※バーナビーの縦縞ビキニのグラビアを見た夢主と親バカ全開な虎徹がバーナビキニについて話す話。



 夕食の団欒は、大抵その日にあった出来事やヒーローの話で埋まる。
 この日もヒーローTVの録画放送を見ては、「ここは上手く行った」とか「ナイスタイミング!」と感想などを交わしていた。
「食器ささっと片付けちまうなー」
 ヒーローTVも見終わり番組がバラエティに変わったところで、虎徹がそう言ってキッチンへと食器を下げにいく。
 日々の家事は春希はしているが、出動のない日の夕食の片付けは虎徹がしてくれる。春希としては居候させてくれる代わりに家事を引き受けているので、夕食の片付けもやると申し出たのだが「こういうのは偶に任せるのがうまくやっていくコツなんだよ」と笑顔で言われては、大人しくお願いするしかない。
 なんとなく手持ち無沙汰だったところに、なにやらカラフルなものが目に付いた。
(……なんでしょうか?)
 虎徹が座っていたあたりにあったそれはどうやら雑誌のようだった。わざわざ隠れるように置かれていたことに、いったいどんなものだろうと興味がわいた。 
 鼻歌混じりに食器を洗い出した虎徹を尻目に、春希はソファの影から雑誌を引っ張りだしてみた。 

