※夢主とバニーの喧嘩、からのおじさんの「娘はやらん」発言。
※最終回後、イワン視点です。



 ごく稀に、ヒーローズたちが集まって食事をすることがある。
 ヒーロー業はとても不規則で、約束を取り付けても緊急要請がくれば出動しなくてはならない。ヒーローだということを隠して生活しているので、なかなか友人たちと時間を合わせて外食するという機会もない。
 だからなのか、この食事会は途切れることなく続く習慣のようになっていた。
 同じヒーロー同士といっても、各々の忙しさには差がある。
 アイドルとしても活動しているブルーローズや、二部になってもテレビにラジオに引っ張り出されているバディヒーローの忙しさといったらない。自らの企業でヒーローをやっているファイヤーエンブレムなど、どうやって経営者とヒーローを両立させているのだろうと思うくらいだ。
 そんな忙しい人間が多いなか、それでも時間を作って集まる食事会を、イワンはとても楽しみにしている。
 今回はアントニオが貰ってきた優待券を使って、彼のスポンサーでもある焼肉を食べることになった。
 貸切には出来なかったと申し訳無さそうにアントニオが取ってくれたのは、シュテルンビルトにいくつかある店舗のうち個室がある店だった。
 そこの店長がヒーローフリークで、しかもワイルドタイガーとロックバイソンのファンというコアな店は、素顔のヒーロー達にとても考慮してくれる。今回もヒーローズが集った個室は店の奥の方で、しかも隣はプライバシーのためと空席のままにしてくれていた。
 こういうのが義理人情にあついというのでござるな、とイワンは心のメモ帳に刻む。
 良いのか? とたずねた虎徹とアントニオに、
「この街を守ってくれるヒーローに腹いっぱい食ってもらえりゃいいんだよ」
 そういって豪快に笑った店長に男気も見た。
 ヒーローファンにも色々な人がいるけれど、オールドファンはここの店長みたいな人が多い気がする。
 そうして開催されたヒーロー八人と少女一人の食事会は、ネイサンが音頭を取った乾杯で開始された。
 のだが。
「ちょっと、こっちにニンジンを寄越さないでくださいよ」
 眉間に縦皺を刻んだバーナビーが、自分の皿に落とされた人参をつまみ上げる。きれいな網目の形に焼き目がついた人参を、ぽいっと春希の皿に放り込んだ。ついでとばかりにその皿から焼きたてのカルビ肉を一枚奪っていく。
「ちょっと! なんで私の皿から肉を持っていきますの!?」
 キープしていた肉を奪われた春希が悲鳴のような声を上げた。
 浮きかけた腰がぎりぎりのところで踏みとどまる。ここで席を立つのは行儀が悪いと思ったのだろう。けれど、もうそのくらいのこと行儀もなにもないくらい、周りの人間もいい感じに出来上がってきているので、気にする人はいないと思う。
 大人組みはとっくに酔っ払っていた。ネイサンはアントニオに構っているし、虎徹とキースでいつの間にかあれこれ飲み比べている。
 酒を飲んでいない年少組といわれる自分たちは大人たちほどダメになっていないけれど、パオリンはひたすら食べているし、カリーナもそんなパオリンに勧められるままコラーゲンたっぷり美肌にも効果的と煽り文句のついた肉をチマチマ食べている。
 イワンはそんな騒がしいメンバーの端で、自分の分に肉をちゃっかりキープしながら目の前の遣り取りを眺める。
「ラストだからと取ってましたのにっ」
 絶望に塗れた春希の声が、肉を奪った犯人に向けられる。
 確かにカルビ肉は今ので最後だった。
 追加で注文すればいい話なのだが、肉の皿が運ばれていい具合に焼きあがるまで待たなくてはいけない。ほかの肉が焼けるにももう少し時間がかかる今、皿から肉を奪われるのは拷問に等しい所業だ。
