できちゃった
とある借家の脱衣所。
そのシャンプードレッサーの鏡の前で、ナマエは自らの口内をまじまじと観察していた。
彼女の頬の内側には5ミリ程度の小さな潰瘍が覗いている。
「やっぱり⋯⋯、なんか痛いと思ったのよね」
原因は食生活かストレスか。
どちらにせよ、何らかの生活習慣の改善が必要であると思われた。
いつ体験しても慣れないちくちくとした不快な痛みであるが、だてにこの現象と長く付き合っている訳では無い。
自分の体の事は自分が一番分かるというものだ。
念入りに口を濯いで、かこんとコップを鳴らす。
もう一度、出来たてほやほやのそれを憎しと睨んで、ナマエはその場を離れた。
同日、ナマエはカフェテラスにて午後のぬるい時間に浸っていた。
「ああ、そうそう」
テーブルの反対側に向かい合わせで座る人物に、ナマエは何かを思いつきやおらその顔をあげた。
頬を擦りながら切り出す。
「聞いてよ」
ナマエにとってそれはあくまでも世間話の延長線上であり、話の間を繋ぐリベットに過ぎないものだった。
今から、彼女の惰性的思考から繰り出されることになるその一言が、相手方の捉えようによっては爆弾級に衝撃的な効果をもたらすとも知らずに。
これは、彼女の誤解されまくりな発言に始まる、彼らの三者三様の反応の違いを見るお話である。
「できちゃったの」
―口内炎―
→パターン1
→パターン2
→パターン3
→パターン4