出動中に鳴った携帯電話を取ったのは、気を張りっぱなしなバーナビーの緊張が少しは解れるかと思ったからだ。現状にイライラしすぎていつもの冷静さがないと思った虎徹は、余裕を見せるためにも携帯電話を確認した。
 着信ではなくメールの受信。送り主は虎徹のところに居候をしている春希からで。送り主の名前と共に表示されたサブジェクトが『たすけて』だったことに、なにやら嫌な予感がした。慌てて本文を開く。そこにはところどころ綴りの間違った英語とローマ字表記が混ざった文が羅列していた。
 最初に書かれていたのは施設の名前。大雑把な住所、それから『強盗』『人質』と続き『拘束されている』と並んでいた。
 虎徹たちがいま膠着状態でどうにも出来ない事件現場の名前と、拘束されているという文言に顔がひきつる。
 いまあの建物の中でこの事件に春希が巻き込まれている事態に心臓が跳ねた。
 まだ中で騒ぎが起きていないことと、わざわざ虎徹宛に助けを求めたことに、自分との約束を守っているからだと心を落ち着かせる。内部で切羽詰まったことになっていれば、春希はもっと直接に動いているはずだ。なにせ、虎徹と同じで人を助けることに躊躇しない性格なのだ。
 そう考えれば、人質になっている人たちに命の危険はないのだと判断できる。
 だが、安心できる要素は少ない。
「おじさん?」
「……バニーちゃん」
「バニーじゃなくてバーナビーです」
「中の様子、わかったわ」
 そういってバーナビーに携帯の画面を向けてやる。
 胡散臭げに画面を眺めていたバーナビーの眉がぎゅっと寄った。
「これって」
「ああ、これでなんとかなるかもな」
 さすがは春希と言うべきか。数行あけて続いていたのは、虎徹たちが欲しかった内部の様子と犯人の情報だった。
 すぐさまPADからアニエスに繋ごうとして、バーナビーが難しい顔で凝視してきているのに気がついた。
「なんだよ」
「それ、本当に信用出来るんですか?」
 まったく信用できません、とわかりやすく顔に張り付けたバーナビーに虎徹は苛立つ。
「お前な。人質になってる本人が言ってるんだぞ? 信用出来るにきまってんだろうが」
「でも犯人が指示して嘘の情報を流している可能性もあります」
「はぁ? んなことしてどうすんだよ?」
「僕たちの動きを混乱させるために決まってるじゃないですか。偽情報を掴まされて突入したら、やられるのはこっちだ」
「あのなぁバニー。もし仮に犯人がそういう意図だとして、個人宛にメールさせるか? どうせやるならヒーローTV宛とかネット投稿とかにすんだろ」
 そっちのほうがどんな反応をされるかわからない個人メールより確実だ。ヒーローを陥れるにしても、メディアを煽るにしても。
 それに立て籠ってからの犯人たちは用心深いのか、手の内を一切見せていない。そんな奴らが陽動目的で手札を見せるようなマネをするとは思えない。
「もし犯人が指示したとして、春希がなんの仕込みもないメール送るわけないんだよ」
 言って、改めてメールを見る。
 箇条書きだが、不自然な改行はない。縦読み、斜め読みすることもできなそうだ。スペルの間違いも一応確認してみるが、抜き出しやシフト変換といったこともなさそうだった。
 そもそも春希はあまり英語が得意でない。母国語が日本語で日本でしか生活していなかったという春希は、簡単な単語はまだしも、長文になると読むのも書くのもさっぱりになる。雑誌を眺め読みながら「英語なんて入試が終わったら忘れるものですわ」とこぼしたのは記憶に新しい。
「大体、事態が進展しないってピリピリしてたのお前だろうが。この情報で少しは状況も変わるだろ」
「……そうですね。少なくとも動く切っ掛けはできそうです」
「かーっ! んだよその言い方っ。かっわいくねーな」
「あなたに可愛いとか言われたくありませんね」
 思いっきり嫌そうな顔をするバーナビーに苦笑を返し、呼び出し操作の途中だったPADへ指を伸ばしたところで。
[ボンジュール、ヒーロー!]
 敏腕プロデューサーのお決まりの文言が通信機から響いた。






20110824


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