パターン3 <少年達の場合>
「口内炎? けっこう辛いんだよね、これ飲むといいよ」
「自業自得。こいつのことだからどうせ毎晩飲み歩いてんだって」
ゴンの厚意に甘えてナマエは彼からカップを受け取って一口飲んだ。甘くて冷たい液体が喉を過ぎていく。
このハニーミルクのような彼の優しさにほっと一心地つける。
「さすが天然紳士。将来絶対モテるわ、キルアと違って」
「図星だろ」
「お子ちゃまにはわからないでしょうが、大人には付き合いっていうもんがあるのよ」
メインストリート沿いのテラス席には仕事帰りのナマエと、街に遊びに来ていたゴンとキルアの3人の姿があり、それぞれ3時のおやつと3時のコーヒータイムを満喫しているのだった。
「あーわかんないね。年増の言う事なんか。オレまだ子供だから」
「そうやって突っかかるの良くないよ、キルア」
「無駄よ、ゴン。A型変化系とB型変化系の相性の悪さは折り紙つきなの」
「お待たせしましたー」とばちばちぶつかる二人の視線を遮って、目の前にクリアイエローの飲み物が置かれる。
グラスの底から沸く気泡に撹拌されて、氷にヒビが入る音がする。
「⋯⋯そういや、初めてのキスはレモンの味がするって言うけど」
レモンサイダーで乾杯をとる少年達を眺めていると、遠い昔の記憶が思い出されてナマエはそんな事を呟いた。
「全然そんなこと無かったなあ」
「あー、確かに。あれ嘘だよね」
ナマエの独り言に反応したゴンが尋ねる。
「ナマエは何味だったの?」
「私?」
「⋯⋯ん?“確かに”?」
ゴンの一見何気ない言葉の中に一瞬漂った違和感。
冷やかで自己中心的に見えてその実一番センシチブなハートを持ち併せるキルアが、その違和感を敏感に捉える。
「⋯⋯ナマエは? なあゴン、ナマエ“は”って何だよ」
「いやあそれがお互い初心者だったもんで思いっきり歯をぶつけちゃってさあ!」
「あはは、あるあるだね」
「!?、ちょっと待ってくれ、ゴン」
「だから、初キスは血の味だったのよね」
「オレはその時食べてたアイスの味だったかなー。味なんてそんなものだよね」
「⋯⋯⋯⋯ゴン⋯!」
キルアはその日、親友の大人な一面を垣間見てちょっとだけ泣いた。