※夢主とバニーの悪友っぽい会話。「無病息災」時期で。



「せっかくの休日をもう少し有意義に使おうと思いませんの?」
 ぱちん、と板で作られた札が場に置かれる。芒(ススキ)――下側に山? 丘? ともかく知っているススキには見えない――のみが描かれている札はカス札だ。
 どうやら場に重ねる札がなかったらしい。春希は手札から場に一枚捨て、代わりに山から一枚引く。それも溜め息と共に場に置かれた。
 これで春希の今回のターンは取り札ゼロだ。
「僕の休日を僕がどう使おうと僕の勝手でしょう」
 自分のターンが回ってきたバーナビーは、自分の手札から春希が出した札に重ね置いた。
 芒に月、と呼ばれる札で芒の中で最高得点の二十点札だ。しかもこの札は二枚で一役作れるという利点もある。
 バーナビーが出した札を見た途端、春希が舌打ちした。
「女性が舌打ちは、どうかと思いますよ。行儀が悪いです」
「それは失礼しました。あなたが月を持っていくのが悪いのですわ」
 注意をするとむすっとした様子で言われた。
 別に悪いことなどしていないのだが、どうやら彼女が狙っていた札をバーナビーが取ったことで不機嫌になったようだ。
 このあたりは保護者である虎徹に似てきたと思う。長く一緒にいると夫婦でもペットでも似てくるというけれど、同居人でも似てくるものなのだと感心した。
「相手に高得点の札を渡さないのはゲームの基本でしょう」
 山場から一枚引いて――桜のカス札だった――場にあった桜の短冊札を取る。
 できれば二十点札である「桜に幕」を取って役を作りたかったが、出なかったものは仕方がない。
「それでも相手に取られればムカつくものですわ」
 春希が手札から一枚出す。
 藤に短冊、そして藤のカス札を重ねられる。
 山から一枚引いて、にまりと春希が笑った。
「……なんですか?」
「私の勝ちですわ」
 ぱちん、と場の札に重ねて置かれたのは紅葉に鹿の札だった。
「猪鹿蝶」
 役の一つでその名のとおり、猪、鹿、蝶の札を揃えて作るものだ。春希の取り札置き場には猪と蝶が揃っている。
 得点数的にはそれほど高くない。が、このゲームは役が出来ればアガることができ、アガれば勝ちだ。
「コイコイは」
「しません。あがります」
 コイコイというのは役が出来てもあがらずに次の役を作るためにゲームを続行させることをいう。
 コイコイをすれば次にどちらかが役を作るか山札がなくなるまでゲームは続くわけだ。
 当然、役はたくさん作ったほうが点が多く取れるので、コイコイで勝負する方が一ゲームの総合得点も増える。逆に役が出来た時点でコイコイをしなければ、「アガリ」となりそこでゲームは終了し、出来ている役の総得点が加えられる。
 バーナビーとしてはコイコイをして貰ったほうが自分がアガるチャンスが出来るわけだ。
「ここからが勝負じゃないんですか」
「引き際を見極めるのもゲームでしょう?」
 それはそうだ。
 こういったゲームは相手の手を読みつつ、乗るか反るかを見極めてこそである。
 今回はバーナビーの負けだった。
「仕方ありません。それで、どれにしますか?」
 たずねると春希はコタツの上に作った得点置き場に目をやって、物色を始めた。
 ゴールドのマンションに似つかわしくないコタツは、虎徹がバーナビーのマンションに持ち込んだものだ。
 年明けにオリエンタルタウンの実家から野菜などと一緒に送られてきたものらしい。それを虎徹は何故かバーナビーのところに持ち込んだ。
 持ち込まれた時は軽く喧嘩になった。その喧嘩もリビングの一角を占拠したコタツに突っ込まれたことで、バーナビーは陥落したわけだが。
 おかげでコタツを堪能するために部屋の空調を低く設定している。
 まさかここまでコタツにしてやられるとは、流石のバーナビー自身も思わなかった。コタツの魔力、恐るべしである。
 しかもそのコタツに入って、春希とやはり虎徹の実家から送られてきた花札という日本独特のカードゲームに興じることになるとは、さらに思わなかった。
「これにしますわ」
 あれこれ考えている間に貰う得点を決めたらしい。
 バーナビーの得点置き場からつるっとした光沢のリンゴを一つ取って、春希が自分の得点置き場に置いた。
 これでお互いの得点はリンゴ一つ、ミカンが三つ、餅入り最中が二つのイーブンだ。
「もう一勝負しますか?」
「当然ですわ。決着は着けませんと」
 同点のままでは終われないのは、お互い様らしい。
 と、ここでバーナビーの携帯が着信を知らせた。
「すみません」
 一言断って、バーナビーは携帯を確認する。
 メールの着信だったようで、差出人は今オリエンタルタウンにいる『鏑木・T・虎徹』からだ。
 内容は帰るのが一日早くなった。今、列車に乗ってる。そっちに着くのは夕方くらいだから。
 急いで打ったのか、淡々と短い文でそう書かれていた。
「はぁ?!」
 うっかり素っ頓狂な声をあげてしまった。
「どうかしまして?」
 新たに札をシャッフルしていた春希がバーナビーの声に驚いて、こちらを凝視してくる。
 いや、しかし、内容を見れば驚きもする。
 年明けに一足遅い里帰りをした虎徹が一日予定を切り上げてくるなど、普通なら考えられない。娘大好き人間なのだ。少しでも長く娘と一緒に居たいはずなのに。
「いえ、これ」
 メールの本文を見せると、目を丸くした春希に携帯電話をひったくられた。
 無言でメールを読んだ春希の眉間にぎゅっと小さく皺が寄る。
「おじさまってば……こういうのはもう少し早く連絡して欲しいのですけど」
 あと、どうして私にじゃなくてウサギさんになのですか。
 ぽつりと呟かれた言葉に、僅かな優越感を感じつつバーナビーは、「どうします?」とたずねる。
 虎徹が帰ってくるならば、迎えに行きたいし、夕食は豪華にしたい。
 それはバーナビーもそうだし、春希だってそう思っているだろう。
「決まってますわ。この勝負で勝った方がおじさまの迎えに。負けたほうが、夕食の準備でどうです?」
「いいでしょう。絶対に負けませんよ」
 当然のように花札を掲げた春希に、 ヒーロー出動時のような余裕の笑みを浮かべて、バーナビーは勝負を受けた。



「なかなか美味いな、このカレー!」
 満面の笑顔で特製カレーを頬張る虎徹に、春希とバーナビーは揃って胸を張った。
「当然ですわ。だって私が作ったのですもの」
「当然です。だって僕が作ったんですから」



20120813 初出
20131001 加筆修正


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