「ガープ中将の執務室に着く前に、サカズキ大将の部下の方に拉致監禁されて今現在です。」

「ああそう…毎度毎度お疲れさん。」

「あたしはただおじいちゃんにプリンを作ってきただけなんですが…。」



そうです、先日シャンクスさん達に届けて頂いた素晴らしい材料で作った大量のプリンを、偶の祖父孝行で一緒に食べたかっただけなのにこれ如何に。監禁される為に遥々東の海からマリンフォードまで来たわけじゃないんですが。

まあ監禁なんて言ったものの、サカズキさんが戻るまで出るなと部下の方に一言言われ、この殺伐とした趣のあるサカズキ大将の和室に閉じこめられてまだ数十分、されど数十分。いい加減退屈だし、プリンの鮮度も気になってきたところで、外から急速に氷の張っていく音がしたと思ったら、そこに現れたのは案の定クザン大将。助かった。色んな意味で。まずは挨拶もそこそこに、プリンの入ったクーラーボックスをその身に寄せたのは言うまでもない。しかし相も変わらずだらけきったお顔をしていらっしゃる。



「というわけで、ここから出して欲しいのですが。」

「ええ〜…。」

「ちょ…頼んだ途端に寝っ転がらないで下さいよ…ガープ中将があたしを探せって暴れてるでしょう。」

「まあその通りだけども…。俺とあの馬鹿が喧嘩していいってんなら今すぐ助けるけど。」

「すみませんとんだ無理を言いました。」



数十分退屈だったばかりに、マリンフォードを消し飛ばすところだった…何よりあたしがセンゴクさんに昇天させられるところだった…。いい大人だっていうのに、未だに仲悪いなあ…。その割に目の前のこの人は、嫌いな相手の部屋で体を横たえるのだからわけが分からない。

溜め息を吐いて、クザン大将の入ってきた窓を見る。枠の向こうには手入れされた庭園があるけれど、空中庭園だったりするんだよなあ此処。いや、高さはこの際クリアできるものと考えても、何故かサカズキ大将の立派な部下の方が四方を固めているので一も八もなく飛び出せない。勿論、普通の出入り口にも部下の方がいらっしゃる。すごく息苦しいです。…逃げ出せないにしろ、クザン大将が来て話し相手になってくれてるだけマシかあ…。

あーあ、久しぶりにマリンフォードを訪れたと懐かしがっていれば初っ端からこの仕打ち…
って、あれ?ちょっと待った。そういえば。



「何であたしが今日来ること分かってたんですかね?」



サカズキ大将の部下の方達の、さっきのあの迅速な拉致り方は絶対待ち伏せてた。だって建物入った途端だったもん。

おかしいな…おじいちゃんには確かに今日来ることは伝えていたけど、面倒が起こると嫌だから、他の人には話さないでね〜って言っておいたのに。



「お前のジーサンは分かりやすすぎるからなぁ…。」

「一瞬で把握しました。」

「誰が何言わなくても何があるか分かるヒデェ浮かれようだった。」

「何かすみません…。」



そんなにもか…いや、確かにおじいちゃんに会うのは久々だけれど。まあ、楽しみにしてくれていたならとても嬉しい。尚更早く会いに行きたい。おじいちゃーん、巴は此処に居ますよー、見つけてー。



「…あ、いい事思いつきました。」

「何?」

「出してくれなくてもいいので、クザン大将だけ此処から出て、ガープ中将にあたしの居場所教えて下さればいいんですよ。」

「おー。」

「ね!これならばっちりです!」

「面倒くせェ…。」

「それすらも。」



遂にアイマスクまで装着されての動くの面倒発言。ていうか大体クザン大将、今日非番じゃないでしょう。まさかサボりに付き合わされてる感じか。



「まあいいじゃない。プリンは冷やしてるし。役に立ってるでしょ。」

「…凍らせプリンにしないで下さいね。あ、よかったらクザン大将も一個食べますか?」

「……。」

「あれ?クザン大将ー?寝ないで下さいよ。」

「…巴はさぁ、」

「はい?」

「サカズキのこと、どう思ってる。」



…また急な質問を、アイマスクをしたまま投げかけるなあ。そんな真面目な声を出すなら、せめて体を起こしてから言って欲しいんですけど。

ツッコミは心の中だけにして、質問の意味を考える。クザン大将はどう答えて欲しいのか。今のこの状況についての感想を述べればいいのか、それとも。

目の前の人はだらけた状態で微動だにしないけれど、そっと耳を澄ませば、まだ物言いたげな色を感じて、答えを口にする前に少し黙る。それに気付いたクザン大将は、ひんやりとした溜め息を吐いた。



