後悔と自己嫌悪にここまで苛まれたのは、アカデミー時代のエドワードの一件以来だった。
 あの時と同じくらいイワンは自分のダメさ加減にへこんでいた。
 エドワードの時は行動しなかったからあんなことになった。けれど今回は行動したせいで、危うくルナティック以来のヒーロー存続の危機になりそうだったのだ。不注意によるうっかりミスのせいで大規模二次災害になりかけるなんてスキャンダルもいいところだ。
 バーナビーがとっさにフォローして、さらに機転を利かせたおかげで事なきを得たが、うっかりミスをしたタイガーはこってりしぼられたらしい。
 そのミスだって、出動中に気が散ってうっかりしていたのはタイガーが悪いと言われればそうかもしれない。けれど気を散らせる原因を作ったのはイワンなのだ。
 でも言い訳するなら、イワンとて困らせたり悩ませたりするつもりは微塵も無かった。
「タイガーさんなら知っていると思ったんです」
 身を縮こまらせてイワンは言った。
 対面で座るバーナビーが眼鏡を光らせながら、なるほど、と頷いた。
 ジャスティスタワーにあるヒーロー専用施設のラウンジには、今イワンとバーナビー以外にいない。それがイワンにとって良いのか悪いのか分からないまま、目の前のバーナビーを見つめるしか出来ない。
 イワンのせいでタイガーがミスをした結果、一番迷惑を被ったのがバーナビーだからだ。
 罵られることはないだろうけれど、イワンの印象が悪くなったには違いない。ただでさえ見切れる以外、大して活躍していないのだ。せめて余計な事をせず見切れてろと思われても当然だ。
「……本当に申し訳ないです」
「いえ、イワン先輩は悪くありません。そんなことであそこまでの大ポカをやらかした虎徹さんが全部悪い」
「違いますっ」
 きっぱりはっきり言い切ったバーナビーに、イワンはぶんぶんと首を振った。
 ワイルドタイガーだけが悪者にはならない。そういう問題ではないのだ。
「僕がタイガーさんに言う前に春希さんに確認していれば良かったんですっ」
 そうすればタイガーと春希がケンカをすることはなかった。ケンカをしなければタイガーがミスをすることもなかった。
「今更タラレバを口にしても仕方がありません。それにあの二人の間で秘密にしていることがあるなんて、普段の二人を知っていれば早々思いませんし」
 そうなのだ。
 バーナビーも言うように普段の二人を知っていれば、バイトをしていることを隠しているなどと思わない。
 もちろん、どんなに仲がいい家族でもまったく秘密がないとは思っていない。
 まして片や守秘義務の多いヒーロー業、片や訳ありの同居者ともなれば秘密がないほうがおかしいのはイワンだって承知の上だ。
 けれども、まさか春希がバイトをしていることを秘密にしているとは。
「それにあの辺りは治安も悪いですし、最近は事件も頻発しています。イワン先輩が心配するのも無理はありません。見掛けたのが僕でも虎徹さんに言ってました」
「そんなっ。バーナビーさんならもっと上手くやっていたと思います!」
「そうでしょうか。僕と彼女、馬があわないんで多分もっと面倒なことになっていたと思いますけど」
 バーナビーが少しだけ困ったような顔をした。
「それにどうせ、いつかはバレて同じことになってましたよ。まあタイミングは悪かったですが」
 そう言われればイワンには否定が出来ない。
 確かにこのタイミングでイワンが言わなくとも、別の機会に言っていたかもしれない。あの日春希を見掛けたのがたまたまイワンだっただけで、他の人が見掛けてタイガーに伝えていたかもしれない。秘密はいつまでも秘密には出来ないのだ。
 ファイヤーエンブレムやロックバイソンにも同じことを言われていた。
「それで、先輩はどうしますか」
「え?」
「僕相手に反省とか懺悔とかしたかっただけじゃありませんよね」
 ニコリと擬音をつけて浮かべられた後輩のハンサムスマイルに、背中といわず全身の毛穴が開いた気がした。
 冷や汗が噴き出す。
 ここでとりあえず謝りたかったんです、などと口にすれば強力な蹴りをお見舞いされそうな雰囲気だ。もちろんそれだけで済ますつもりはないので、イワンは震えながらもバーナビーをしっかりと見つめかえす。
「タイガーさんと春希さんが仲直りできるようにしたいので、バーナビーさんにも協力して頂きたくっ!」
「……仕方ないですね。二人がすれ違ったままだと仕事に支障が出ますし。虎徹さんの方は年長組が発破かけてるみたいなんで、僕らは春希さんの方をなんとかするということで」
「忝ないでござるっ!」
 椅子にテーブルだったのでジャパニーズドゲザは出来なかったものの、テーブルに額を打ち付けんばかりの勢いでイワンは頭を下げた。




20120717


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