『WT&BBJ特集! シュテルンビルトの救世主に迫る!』

 そんな煽り文句と共に、ワイルドタイガーとバーナビー・ブルックスJr.が表紙を飾っている女性誌だった。別段隠す必要もない、ごく普通の一般誌である。
 ジェイク・マルチネスの一件から街中でバディヒーローを見ない日はない。
 新人ハンサムヒーローのバーナビーはアチコチで見掛けたが、ニューフェイスの添え物扱いだったワイルドタイガーも、いまやメディアに引っ張りだこだ。
 『ヒーローは人を助けてこそヒーローだろ!』という持論を地で行く虎徹は、メディアに出る仕事にあまり乗り気ではないらしい。けれども会社命令であり仕事である以上、断ることも出来ないのが大人のツライところだとボヤいていた。
 この雑誌もまたそういった仕事のひとつだったのだろう。
 二十代をメインターゲットにした女性誌は、キラキラした王子様とワイルドなおじさまのギャップを狙ったらしい。白いスーツを着たバーナビーとブラックスーツのワイルドタイガーが、片やお馴染みのハンサムスマイルを浮かべおり、片や挑発的で真剣な表情をしている。
 春希はソファに座りなおして、ページを捲った。
 表紙にもなっているスーツ姿でのグラビアが何枚か。
 それからその姿のままインタビューを受けているページが続く。内容はバーナビーのデビューの事や、両親の事件の事、バディを組んだ感想にジェイク事件について、と大体お決まりのパターンで質問がされていた。
 インタビューを挟んで、また別の衣装でグラビアページが続く。
 スーツ姿から一転、ラフな格好になった二人はスポンサーの商品紹介も兼ねているのだろう。いくつか見知ったアイテムを目立つように付けていたりする。
 こういう女性誌の場合は特集といっても最初の十ページほどで終わる場合が多いのだが、この雑誌は本当にがっつりと特集を組んでいた。マンスリーヒーローにも負けていないと思うくらいの特集っぷりだ。
 時々他のヒーローも申し訳程度に載っているが、もうバディヒーローまみれだった。
「おじさまより新人さんがピックアップされているのは、仕方ないとはいえちょっとムカつきますけど」
 ジェイク戦の後は虎徹のことをおじさん呼びしなくなったし、彼の半生については思うところもあるので最初の頃ほど拒絶反応は出ない。
 それでも、春希の中では虎徹一番でワイルドタイガーが最高なのでメディアの偏り方には不満があるのだ。
 ブランドもののアクセサリーを身に付けたバーナビーのページを捲って、春希は目に飛び込んできた肌色に一瞬息を飲んだ。
 この手の女性誌はまあ際どいショットもあるわけだが、これはなんというか、別の意味で際どかった。
 というか、アポロンメディアのヒーロー事業部はなぜコレにOKを出したのだろうか。もう衝撃すぎる。
「片付け終わったぞー。ってなにぷるぷるしてるんだ?」
 晩酌用に焼酎セットを持って戻ってきた虎徹に声を掛けられても、春希は返事が出来なかった。
 衝撃、というか笑撃が抜けないでいる春希は、返事をする代わりに読んでいた雑誌をちょっと持ち上げてみせた。
「うげっ。それ見つけちまったのかよ」
「……コレ、なんですの?」
 笑いで引き攣り気味の声でたずねれば、虎徹は春希の隣に座って雑誌を受け取る。
 そこには縦縞生地のビキニを履いたドヤ顔のバーナビーが写っていた。
「これなぁ……まあ仕事だったんだけどさ」
「仕事って、いっても、コレは……ッ」
 仕事ならなんでもするんですか、あのハンサムヒーローは。ああするんでしょうね、これ受けているんですから。
 そんなことも思ったが、さすがに口には出さずにおく。
「春希さぁ」
「な、なんですか?」
「コレ、そこまでウケるもん?」
 ずいっとグラビアページを突きつけられて春希は、ぶふっ、と乙女にあるまじき音で噴き出した。
「だ、だっておじさま! これ、このビキニの柄もどうかと思いますけど、なんでこんなにドヤ顔なんですの」
 ハンサムでスーパールーキーなヒーローの渾身のドヤ顔だ。春希の目にはバーナビーの後ろに『ドヤァ』と書き文字が見えるレベルである。しかもポージングも、ちょっとどうかと思いますといった感じなのだ。
 普段から女性誌というものをそこまで読むことはないが、これが世の中の女性誌における普通だというのか。
 ハンサムヒーローで売り出しているわけだから、これがアポロンのハンサム路線だとすれば春希は虎徹のためにもアポロンメディアに意見書を出した方がいいかもしれない。
 相棒がこんなビキニでドヤ顔とか、もう。
 それともこれがシュテルンビルトでのハンサム路線なのか。日本とは感覚が違うからその可能性もあるけれども。
「つっても、バニーのやつ、グラビアのときっていつもこんな感じだろ?」
 笑撃に肩を震わせている春希に、虎徹はそこまでウケてるのが不思議そうに言った。
 確かに、言われてみればそうかもしれない。
 ヒーローTV LIVEでも、他の雑誌の写真でも、大体が作った感じのわかる笑顔だのドヤ顔だのが多かった。
 つまりいつものドヤ顔に縦縞ビキニの組み合わせが、ここまでの破壊力を生み出すということだ。
「私、これでウサギさんの認識が改まったかもしれません」
 目に涙を浮かべて、春希はそう告げた。
 主にお笑い方面にだけれども、多少はマイナスのイメージが減った気がする。
「……まあ、少しでもバニーちゃんの印象が良くなってくれるなら、相棒としておじさんも嬉しいけどさー」
 嬉しいと口にするわりにどこか拗ねたような口調に、春希は笑いを堪えきれず突っ伏していた顔を上げた。
「嬉しいけど、なんですか?」
「あんまり年頃の女の子が男の裸見るとか、どうかと思うぞ」
 アヒル口でそう言った虎徹に、春希はその言葉はどうなのだろうと若干呆れてしまう。
 保護者的な意見でそう言っているだけだと思うけれど、知らない人が聞いたら嫉妬しているように聞こえるだろう。
「……それ、全国のバーナビーファンに言わないとじゃありません? というか娘さん、ウサギさんのファンじゃありませんでしたっけ?」
「やっぱそうだよなぁ……小遣いやりくりして……だぁっ! ダメだ楓っそんなのパパ許さないからなっ!」
「おじさま、落ち着いてください。流石に小学生の子が二十代向けの雑誌は買わないと思います。高いですし」
「……そう思う?」
「思います」
 きっぱりと言い切る。
 多分立ち読みするなりどうにかして買うなりするのではないか、というツッコミはなしだ。
「それに、私はウサギさんよりおじさまの方が好きですから。撮影の時のお話とか聞いてみたいのですけれど」
 雑誌のワイルドタイガーが写っているページを広げて、距離を詰めるようにくっつけば、虎徹は「お、どれどれ」といいつつページを覗く。
 それから、この写真はどうだった、とかこの衣装は大変で、といった会話で団欒の時間は過ぎていった。
 このあと数日、テレビなどでバーナビーを見るたびにビキニ姿を思い出しては笑っていたのは、バーナビーには内緒の話である。



20120826 初出
20131001 加筆修正


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