バーナビーの広い部屋の中、何も聞こえない。
歩けばヒールの音がうるさくて、歩くのをやめた。
ずっと立っているのも億劫で、立つのをやめた。
いつもバーナビーが座っている椅子に座る。
なんだか少し暑い気がして、1枚服を脱ぐ。
パンプスを履いているのが億劫になって、脱ぐ。
真っ赤に塗られた爪が、10本揃って私を見てる。

そのまま体育座りをして家主を待つ。
バーナビーは、まだ帰らない。

雨が、降ってきたようだ。
綺麗な、音。
ずうっと自分の生きている音だけを聞いていたけど、雨音がじんわりと胸に沁みてくる。
暫く、そのまま音を聞いていると、途端に乱暴な物に変わった。
すごく残念な気分になって、顔を上げる。
あ、バーナビー。
バーナビー、雨、大丈夫なのかな。
ボンヤリと考えていると、バタバタと音が聞こえる。
あ、バーナビー。

「…名前、どうしたんです、今日は遅くなるって」
「うん、知ってる」

ガシガシと、頭をタオルで拭きながら、バーナビーが私に近付く。
顔がよく見えてくると、少し、ほんの少しだけど、寂しいような、落ち込んでいるような顔に見えた。
自分が落ち込んでいるから、そういう風に見えたのかもしれない。
でも、気のせいじゃないかもしれない。

「…ね、貸して」

体育座りのまま、バーナビーの空いている袖を引っ張ると、彼は少し困ったような顔をしながら、タオルを私に寄越す。

「ちょっ名前っ」

よっ、と、椅子の上にそのまま立って、バーナビーの眼鏡を奪い取る。
壊さないようにテーブルの上に置くと、バーナビーの髪に沁み込んだ水分を、軽く叩くようにタオルに押しつけていく。
バーナビーは私が落ちないように、そっと両手を私の腰に回す。

「急に降りだしたね」
「…ええ」
「傘が無くて困ったね」
「…ええ」
「さっきパンツ見た?」
「え…」

明らかに動揺したバーナビーがおかしくて、思わず声に出して笑ってしまう。
すると癪に障ったらしいバーナビーは、ぐいっと私の体を俵のように持ち上げた。

「え、や、や、降ろして、」
「嫌です」

すぱーん、と、言い切られて焦る。
私を担いだまま、バーナビーは気にすることなく移動する。
ハンドレッドパワーを使ってないのにこの力。
いつもなら頼もしく感じるのに、今は恐ろしさしか感じない。

「…あの、バーナビーさん」

彼が何処に行くのか分かってしまって、また焦る。

「はい?何ですか?」
「あの、その、どちらに…」

言い終わらない内に、ベッドへと放り投げられる。
大きいふわふわしたベッドは、私の体にかかる負担なんて、簡単に吸収してくれる。

「うわっぷ」

パンツなんて、話題にしなきゃよかった。
今やパンツは丸見えだ。
足の間を割るように、バーナビーの体が入り込む。
いつの間に靴を脱いだのだろう。
早技すぎる!

「誘ってるんですか」
「…うん」
「え、誘ってるんですか?」
「ううん」

無言で頬っぺたを左右に引っ張られる。

「いひゃいです、ふぁーなふぃーしゃん」
「この口が、この口がいけない」
「いひゃ、いひゃいれす、」

ふがふが言ってると、飽きたのか手を離してくれる。
ヒリヒリしている両頬を撫でると、その上から包み込むようにバーナビーの両手が重なってくる。
さっきまでと様子が違っていて、ちょっと驚く。

「…どうしたの、」
「名前、僕は」

バーナビーは、言いにくそうに口ごもる。
言いにくいことは、無理に口に出さなくてもいいのに。

「…あのね、私今日家に帰るつもりだったの」

バーナビーに話はさせない。
唐突に話し始めた私に、バーナビーは驚きつつも、口は挟まない。

「バーナビー遅くなるって言ってたから、久しぶりにゆっくり1人で掃除でもしようと思って」

泣きそうな顔を誤魔化しながら、バーナビーに笑いかける。
バーナビーは、困ったような嬉しいような、何か吹っ切れたような、おかしな百面相をしながら、私の指をぎゅっと握る。

「どうしよう…」
「…僕とずっといればいいじゃないですか」

バーナビーが近寄ってきて(十分近かったけど、それよりももっと)、柔らかく額にキスされる。

「僕と一緒にいればいい」

涙がこぼれそうだったけど、キスの嵐に見舞われて、涙も引っ込んだ。







ひとりぼっち+ひとりぼっち=ふたりぼっち
ぼっちはいらないけど、でもふたりならぼっちでもいい。


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