 そんな鬼の所業をかましたバーナビーはツンと顎を上げる。もう何度も見てきたお決まりの仕草だ。大抵は彼の相棒に向けられていたそれは、ここ最近は一般人であるはずの春希に向けられている。初対面から印象が最悪で相性も最悪だった春希とバーナビーは、まるでコンビを組んだばかりのタイガー&バーナビーのようだ。
 本人たちは断固否定しているが、ヒーローズの間では共通の認識である。
 最初は本当に険悪だった。なにせイワンは春希がバーナビーに吐き捨てた言葉を覚えている。嫌悪感と刺をたっぷり含んでいたものが、いつの間にか含まれる刺が減っているのもそっくりだった。
「あなたが僕のに人参なんて置くからです」
 してやったりといった顔をしたバーナビーに、春希は鼻で笑った。
 先ほどまでの悲壮な様子はどこへやったのか、彼女の保護者が相棒を揶揄うときに浮かべる笑みそっくりの笑顔を浮かべる。
 こういう仕草とかは一緒にいると似てくるものなのかもしれない。
 というかなんで自分は二人の様子を観察しているんだろう、なんて疑問に思わなくもなかったが、よく焼けた玉ねぎを齧った甘さで誤魔化した。
「あらあら。ニンジン嫌いのヒーロなんて、子供の夢をぶち壊しですわよ。ウサギちゃんなんて呼ばれているんですから、ニンジン嫌いの克服に協力してさしあげますわ」
 言いながら春希は焼き網の上でいい加減カピカピになりかけていた大量の人参をすべてバーナビーの皿に盛った。端っこのほうがすでに炭になっていそうなものも混ざっている。どう見ても嫌がらせでしかない。
 ぐっとバーナビーの表情が曇った。
 更に乗っかった人参を春希の皿に投下しようとして、それより先に春希が自分の皿を手でガードする。ハンサムな後輩の舌打ちが聞こえて、イワンはなんとなく懐かしくなった。
 春希がこの食事会に参加するようになる前は虎徹がバーナビーの皿に色々乗っけて、こうした会話を交わしていた。おちょくってからかって、食べさせて食べさせられて。それが今度は虎徹とではなく春希をしているのだから、この後輩はどうしたものか。
 虎徹がバーナビーのあれこれと世話を焼くのは、虎徹の方が年上で他人を気にかけるからだと思っていたのだが、こうして年下の少女にまで世話を焼かれているのを見るとバーナビーの方に他人に世話を焼かせる何かがある気がしてくる。
 僕にだってしてほしいのに。ふと浮かんだ内容をイワンは頭を振って散らした。
 ピーマンをつまんで口に放り込む。じわりとした苦味が広がるが、目の前のやりとりは苦いのか甘いのか、よくわからないことになっている。
「栄養に関してはきちんと摂っていますからお構いなく」
 さりげなく山盛りの人参をイワンの皿に移動させたバーナビーをジト目で見るが、ハンサムな後輩は春希とやりあうのに忙しい。
「貴方の場合、どうせ全部サプリメントなんじゃありませんの? 健康どころか不健康ですわよ」
「まさか! 最近は虎徹さんのところで週三回以上、ご飯を食べてるんですよ? 栄養が偏っているとしたら出される料理のせいです」
 大袈裟に肩を竦めてみせるバーナビーが、わざとらしい言い方をする。
 それに、「週三回以上ってなんですかそれ羨ましい!」と言えないイワンは小心者だ。
「それ、私の料理に文句言ってます? 別にあなたのために用意しているわけじゃありませんのから、食べにこなくて結構ですわよ」
「ぐっ……別に、文句は言ってません」
 痛いところをつかれたといわんばかりの顔でバーナビーが唸る。
 これは胃袋を掴まれているのだろうか。
 春希は完全に日本人だし、虎徹も日系だ。メインとなる料理が日本料理でもおかしくない。そして日本の家庭料理は全体的に茶色いけれど、優しくてあったかい味がするのだ。前に一度だけご馳走になったことがあるが、出汁がたっぷり入った卵焼きや味噌汁は絶品だった。あんな料理を週に三回以上も食べていれば胃袋も掴まれるはずだ。ますます羨ましい。
