お姉ちゃんと一緒 〜鶴姫もいっしょ〜


※夏の日主がアニキのところにトリップしました。
※鶴姫スキーは見ないほうが吉。
※連載進めずこんなんやっててスミマセン。
※ホントは3がでてすぐくらいに書いたんだ。けど表に出るの今頃とか。
※野郎どもは平時「姐さん」、テンションによって「アネゴ」呼び
※オチは……どこにいったのやら…(汗)






 ああ、久しぶりに苛々する。

 そう胸中で吐き捨てて、蓮は敵軍の大将を睨めつけた。口に出さなかっただけマシとはいえ、蓮の足は甲板を叩き続けていたし、柳眉を吊り上げて不機嫌さを隠そうともしていなかった。おかげで自軍(というか世話になっている長曽我部軍)の兵士たちが多少ビビっているのだが、そんなことは蓮にとって大した問題ではない。蓮にとって今現在最大の問題は可愛らしい声でアホなことを喋っている敵大将こと鶴姫とその取り巻きである。
 船二艘分向こうでこちら側の総大将である長曽我部元親を相手にどんぱちやっていたのが、徐々に近付いてきている気がするのも蓮が苛々する一因だった。
「姉御、アニキが呼んでますぜ」
「行かないわよ」
「でも、あの鶴姫ってのピョイピョイ飛んで――」
 兵士の一人が言い終わらぬうちに、話の種になっていた本人が空を跳んで甲板へ降り立つ。
「――来たわね」
 蓮たちは長曽我部の船にて留守番していた。つまり鶴姫戦でのステージ開始位置だ。件の巫(かんなぎ)がここにバビュンと跳んでくるのをうっかり失念していたわけである。
 移動してきた鶴姫を見て、蓮は額に手をあてると態とらしく嘆息を吐き出した。
「それじゃあ皆はチカが来るまで頑張って」
「えぇーっ!? マジっすかアネゴっ」
 くるりと鶴姫とは逆の方角へ体の向きを変えると、長曽我部から情けない声が上がる。
「揃いも揃って海猫が首絞められたような声出さないでちょうだい」
 部下を大事にする元親からすれば彼らを見捨てると同義だろうセリフに、行かないでくだせぇアネゴ、俺たちだけじゃ持ちません、せめてアニキが来るまで、などと見捨てられる側にいる兵士たちが口々に言い募る。
「あんたたちねぇ」
 なんか頭痛がしてきたわ、とこめかみを揉みしだいて蓮はすがり付いてくる元親の部下たちを押しやる。いっそのこと当たって砕けろといってやるべきだろうか。そもそも蓮がいたところでなにが出来るわけでもなく、大体において蓮が戦と縁遠い世界からぽっと現れたことを知っているはずだというのに。がっつり弓矢などという中遠距離の武器を持った人間相手に丸腰でどうしろというのか、蓮にはさっぱりわからなかった。
 それに武器の問題がなくとも蓮はバビュンと跳んできた小娘などに構いたくなかった。喋り方が高校生のそれだとか、あの長さの袴でスカートタイプだとか、世間知らずの無邪気キャラだとか、はっきり言って蓮は嫌いだった。無理矢理作ったキャラクターでバカっぽさを売りにしているタレント歌手ぐらいには嫌いだった。それゆえに蓮の鶴姫使用率は極端に低かったしセリフもボタン連打で先送る。
 そこまでするくらいの嫌悪でもってリアルな存在と対してしまった蓮の胸中は穏やかとはほど遠い。ついでに入社わずか三ヶ月で辞めた自称優秀な新人も同じキャラだったことを思い出し、苛つきは二割増しされていた。
「海の漢なら当たって砕け散れ」
 故の暴言である。しかし蓮が口にできる唯一のセリフでもあった。
 それに食いついてきたのは言われた野郎どもではなく、バビュンとやってきた女子高生的巫で。
 ビシィと効果音が入る動きで小娘こと鶴姫が蓮を指さした。
「なんてことを! 慕ってくれている人達にそんな暴言を吐くなんてっ。さては貴女、悪人ですね!」
 蓮の理性的ななにかがおなじ効果音で切れた。
「お黙り小娘が」
 ついでにビシッとやはり効果音付きで蓮は鶴姫に人差し指を突き付けた。
 苛立ちささくれだった気分のまま思っていたことを叩きつけていく。
 巫というなら大人しく社で先見していればいいものを。わざわざ武器を手にして戦に出てくる必要なんかないでしょう。そうして平和を口にしていながら武器を手にする矛盾に気付いていないのならば、他人の暴力に意見を放つ資格などないと知りなさい。貴女の奮うそれもまた暴力なんだから。
「大体、私を悪人と断じられるほどアンタが出来た人間には見えないわ。私に喧嘩売るなんて百万年早いのよ、ベーベちゃん」
 突きつけていた指をおさめて腰に手をあてる。いつの間にか甲板に正座していた鶴姫が蓮の後ろあたりへチラチラと視線を送っていた。
「私の話を聞いている時になによそ見しているのよ」
「あ、いえ、ごめんなさい!」
 慌てて謝る鶴姫に眉を顰めて、彼女が視線を送っていた方を見れば当方の総大将、半裸の国主・長曾我部元親が何故か正座していた。
「……なにやってるのかしら、チカちゃんは」
「あ、いや……なんとなく正座してなきゃなんねぇ気がしてよ」
 困った顔をして頭を掻く元親に蓮は溜息を一つ落として、鶴姫に背を向けた。元親が来たのならこれ以上嫌いな人間の相手をすることも無い。
「元親、あとはよろしくね」
「よろしくって、蓮はどうすんだ?」
「帰ってお風呂にでも入るわ。潮風で髪とかゴワゴワになっちゃうもの」
 そういって髪の毛を一払いすると、蓮は部下の何人かを引き連れて歩き出す。
「……あの鬼さん?」
「なんだよ、巫」
「あのお姉さんは何者ですか」
「……時代を翔る蝶々、だとよ」
「蝶々…。わたし決めました!」
「決めたって、何をだよ」
「あのお姉さんに着いて行きますっ」
「本気かよ。アイツ、気に入らないヤツには本当に容赦ねぇぞ」
「いいんです。頑張って認めてもらいますから」
「なら好きにすりゃいいさ」
 後ろで鬼と巫がそんな言葉を交し合っているのに、蓮は気付いているのかいないのか、部下たちに陸に戻るよう指示を出し始めていた。







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