※ランチ続き



 家に帰った虎徹は荷物の片付けもそこそこに、春希を呼びつけた。
「春希ちゃん。ちょっとこっちきなさい」
 手招きする虎徹のただならぬ雰囲気を感じたのか、言われるままにソファへ座った春希を見下ろす。まっすぐに見上げてくる黒い瞳に、虎徹はどうしたものかと悩む。言いたいことも聞きたいこともたくさんある。
 なんであんなに場慣れしてるのかとか。ジャッジメントとはなんなのか。ネクストだったんだなとか。だが、そんな諸々のことよりまずは。
「なんであんなことした」
「あんなこと?」
「昼間! ファミレスで!」
「ああ。何故と言われましても…あの時はあれでベターな選択でしたわ」
 それがなにか? となんでもないことのように春希が言う。
 確かにあの時はうまくいった。あのタイミングで攻撃されれば大抵はあのときの犯人と同じく地面に沈むだろう。だが、それは普通の人間だったら、だ。
「今回はたまたま上手くいったからよかったけどな。相手がネクストだったら、どうなってたかわかんねぇんだぞ?!」
「ネクスト、が何かはわかりませんが、誰が相手でも私はああしてます」
「だからっ! ああいうのはヒーローに任せてだなぁ」
「おじさま」
 いやに静かな声で呼ばれて、虎徹はぐっと言葉を飲み込んだ。黒くて大きな瞳がまっすぐに見上げてくる。
「私は自分が出来ることがあって力及ぶなら、それを出し惜しみする気はありませんの。あの時は出来ると判断して、その通りに行動しただけですわ」
 自分のしたことは間違っていないと信じる春希の言い分に、虎徹は言葉を繋げなかった。春希の言葉は虎徹のヒーロー像に近かったから。助けられる人がいるなら全力で助ける、そんな理想のヒーローに。
 口を引き結んで春希を見下ろすだけの虎徹に、目の前の少女はへにょりと眉尻を下げて「でも」と困ったように笑った。
「おじさまが私を心配してくださっているのはわかってますから。なるべく無茶はしないようにします」
「……ヒーローが来るまで待つってのは」
「時と場合によります」
 きっぱりはっきりと言われて、虎徹はガリガリと頭をかいた。これ以上は平行線だろう。『なるべく』でも無茶はしないと言ったのだから、この少女は無茶はしないだろう。『なるべく』の範囲で。
「命の危険がない限り、あまり能力は使わないこと。ヒーローを待つこと。約束出来るか?」
「わかりましたわ」
 聞き分けのいい返事をした春希の頭を撫でて「じゃあ夕飯の支度するか」とキッチンに向かえば、後ろから乱れた髪を整えながら「手伝いますわ」と追ってきた春希に虎徹はエプロンを渡してやった。

 夕飯を食べている最中に春希がヒーローとは何か聞いてきたので、それから数時間ヒーロー談義になったのはまた別の話。





20110815


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