「当然ですわ」
 くいっと胸を張った春希に、どきりとする。
 イワンの考えていることが分かったのかと思ったからだ。けれど、春希は心を読むNEXTではないので、イワンの胸中を知る術はない。春希の言葉はバーナビーに向けられたものだ。
「職業ヒーロー二人の食事ですもの。栄養面にも量にも一応気をかけてます。文句なんて言えないでしょう」
 もうそれどこのお母さん?! とツッコミを入れたくなった。
 ちらりと虎徹を伺うと、キースと肩を組んではしゃぎながらもこちらを気にしている。
「そこは感謝してますけどね」
 バーナビーが新しく焼けた肉を春希の皿に載せる。
「……わかっているなら、いいんですのよ」
 頬を膨らませた春希が載せられた肉を摘んでぱくりと食いついた。
「ねぇ、アンタたちデキてんの?」
 二人のやりとりにいい加減、面倒くさくなったところでネイサンが爆弾発言をした。
 え、と全員が動きを止める。
「やっぱりそうなの?」
 恐る恐るといったふうに、でも興味津々なカリーナが乗り出してきた。こういうところはやっぱり女の子なのだ。
 イワンだって気になるといえば気になる。けれどあまり突っ込んで聞きたくない気もした。
「まさか!」
 否定は二人同時にあがった。
「私とこのウサギさんが?! ありえませんわよそんなの!」
 ブンブンと箸を置いた両手を顔の前で振る春希は、照れているようには見えない。顔も赤く染まるということはなかった。それに少しだけホッとしたのはイワンだけの秘密だ。
 バーナビーが心底嫌そうにため息をついた。
「僕だって嫌ですよ。だってこの人、虎徹さんと一緒になって僕のことからかってくるんですから。この前なんてコーヒーミルクだなんていってカルーアミルク飲ませたんですよ?! 僕がミルク系のお酒ダメだって知ってるくせにっ」
「それは、八割がた虎徹のせいだと思うがな」
「持ってきたのは春希ですよ」
「画策したのはおじさまです。私はカルーアにウォッカを数滴混ぜれば楽しいと思います、と進言しただけですわ」
「ひどいっ! あれ、次の日あまりに辛くて虎徹さんに八つ当たりしたんですよっ」
 そういえば、顔色の悪いバーナビーが虎徹に辛辣な言葉を投げつけまくっているときがあった。喧嘩でもしたのかと思ったが、翌日には何事もなかったように元通りのバディだったので忘れていた。真相はそういうことだったのか。
「それ、愛情の裏返しなんじゃないの」
「カリーナ。冗談は寝てからお願いします」
「冗談なんか言ってないわよ! うちの学校にもいるもの、好きな女の子に嫌がらせっぽいことして気を引こうとするのが」
 なるほど。現役高校生ならではの実感が籠った話に頷く。
 真実どうかはわからないが、虎徹は好きな子を構い倒しそうなタイプに見える。構って、ちょっかいをかけて、世話を焼いて、心配する。それは多分性別も年齢も関係なくそうなんだろう。それが相手には好意に見えないときもありそうだ。
 イワンが知っている限り、自分を含めて年少組四人と彼の相棒はそうやって絆された。ワイルドタイガーは一級フラグ建築士だと、どこかの掲示板で見たが、ワイルドタイガーでないときもフラグを建てまくっている。春希と虎徹が似たもの同士なら、春希にもそういった要素はありそうだ。
 実際、ハンサムヒーローの胃袋は把握されているし、イワンだってきっちり似たようなものだろう。
 春希は虎徹ほど乱立させないのが救いだった。
「そこまで子供じゃありません。大体、なんで僕と春希がそういう関係になってるなんて思うんです」
「そうですわ。私が言うのもなんですけど私たち仲が良いとは言い難いです」
 ねぇ? とお互いに顔を見合わせる二人に、もうどうしようもなく苦笑いしか出てこない。
 まるっきりやりとりがタイガー&バーナビーだ。
