんじゃないか。

そう言えば、目の前の金髪は勢いを無くして少しうなだれた。自分にも経験があるのだから仕方が無い。


以前、この人が車でグラウンドに突っ込んで来た事件の謝罪と顛末をようやく聞いた。あの時、巴さんの様子がどこかおかしかったのは分かっていたけど、そういうことだったらしい。

その話を聞いて思い出した事件がこれだ。二度あることは三度あると言うし、きっと彼女はこの事以外にも、妙な体験をしているのだろう。



「でもその後、巴に聞いたんだろ?あの音のこととか。」

「はぐらかそうとしたから、サイゼリヤで二時間身柄を確保したよ。」

「恭弥がサイゼ行くのが意外過ぎる!」

「僕は貴方がサイゼリヤを知っていたことが意外だ。特に興味も無いけど。」

「一言余計だよなホントに…!でもあの価格であの味ならコストパフォーマンスいいよな、ロマーリオ。」

「ああ、だが話が逸れてるぜ、ボス。」

「あーそうだった、悪い悪い。珍しく恭弥が話振ってくれたんだと思って」

「振ってないよ。」

「うん…分かった、もうそれでいいよ…。で、二時間捕まえてた成果はあったのか?草壁。」

「いえ…結局、彼女にもよく分からなかったそうですが…兎に角、トイレで音を聞いた時から、良くないものを感じていた…というようなことを…、」

「?お前にしては珍しく言い淀むじゃねえか。」

「はぁ…その…、」



別に言ったって、確証も風評もないのだから、遠慮せず言えばいいのに。

しかし草壁は口を開きそうにないので、仕方が無いから口を挟む。



「生き霊かもしれないんだってさ。」

「……は、」







『えー…雲雀さん。つかぬ事をお聞きしますが、…流石に人を殺したことはないですよ?』

『僕の知る範囲ではないと思うよ。…多分ね。』

『そこで微妙な感じ止めて下さい!冗談か本気か分からないですし判りたくないです!』

『なら話を進めなよ。』

『はぁ…まあ、あたしだって本気で雲雀さんが人殺しするとは思いませんよ。恨みは買いに買いまくってると思いますけど。だからあれは…憶測に過ぎないんですけど、もしかしたら雲雀さんに恨みを持った人の気持ちが集まって、ああいう形になったんじゃないかなぁ…って思っただけです。』

『へぇ…どうしてそう思ったんだい。』

『あんまりつっこまれても説明できませんけど…あれが一人の人の形に見えなかったことと、雲雀さんの直接攻撃で消えたから…ですかね。ほら、普通ああいうものって、物理攻撃が効かないイメージじゃないですか。でも攻撃を受けて消えたんです。それが恐ろしい一撃だって知っていたし、何より雲雀さんの気迫を恐れたから。…トイレって、陰気なものが溜まりやすいですし、学校だと何人も使いますし…。だからかなー…って。あはは…。』

『興味深いね。でも今まで、僕の周りでそんな事は一度もなかったよ。』

『…や、あくまでも想像ですから。霊とかそういうオカルトじゃないかもですし。真に受けてもらわなくても。』

『でも君には僕らに見えない何かを見ていただろう。』

『し、思春期の女の子って、変なもの見たりするって言いますからねー。』

『それにしては顕著な気がするけど?』

『いや、まぁ…その、迷惑かけてしまってすみません…。』

『迷惑などかけていない。寧ろすまなかった…。』

『あー!草壁さんはもうそんな気にしなくていいんですって!怪我なんて日常茶飯事じゃないですか!目の前の方からの戯れ込みで!』

『しかし…。』

『で?その生き霊の元の人間は分かるのかい?』

『え。…な、何でそんなことを…?』

『分かるなら教えなよ。二度と怨みなんて持てないようにしてくるから。』

『ええ!?い、いやこれはそういう問題じゃなくて!!』

『今後刃向かってくる草食動物も、徹底的に咬み殺しておくから、安心しなよ。』

『なんでそう斜めに飛んでいくんですかー!!?』

『沢田、プリンが来たぞ。食べろ。これでチャラにするつもりはないが…詫びとして奢らせてくれ…。』

『だから草壁さんはそんなに気に病まなくてもいいんですってば!とりあえず雲雀さんを止めて下さいいぃ!!』







「巴嬢…不憫な…。」

「そう言うなオッサン…悪かったと思っている。」

「生き霊って…巴はそんなことも分かっちまうのか?」

「さあ。ただ、そんなことを口に出す程度には、何かしら経験があるんじゃないかな。」

「そうだよな…。」

「だから貴方も彼女と関わるのなら、自分の敵は粉々に擦り潰しておくんだね。」

「いやだからそれは何か違うだろ!まあ…でも、良かったよ。」

「…何が。」



急に表情を緩めて、呆れるような声を出した彼に少し苛立つ。

これは、癇に障る表情だ。年上だからと見透かした風な仕草。…苛々するね。彼の部下からも妙に生暖かい視線を送られていて、酷く居心地が悪い。

彼はそんな僕の気持ちを知りもせず、いけしゃあしゃあと言葉を続ける。この人は本当に、学習しない。



「方法は物騒だけどな、お前、思ったより素直に巴のこと大事にしてるみたいだから。」

「…余計なお世話だよ。」

「うわっ!?お、おい待て!今日は稽古つけてやる暇はねーよ!!トンファーしまえって!なっ!」

「長居しておいてよく言うね。咬み殺されたくないならさっさと帰れ。」

「っんとに…!可愛くねー照れ隠しだな…!!っぶね!!」

「やっぱり咬み殺す。」







さあ、今年もまた、おかしなことが起きるこの季節がやってきた。





【汝、怨み買うこと勿れ】



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