陽が落ちてモニター広場にはたくさんの人が集まってきていた。
 夕方から交通規制がされ、周囲はカップルやカラフルなライトを持った人たち、家族連れ、コスプレをしている人などが溢れかえっている。シュテルンビルト中の人たちが集合しているのではと錯覚するほどだ。
 そんな人の群れに、春希もいた。
 何故かといえば年の瀬、大晦日である。
 シュテルンビルトでは、しっとりとした年越しというよりはお祭り騒ぎで新年を迎えるらしい。
 今年はシュテルンビルトの各地にヒーローが赴き、みんなでカウントダウンをする様子が生中継されるという。
そのせいか、今年は例年より人出が多いとレポーターの人が言っていた。
 それもそうだろう。
 それこそ出動中以外でヒーローを間近に見れるのはイベントくらいなのだ。ヒーローファンにすれば、貴重な機会である。中にはアイドルのコンサートかと思う装備でスタンバイしている人までいる。
 春希はそんな中、モニター前のカメラやレポーターが見える最前列にいた。
 街頭モニターも、TV局のカメラもレポーターも、ヒーローも目の前で見れる特等席だ。
 モニター広場担当はアポロンメディアの誇るバディヒーローである。
 春希が最前列にいるのも虎徹とバーナビーの計らいによるものだ。
 赤いランプがついているカメラの前で、バディヒーローとレポーターが並んでスタジオの司会役と会話を進めている。
 集まっている市民は背景扱いなので、春希から見えるのはほぼ後ろ姿のみだが、それでも年の終わりと新年の幕開けに虎徹の近くにいられるのはこの上なく嬉しい。
 衣装も普段より三割増しで華やかなのだから、尚のことだ。
「さて、もうすぐ年明けのカウントダウンとなりますが、ここでスペシャルゲストに来ていただいております!」
 レポーターの言葉に虎徹とバーナビーが揃って小首を傾げた。
 二人のしぐさに周囲から黄色い声が上がったが、番組は進行していく。
「誰でしょうね」
「この前バニーと共演した女優さんとかじゃないか?」
 などと予想している二人の後ろから一人の男が近づいていく。
「あ」
 と声を上げそうになって、慌てて口を押える。
 もしかしたらカメラにその行動が移ってしまったかもしれない。そもそも他の声に掻き消されて自分の声など、虎徹たちに届かないだろうに。
 だが、ゲストの男には聞こえたのだろう。
 チラリと目線を寄越して、唇に人差し指を当てる仕草に、春希が思ったのは「え、マジでですの?」だ。
 口を押えたまま成り行きを見守っていると、男は後ろから虎徹とバーナビーの肩に腕を回してがっちりホールドした。
「おいおい。スペシャルなゲストって言えば、俺様以外にないだろうが」
「「ライアン?!」」
 二人同時に目を丸くしてゲストの名前を呼んだ。
 まさかのゲストに周囲の歓声も一際大きくなる。モニターの向こうからも歓声が上がっているのがスピーカーから聞こえてくる。
 それもそうだろう。
 一時期バーナビーとコンビを組んでいた重力王子ことライアン・ゴールドスミス。
 シュテルンビルトでの華麗なデビュー戦、バーナビーとはタイプの違うハンサムということで短期間のうちに人気が出た彼は、あのジャスティスデー事件の後に海向こうの大富豪に呼ばれてさっさとシュテルンビルトを後にした。
 バーナビーとワイルドタイガーのコンビ復活という置き土産を残して。
 つまり、今は海の向こうにいるはずで。
「なんでここに?!」
「おま、あっちは大丈夫なのかよっ」
 現バディのふたりがライアンの登場に目を丸くして素で驚いている。
「ああ、大丈夫に決まってんだろ」
「それにしても、久しぶりですね」
「だなー。メールはしてっけどな」
「え、なにそれ。俺、聞いてないんだけどバニー」
 金髪王子ふたりの会話に、置いてきぼり感を含んだ突っ込みをタイガーがする。
 おじさま、それ本気で素に戻ってますわ。と突っ込みが入れられないのがもどかしい。
「海の向こうからスペシャルゲストとしてゴールデンライアンがきてくださいましたー」
 わちゃわちゃと遣り取りしている元を含めたアポロントリオをそのままに、リポーターが仕切っていく。
「わざわざお越しくださいましてありがとうございます」
 とスタジオの司会役がお礼をいうのに、カメラに向かってライアンがひらりと手を振った。
 それだけで、再び黄色い声があちこちで上がる。
「それでは、各地のヒーローだちと一緒にカウントダウンと行きますよー!」
 スタジオからの合図に、広場のモニターにも各地のヒーローたちとカウントダウンの秒数が表示される。
「みなさん準備はいいですね! いきますよー」
 合図とともに、スタジオとモニター広場前、それからモニター向こう、シュテルンビルト中がカウントダウンを開始した。
「10」
「9」
「8」
 モニター越しに、スカイハイが、ブルーローズが、ロックバイソンがカウントしていく。
 今年も、もうすぐ終わってしまう。
「7」
「6」
「5」
 映像が切り替わってファイヤーエンブレムが、折紙サイクロンが、ドラゴンキッドがカウント。
 もうすぐ、新しくはじまる一年がやってくる。
「4」
「3」
 ワイルドタイガーが、バーナビーが、ゴールデンライアンがカウントする声が聞こえる。
 ああ、新年を迎える地は故郷ではないけれど。
「2」
 ぐい、と手を引かれてバランスを崩す。
 転ぶように飛び込んだ先は、悪戯が成功した顔のライアンで。
 飛び込んできた春希を驚いた顔で受け止めるのは、虎徹とバーナビーで。
「1」
 シュテルンビルト中の声が重なる。
 いまさら引っ込めない春希は、バディヒーローにハグされたまま高らかに新年を祝う言葉を声にした。

「Happy New Year!!」








20141231-20150101


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