joint




人通りの多いメインストリートのその脇。生成りのファブリックパラソルの下に備えられてあるベンチに、毛皮のオペラハットを目深に被った女が足を組んで腰掛けていた。


「早く上に送って終わりにしちゃお」


独り言かと思われた女の言葉に返す者がいた。


「懸命です」

目線よりもはるか下から聞こえる声に彼女は満足げに頷く。


「これでしばらくは休暇をとっても怒られないな」

「この街の分だけでも終わらせたほうが楽になりますよ。編綴するのに必要なノートがまだ少し足りません」

「⋯⋯⋯」


女は「ほんとうに君はできた助手だよ」と、おざなりな賛辞を送るとやおらに立ち上がる。
ベンチに程近い茂みの中から白い猫が現れ、足早に歩き出す女の横に寄り添った。

昼下がりの大通り。

誰もがその小さな生物に気を止める事なく気ぜわしく、目指す場所へと行進していた。レンガ畳の上を音なく移動する猫。そうして入り乱れる人々の脚の間を縫うように四つ足はリズミカルに動く。


「なんでこんなに付けたんですか!これ全部消えるの一週間くらいかかるんですから!」


往来の中からよく通る声が聞こえてくる。
その声は女が歩みを進めるにつれ、徐々に大きくなっていく。


「そんなに付けられといて起きない方が悪いだろ」

「まさかの私のせい⋯⋯!」


前方から来た黒髪の男と小柄な女。
女の方はなにやら顔を真っ赤にしながら首元を押さえて必死に男に物申しているが、やや前方を歩く男は彼女の訴えを鬱陶しげに聞き流しすたすたと足を止めずに行っている。


すれ違う一瞬、女は何かに気を取られたように背後を振り向いた。


「どうした」

「あ⋯いや、今すごい綺麗な猫ちゃんがいたような気がして」


すぐに男に向き直る。

見間違いと判断した彼女がそれを記憶に留まらせず忘れ去る頃。一人と一匹は雑踏の中に紛れ、薄まり、その他大勢の構成要素の一つと化していった。



End for now





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