「二年くらい前にそう言ってたハンサムはすっかりタイガーに懐いたけどね」
「えー。まあ懐いたって言やぁそうかもしんねーけど、そういうのとは違うだろ」
 ニヤニヤと面白がるネイサンにようやく虎徹が話に混じってきた。
 下唇を突き出しているのは、不満とか不平があるときだ。虎徹は表情豊かでとても分かりやすい。
「でも、いつかは春希も恋愛して結婚するのよねぇ」
「相手がハンサムでもおかしくないわよね」
「そしたら虎徹泣くんじゃねぇか。楓ちゃんの時は絶対泣くだろうけど、春希のときも号泣しそうだぞ」
 アントニオの一言に、全員が頷いた。
 花嫁を送り出す父親は、きっとバージンロードを歩く前から涙でぐしゃぐしゃになるのだろう。なんだか容易に想像できてしまう。
「そうねぇ。タイガーってば、親バカもいいところだもの」
「いっとくけどやらないぞ?」
 低い声が牽制した。
「そうは言っても、好きな相手が出来れば親なんて二の次になるもんよ」
「やらねぇったら、やらねぇの! 楓はまだ早いし、春希だって嫁になんかやるかよ!」
 ばしん、とテーブルにグラスを叩きつけて虎徹が吼えた。
 いくら店の奥まった場所で、一応隔離してくれているとはいえワイルドタイガーの咆哮はよく通る。イワンの背中がよく分からない汗で冷たくなった。
「だいたいそのへんの馬の骨にやってたまるか」
 いまにも食いつかれるんじゃないかという低い唸りに、一気に鳥肌が立った。
 見ればカリーナもぶるりと体を震わせて腰が引けていた。パオリンは目をまんまるくさせて虎徹を見ていた。まったく堪えていたいのはネイサンと、よく分かっていないキースくらいだ。アントニオですら、少し顔が引きつっている。
「じゃあハンサムならどうなの? 馬の骨でもない、元KOHであんたの相棒なら安心じゃなくて?」
 肉厚の唇をすぼめてネイサンが焚きつける。
 お願いですからこれ以上煽らないでくださいっ。
 猛獣の檻に入れられた気分で、イワンはなるべく小さくなった。前に春希とメール交換をしていたことが虎徹にバレたときを思い出して身震いする。
 虎徹は娘のこととなったら恐ろしいのだ。ヒーローの顔をどこかに忘れたんじゃないかというくらい、人相が悪くなる。
「バニぃ?」
 語尾を上げて凄む虎徹が相棒の顔をじろじろと眺め始めた。
 酒の力が働いているせいかいつもより極悪人っぽい。
「ダメ。いくらバニーでも絶対ダメ!」
 叫んで春希を抱きしめ引き寄せた。ぐっ、と春希が小さく呻いたが、虎徹はお構いなしにぎゅうぎゅう抱きしめている。嫌がる素振りを見せないので、一応は手加減しているのだろうが、まるで子供がお気に入りのぬいぐるみを取られないようにしているみたいだ。
「春希と付き合いたかったら俺を倒してから! もちろんデートは俺同伴っ!」
 馬鹿だ。と思った。
 ヒーローとしては経歴も長く一目置く大先輩で、日本のことを教えてくれる師匠だとしても、これは馬鹿だ。相当の親馬鹿だ。まさかここまでだとは思わなかった。ちょっとワイルドタイガーの見方が変わってしまいそうだ。
「あんたねぇ」
 呆れた、とネイサンが辟易とした顔をした。
 水を向けたのはネイサンなのに、あまりの親馬鹿っぷりに流石の恋愛達人者も匙を投げたようだ。
「でも」
 ぐいっとグラスに残っていたチューハイを煽ったバーナビーが、イイ笑顔で虎徹に向かう。
「僕なら虎徹さんを倒せる可能性があります。それに、お家デートならいつでも一緒でしょう? というか、僕が晩ご飯食べて泊まっている時点で半分くらい交際しているようなものですよ」
 ドヤァとばかりに輝く笑顔を浮かべるバーナビーに、場の空気が凍りつく。
 何を言っているんだ、このハンサムは。ただでさえ親馬鹿なのに、アルコールで箍が外れた親馬鹿モードの虎徹にそんなことを言ったら火に油を注ぐようものじゃないか。せっかくの楽しい食事会が修羅場に変わるなんて悲しすぎる。
