うつらうつら。
船を漕いで、現実と夢との狭間を行ったり来たり。
「バニーちゃんはおねむさんなの?」
柔らかなくせっ毛を指で梳き、頭を肩に抱き寄せる。
「なんですか、その言い方。子供扱いはやめて下さい」
睡魔のせいか、いつもの明瞭快活な口調ではなく、舌っ足らずでふわふわとした喋り。
可愛いな。
「ベッドに行く?」
「いえ……」
ここ最近。連日連夜のテレビ収録に雑誌の取材とグラビア撮影。チャリティ活動から街の清掃ボランティア。それに加え、通常業務とヒーロー活動で笑顔、笑顔、また笑顔。得意の営業スマイルも今となっては疲労の種の一つ。表情筋がどうにかなってしまいそうだ。
「一人寝は…恐い、?」
リビングのカウチソファに並んで二人。
テーブルの上にもホットミルクが並んで二つ。
「独りでくらい寝れます、よ……」
「そう?」
「そう…ですよ。僕はずっと…、ずっと独りでしたから……」
ゆっくりと言葉を紡ぐ。眠い、けどまだ寝たくない。今日は貴女が居てくれるから。
「じゃあ今は?」
「、いま…?」
「私が居て、彼が居て、皆が居て。それでも一人で寝るのは淋しい?」
「なに、言ってるんですか。ちゃんと独りで寝れてます、よ」
「……ウソが下手ね」
クスリと笑う。
目の下にクマを作っておいて何を言うか。
「わざわざ、ね。言わなくたって大抵の事は分かるけど」
口で言って甘えるのと、ただ甘えるのとじゃ違うのよ。
だから、ね。
「それでも敢えて、言って欲しい事もあるの」
「あな…た、は…?」
「ん…?」
「貴女はちゃんと、僕に言ってくれて、ますか」
嗚呼、学習能力の高い男はこれだから困る。
まだ……まだもう少し、私の方が甘やかしてあげる方だと思っていたのに。
男の子は守るものが出来ると驚異的な早さで強くなる。これは自惚れでは無くって。
「私もちゃんと、言うから……」
「それ、じゃあ…、」
首に擦り寄せられた鼻から温かい息。
柔らかなソファに押し倒され、乗っかられ。ギュッとそのまま抱きまくら状態。
「このまま、一緒に寝て下さい。それ、で。出来れば、僕が寝てから寝て下…さい、」
成人男性の、キングオブヒーローの大きな身体は、ずっしりと重い。
お疲れ、さま。
「お安いご用よ、バーナビー」
髪を撫で、背中をあやして、まどろむ空気。
浅い呼吸から深い呼吸へ、ゆっくりゆらゆら夢の中。
ほしいものをほしがれない、なくしたがり
(大丈夫。貴方が全部をなくしても、)
(私が見つけて届けてあげる)
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企画:母星
タイトル:幸福
2011,08,04
濁点