俺はずっと灰色の世界で生きていた。体の機能はいたって良好で、視界は色を映しているのに、何時だって俺の世界は灰色で、生きてる実感なんか無かった。ただ、生死を賭けた戦場と流れる紅だけが俺の世界に刹那の色を与えてくれる。
「た、助けてくれぇ!」
 腰を抜かした男が、それでも逃げようともがきながらみっともなく命乞いをするのを、刃で黙らせた。赤い飛沫が刃と俺の体を濡らす。
「…足りない」
 戦と聞いてわざわざ出向いたというのに、これでは単なる殺戮だ。染まった世界は瞬時に色を沈め、渇きが満たされるどころか胸くそ悪い。
「(やはりこの程度の軍では役不足か…)」
 今川や北条の軍は兵の数はそれなりだが、数だけで質は良くなかった。大将からして他力本願。
 分かってはいたが、他の――それなりに勢力のある国は、互いに動向を窺っていてドンパチやり合うまでに至っていない。もっとも、この戦で何かしら動きがあるだろう。
 早いところ大きな戦が起きて欲しいが、かといって自分から戦を仕掛ける気は更々ない。戦を起こすには、俺に大義名分がないからだ。天下とか、未来とか、時代とか。そういうものを掲げられるような人間じゃないことは自分がよく分かっている。
 刃に付着した血を払い落とし、武器を腰に戻そうとして…やめた。
 馬蹄と嘶きが聞こえた。少なくとも商人が使うような馬ではない。音が違う。戦場を駆けるための武装の音と乗っている人間が纏う武具の音が混じっている。俺は武器を持ったまま、じっと近付いてくる騎馬を見る。
 掲げられている旗印は、風林火山と六文銭。
 あの旗印は知っている。あの風林火山は甲斐の虎・武田信玄の、そして六文銭は虎の若虎・真田幸村のものだ。ということは、近付いてきている騎馬は真田幸村率いる武田騎馬隊か。


「我が名は真田源二郎幸村!」


 猛々しい名乗りの声が彼岸の大地に響き。
 紅い焔が俺の世界を鮮やかに染め上げた。







に染まる灰色世界









(嗚呼…求めたイロが今、目前に)









20110310



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -