ブロンズステージの一画。少し奥まったところにある古びたビルの壁を、東雲春希はこれでもかというくらい睨みつけていた。
 正確には目の前の薄汚れた壁に貼られている雨風に晒されてよれた紙を。
 張り紙はいわゆる求人情報というやつで、ようよう読み慣れてきた英語で書かれたそれを上から下まで舐めるように読み下る。もうこれで六回目だ。内容はほとんど覚えてしまった。
『ホールスタッフ募集 女の子18歳以上30歳まで 研修期間1ヶ月 時給15$(研修期間中は10$) 短期・長期問わず 特別ボーナス有 簡単な面接をします』
 そう書かれた紙の下側は人事担当者の連絡先が千切って持っていけるようになっている。その連絡先の部分を取るか取らないかで、かれこれ三十分以上は悩んでいる。
「ネックは、年齢なのですわよねぇ」
 接客業務は嫌いではない。人当たりの好さはどうかわからないけれど、たぶん大丈夫なはずだ。覚えのよさは自信がある。問題は年齢だった。二歳くらいサバを読んでもいい。しかし、純粋に日本人である春希の見た目はシュテルンビルトでは、どうしても実年齢より下に見られる。年齢確認をされてしまうとボロが出るどころか身分証明証がないので不法滞在者扱いになってしまう。そうなっては親切にも春希を置いてくれている保護者に迷惑がかかってしまうのだが、いい加減無一文なのも遠慮したかった。
「ダメモト、ですわよね」
 いざとなったら逃げればいい。
 そう考えて、春希は短冊状になっている連絡先のひとつを千切ってポケットに突っ込んだ。



20120119


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