「好きか嫌いかで言えば好きですよ。恐いか恐くないかで言えば恐いです。」

「お前の兄貴を殺しても?」

「ああ、ルフィの手配書見ました?ていうかルーキーの中のルーキーなのに、喩えでもサカズキ大将を出しますか。」

「悪運の強そうな顔をしてるからな。」

「さあ、どうですかねえ…というか、それを言ったらクザン大将もボルサリーノ大将も、おじいちゃんだってとっ捕まえちゃうなり殺しちゃうなり可能性ありでしょう。」

「そりゃあな。」

「そうなっても、誰かを嫌いになる理由がないでしょう。海賊も海軍も、動機と行動と結果がどうであれ、自分の思うように生きたいだけですから。」

「……。」

「誰も責めませんし、嫌いにもなりませんよ。」



ただ、あたしが泣くだけで。

それを止められなかった自分を責めるだろうというだけで。



「……。」

「……。」

「……昼間っから暗い話するの止めません?気分重たくする為に遥々来たわけでもないんですけど…。」

「プリン食べていい?」

「切り替え早いですね。」



全く、クザンさんはいつまで経ってもクザンさんなんだから…。

呆れながらもクーラーボックスを引き寄せて、プリンの容器を一つ取り出す。おお流石、冷えてる冷えてる。



「はいどうぞ、つまらないものですが。」

「オ〜謙遜はいいよォ。」

「うわ眩しっ…て、あぁ…ボルサリーノ大将。」

「何なのお前。」



プリンを手渡すその瞬間、カメラのフラッシュなんて目じゃないレベルの閃光が外から飛び込んできて、気が付けば隣であぐらをかいていたボルサリーノ大将。いや、あぐらどころか既にプリンを口にしている。これぞ光の速さ…って言うかそれはクザン大将にお渡しするプリンだったんですが。



「ン〜美味いねェ。腕を上げたねェ。」

「お疲れ様です、ボルサリーノ大将。お褒めの言葉有り難く。でも横取りはいけませんよ。」

「怒られちゃったなァ。」

「まあまだありますし、食べ物でケンカするような歳の人達でもないからいいんですけどね。はい、クザン大将。」

「どーも。」

「ちょっと皮膚からドライアイスの煙出てますよ!全然大人気なかった!何怒ってるんですか!」

「怒ってないし。」

「巴ちゃん、もう一個貰ってもいい?」

「…おじいちゃんの取り分が減るので駄目です。」



『男はいつまでも子どもなんだよ』と、呆れて呟くおつるさんの声が聞こえてきそうだ…何だろう、このいい歳したおじ様に、っていうか海軍大将に、その言葉が適用されちゃっていいのだろうか。

目の前で小さなカップを小さなスプーンでつつく二人を、微笑ましいような不安のような、何とも言えない気持ちで眺めていた、その時。



「…貴様等ァ…人の部屋で何しちょるんじゃあ。」



タン、と乱暴に開いた襖のその向こうから、相当大きな子どもの残りお一人が戻って参りました。ちゃんちゃん。



「お久しぶりです、サカズキ大将。お勤めお疲れ様です。」

「そんなことより、何でそいつ等が此処に居る。」

「そんなことより、何であたしは来た途端監禁されなきゃいけないんですか。」

「久し振りじゃのう。」

「人の話を聞かないねェ。」



あたしの代わりにつっこんで下さってありがとうございます、ボルサリーノ大将。まあスルーされるのは分かってたんでいいんですが。

いや〜それにしても、クザン大将、ボルサリーノ大将に引き続きお元気そうで何よりだ。そして皆さん、尚更渋みが増して…。



「暫く来ないと、年月を感じますねえ。」

「そりゃ老けたって言いたいの。」

「悪い言い方をするとそうですね。」

「巴ちゃんは大きくなったねェ、どこもかしこも。」

「どこを見て言っちょるか、俺に言うてみい…。」

「サカズキ、間接的セクハラでガープさんに殺されるよォ。」

「ボルサリーノさんもですよ。そんなわけで、おじいちゃんが探してますし、お顔も見せたので戻りますね。はい、これサカズキさんの分のプリ」

「誰が出ていいと言ったァ…。」

「室内で腕をボコボコさせるの止めて下さい!」



熱い!そして背中が寒い!ちょっとクザンさん!!風が巻き起こっちゃってますよ!髪がぐちゃぐちゃになる!



「何を対抗しちょるかあ。」

「室温調節してんだよ馬鹿。」

「こんな空調認めませんよ!!」



言って、うんと手を伸ばし、二人の腕を同時に掴む。途端に熱さも寒さも和らいで、ふんわり風が窓から抜けていった。

わざわざこの一連の動作をさせる為に毎回喧嘩してるのかと思う程に毎回恒例なんですが、これ!



「お二人とも学習して下さい…!!」

「老犬に新しいことは躾られないよォ。にしても、海楼石の力は健在だねェ。」

「あ〜…力抜ける…だりぃ…。」

「…人の部屋でだらけるな…帰れ…。」

「ていうかあたしが帰ります。おじいちゃーん!!!」



襖が空いたままの入口に大声で叫んでおけば、力が抜けている筈のサカズキ大将はまたスパン!と襖を閉じる。おじいちゃんなら聞こえてるって信じてるよ…!



「巴ェ…!!」

「何で怒るんですか、怒りたいのはこっちですよ。ちゃんと逃げずに待って、ご挨拶もプリンも差し上げたじゃないですか。ていうか、わざわざ捕まえてなくてもちゃんとご挨拶には来ましたよ。」

「…お前が俺の帰り待ってるとは思えんなァ。」

「まあそうですね。」

「……。」

「歳を取ると寂しがりになって困るねェ。」

「誰のことを言うとる。」

「ン〜〜…三人共?」

「あたしに聞かれても…。」



そしてあたしは手首放した筈なのに、いつの間に二人に掴まれている形に変わっているのですか。








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