おともだちごっこ
やっとすべての試験日程が終わった。会場のロッカールームで黒服から私服に着替えながら短く息をつく。
受験者の名簿に二人の名前を見つけた時はいよいよ辞退してやろうかとも思ったけど、協会もとい会長からの出務要請を簡単に断る訳にもいかなかった。
後から聞いた話だと私が奴らと顔見知りだと知ったうえで抑止力になるのを期待してよこしていたらしい。勘弁してほしい。
例年並みの死亡者を出すのみで済んだのは不幸中の幸いだった。単純なプレートの奪い合いなんかにさせられていたら、あの二人が暴れまくっていたら。受験者全員が殺されていてもおかしくなかっただろう。
腰に回したベルトをきゅっと絞って、ロッカールームを出る。
後は預けていたライセンスを受け取るだけだけど、ぼやぼやしてられない。
この時間なら合格者の説明会が終わる頃だろうから今の内にさっさと帰ろう。
「ちょっとお茶してかない?」
「いいよ」
女子か。
中庭を通って裏口に向かう途中で運悪く彼らを見つけてしまう。がっくりと肩を落とす。
いい歳した野郎同士が真昼間から仲良くつるんでんじゃない。
試験中、散々絶を使っていた所為で少々疲れていたけれど最後の気力で再び気配を絶つ。
建物の陰から屋根に飛び乗ろうとして
「見つけた」
見つかった。
私が逃げる為に使った運動エネルギーは、奴の重力ポテンシャルに相殺されていとも簡単に地面に引き戻されてしまう。
足が着くと後ろ手で掴まれていた両手を開放してくるりと正面を向かせられる。
「挨拶も無しに逃げるなんて非道いじゃないか」
「外道の殺人鬼と一緒にいるとこなんて仕事仲間に見られたくないじゃないの」
「何を今更 いつもの事だろ」
「ていうか、一次試験のあれ一体なんなの。差し出がましい事しないでよ」
「どこかで君が見てると思ったら興奮しちゃってね 僕、途中からボッ」
「あんたそれ以上喋ったら殺す」
そうだ、こいつはこういう奴だった。抑止力どころじゃない逆効果じゃないか。
念も纏ってないカードであっさり殺されるような奴らを庇うつもりは毛頭ない。
けど、奴らも受験者であるからには、試験管が設定したルール中で校正に判断されるべきなんだ。
なぜだかぞくぞくきてる奴を一瞥して、このやり取りを日陰の柱に凭れて聞いているんだかいないんだか分からないこの男にも小言が無い訳ではない。
「あの子君の弟なの?正体ばらす気だったなら言って欲しかったな」
「うん。成り行きでね仕方なかったんだ」
「偽名で書類通すのものすごく面倒臭かったのに」
「だろうね」
ああ、もう。言いたい事は言った。
「私、帰るから」
これ以上不毛な会話を続けるつもりは無い。私は踵を返して歩き出そうとする。
「帰るの?お詫びに夕食でも奢ろうかってヒソカと話してたんだけど」
「夕食?ふうん。どこ」
「まだ決めてなかったけど前行きたいって言ってたところにしようか」
「え?いいの?」
「イルミの奢りだって」
「やったー!」
思わぬ好機。
これがあるから私は奴らと付き合ってるといっても過言じゃないかもしれない。
そして多分、彼らも私を操る術をしっかり心得ているんだろう。
そうと決まれば早く帰ってドレスも選ばなくちゃ、とうってかわってきゃっきゃと子供みたいにはしゃぐ私は二人の手をとって出口に向かう。
「いたた。あんまり強く引くなよこっち側折れてるんだ」
「照れない照れない」
「ナマエ、本当だよ」
あれ、やっぱり私たちって仲良しなのかな。
いや、そんなことない。これは打算と謀略に満ちたおともだちごっこなんだから。