好きだと、そう囁くのはきっと、簡単。

「おはようございます、キング」
「ああ名前、素晴らしい朝だな」

だけど違う。だけど俺は、


「、……おはようございます、バーナビーさん」

「―――おはようございます、名前、さん」


貴女に、囁かれたいのだ。




まだ柔らかなタオルを握り締めて、迷う。始業まで後数分、今しかないのにと。

「っと、――あ、バーナビーさん」
「え、」

考えてみれば間抜けな話だ。早朝のトレーニングルームとジャージ。ロッカーの鍵は既に手の中で、なのに俺は立ち尽くしたまま。

「午後から取材入ってますよね?」
「あ、―――そういえば、」
「その前にデータ取らせてもらっていいですか?メニューの見直しがしたくて、」
「あ、はい」

考えてみれば間抜けな話だ。カウンターについてファイルを捲り、ポストイットにメモを。ホワイトボードに並ぶヒーローネームと、それぞれ違ったトレーニングメニュー。

「―――、バーナビーさん?」
「え」
「どうかしました?もしかして体調悪いですか?」
「や、いや……何でも、」

考えてみれば間抜けな話だ。


「何かあったら遠慮なく言って下さいね。貴方たちヒーローのために、わたしがいるんですから」

「―――、……ありがとうございます」


まるで、指をくわえているだけ。


好きだと口に出すのは至極簡単だ。

「名前さん」
「はい」
「えっと、――――」
「何でしょう?」

身の程知らずな我が儘だ。言えばいいのに、貴女が好きですどうかどうかと、頭を下げて言えばいいのに。

「いえ、――――」
「、…………あら、すみませんちょっと、」
「え、…………っ、!!」
「…………ふむ、―――」

なのに俺はどうしても


「、……ちょっと熱いですね、風邪ですか?」

「――――風邪ではないですが……熱はあるかも、しれません」


貴女に好きだと、言われたい。


たった一人、こんな俺を必要としてくれるのなら、そう、貴女に。




僕達が距離をなくす理由

(何故か泣きたく、なる)











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