「バニーはもううち来るの禁止」
「なんでっ!?」
 テーブルを叩いたバーナビーが、信じられない、と肩を震わせる。
「あなたが僕にあったかいご飯の美味しさを教えたんじゃないかっ」
 ついでに声まで震えてみるみるうちに翠の目が潤んできた。
 あっというまに盛り上がった涙が一粒、ぽろりと落ちたのを皮切りにぼろぼろと泣き出してしまった。頬をべしょべしょに濡らして「ひどい、ばか、ひどい」と呟く姿にもうついて行けない。
「春希のごはん、食べてっ、こてつさんと三人…あそぶの好き、なのにぃ」
 しゃくりあげるバーナビーの切れ切れな訴えに、虎徹もバツが悪くなったのだろう。
 春希を抱きしめたままそっと頭を撫でてやる姿は相棒を慰める先輩というよりも、弟を慰める兄のようだ。ただし、幼い、と枕言葉がつく。春希は諦め顔で虎徹の腕に収まっている。目線で「なんとかしろ」と言われた気もしたが、正直イワンにどうこう出来るものではない。心の中で「申し訳ござらんっ」と土下座した。
「ごめんな。そうだよな、ひとりで飯食うのさみしいもんな」
 親馬鹿モードからお節介モードに移行したのか、虎徹の口調がやわらかくなっている。
「こてつさぁん」
 鼻まで赤くした泣き顔の後輩が、片手を広げた虎徹に向かって飛び込んだ。
 あ、と思う前に二人の間で潰された春希が呻きながらバーナビーの髪を引っ掴む。
 そのまま力任せに引っ張っられてバーナビーが悲鳴を上げた。
「痛いのはこっちですわよ。まったくもう…二人とも酔っ払ってますわね」
 頭を押さえてぐずぐずしているバーナビーの背中をぽんぽんと叩いて、後ろから抱きついたままの虎徹をそのままに春希はぐるっと一同を見回した。へにょりと困ったように下げた眉が保護者にそっくりだった。
「もうウサギさんダメっぽいので、お暇しますね」
「そうね。もういい時間だし、そろそろお開きにしましょうか」
 ネイサンが頷いて、時計を確認すればもう開始から三時間は経っていた。
 虎徹はまだ飲めるだろうが、バーナビーは見るからにダメそうだった。もしかしたら人参をやりとりしてる時から酔っ払っていたのかもしれない。そういえば少し顔も赤かったような気がする。
「そうだな。スカイハイもダメみたいだし」
 こちらも酔いつぶれたらしくキースがくったりとテーブルと仲良くなっているのが見えた。
「ですね。僕、スカイハイさんを送っていきますよ」
「私たちは一人で帰れるから大丈夫よ」
「うん」
「そっちの二人は任せていいかしら?」
 ネイサンが春希に向けて聞けば、ぐずっている元KOHと壊し屋ヒーローをくっつけたまま笑顔で頷いた。
「ええ。家までひょいっと移動しちゃいますから平気ですわ」
「じゃあ、二人は任せたわね」
「お会計は…」
「後で二人に請求するからいいわよ」
「では、申し訳ありませんがお先に失礼しますわ。お二人とも帰りますから、ちゃんと掴まってくださいな」
 ぺこりと大柄な大人二人をひっつけてお辞儀をひとつ。
 春希は小さな荷物と大きな荷物を抱えて、消えた。彼女の『空間移動』能力で帰宅したらしい。
 まああの二人をくっつけたままでは、それ以外に帰る方法などないだろうけれども。
「……なんというか、相変わらず人騒がせよね」
 ぼそっと呟かれたそれに、まだ正気を失っていないメンバーが一斉に頷いた。
「でも楽しかったよ。またみんなで集まろうね!」
「そうでござるな」
 最終的にはぐだぐだになるけれど、やっぱりみんなで集まる食事会は楽しいのでイワンだって楽しみなのだ。
 たとえ毎回のように虎徹の親馬鹿が発動しても。



20120923 初出
20131001 加筆修正


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -